第9話 ユージンへの母心。
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翌日。
朝食をしっかり摂った私は、ようやく人間らしい気分を取り戻していた。
そういえばお父様、ぐぬぬ、とか言いながら、理由も言わず慌てて家を飛び出していったわね。
何かあったのだろうけど、今の私はそんなことを気にしている場合ではなかった。
何しろこの後、第二皇子殿下との謁見を控えているのだから。
◇
私はエルミナと共に、皇宮へ向かう馬車から窓の外を眺めていた。
頭に浮かぶのは、息子――ユージンのこと。
今のあの子は、私より三歳も上なのよね。
もう少し丁寧な言葉遣いをした方がいいのかしら。
でも、昨日あんな醜態を晒してしまったし、今更取り繕うのも白々しいかなあ。
年頃の男子ってどうやって接すればいいんだろ?
……と、ここまで考えて、自分の頭の中がユージンで満ちていることに気づく。
これから殿下にお目にかかるというのに。
――まったく。母親みたいだと思う。
いや、本当に母親なんだけど。
前世では。
◇
リオーネの民は、魔力を持たない。
前世では、その理由の手がかりさえ掴めなかった、この事実。
魔法は軍事において最もその力を発揮する。
敵を討つための攻撃魔法。
味方へのサポートを行う補助魔法や、負傷などを治す回復魔法。
そして情報のやり取りや各種の調査、時に諜報にまで用いられる逓信魔法など、その用途は多岐にわたる。
当然ながら、これらは基本、魔力を持つ者にしか扱えない。
そのため、前世での帝国との戦いでは、常に苦労を強いられていたことを私は思い出していた。
そもそも魔力とは、当初は単に軍人としての適性を表すものに過ぎなかった。
だがそれはやがて、持たざるものに対する差別を正当化する存在へと変わっていく。
帝国において魔力の有無は、人の価値を測る指標としての役割を持ってしまったのだ。
「……辛いだろうな、ユージン」
私が呟くと、エルミナは何かを察したようにうなずく。
「アリシア様、心配のしかたが母親目線っぽいっすね」
「そうね。魔力がないというのは、かつてのリオーネ王国ならともかく、帝国貴族としては致命的だわ」
……ん? 母親目線っぽい?
まずいな、エルミナの前ではつい気が緩んでしまう。
「いやいや、一応の婚約者として率直に思っただけよ。他意はないの」
「いいじゃないっすか、母親目線。庇護欲も愛情の一つですよ」
「え? そ、そうかしら」
エルミナの言葉に、つい頬が緩む。
「息子を守るのは母親として自然な……。あ、いえ、公爵令嬢として当然の責務、よね!?」
「それはアリシア様も――」
私の言葉に応えようとしていたエルミナが、不意に表情を戻した。
「あ、いえ、何でもないっす」
彼女はそう言って、頭を下げる。
彼女のその先の言葉は分かってる。
私の中にも、魔力は宿っていない。
「……いいのよ、エルミナ。自分で分かってるから。ユージン様は私に気兼ねする必要はないのに、って思っただけ」
魔力を持たない同士なら、お互い気にしなくてもいいのだから。
◇
ふと窓の外を見ると、華美な装飾はないものの、重厚な雰囲気の建物が見えてきた。
皇宮の脇に併設された騎士団の寮。
若い貴族子弟たちが訓練に励む場所――そして、王族に認められた者たちの社交場でもある。
あそこにユージンがいるのね。
ひと目でも息子が見えないかしら、と寮を凝視していると。
馬車が石畳の道を進むにつれ、寮の奥にある庭の一角が窓越しに見えてきた。
その裏庭には、数人の若い騎士たちが集まっていた。
その顔つきには、誰かを嘲る色がはっきりと浮かんでいる。
そして、その中心にいたのは。
――ユージン?
「ちょ、馬車を止めて!」
思わず声が裏返る。
御者が慌てて手綱を引き、馬車がきしむ音を立てて止まった。
「ア、アリシア様!」
車室を飛び出した私に、後ろからエルミナの驚く声が聞こえる。
ドレスの裾を翻しながらその場所へ向かう。
シンプルな作りのおかげで、意外と走りやすい。
今だけは、ケチな両親に感謝だ。
運動不足の私の身体が悲鳴を上げているが、そんなことは気にもならない。
私は、ユージンの元へと一心不乱に駆けていく。
ウチの子に、何してくれちゃってるのよ!
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。
明日も二話掲載です。




