第8話 じゃない方の令嬢と、第二皇子の召喚状。
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今日も二話掲載です。
「……エ、エルミナ。どうして分かったの」
恐る恐る問いかけると、エルミナは満面の笑みで応えた。
「そりゃあ、分かりますって。騎士様との面会からずっと、まるで別人が乗り移ったかと思ったっすよ」
あ、ああ。
《《まるで》》かあ。
ものの例えで言ってくれたのね。
「……理由は色々あるのかとは思いますが」
一呼吸置いて、エルミナは柔らかく続ける。
その声は、少しだけかすれていた。
「アリシア様の元気なお姿を久しぶりに見られて、本当に嬉しいんです、私」
……昔から人を見る目が鋭いのよね、エルミナは。
そう思うと、彼女との時間がふと頭をよぎる。
彼女と出会ったのは――私が3歳の時だった。
◇
「初めまして、アリシア様。私はエルミナ・ロゼッティと申します。今日からお嬢様のお世話係を、精一杯務めます」
彼女は代々諜報に長けたロゼッティ子爵家の出身で、当然ながら彼女自身にも十分な魔力が備わっている。
そんなエルミナは、魔力なしの私を蔑むことなく接してくれた。
幼かった私は、少しだけ年上の彼女を姉のように慕っていたのだ。
今でもその気持ちは変わらない。
そして、妹のセリーヌが生まれ、私が10歳の時――
「アリシア、お前は私の影となり、領地の運営を行いなさい」
そう、父から命ぜられた。
以前から求められていた私の領地運営の判断が、想像以上に評価されていたのだ。
――本来ならば、父から認められた喜びで目を輝かせたかもしれない。
でも、その時の私は分かっていた。
父には私への愛情どころか公爵としての矜持すらなく、ただ特権だけを享受したいが為の命令だったことを。
「魔力も、女としての魅力もない。誰が貴方を選ぶものですか」
母の嘲る言葉。
「だからせめて、この家を陰から支えなさい」
その日から、私の役割は決まった。
レオニエル公爵家の『影』として生きることを。
対して、美しさと強い魔力を持つセリーヌは、両親に溺愛されていた。
三人で笑い合う姿を、独り廊下から見ていた私は悟ったのだ。
――私は、要らない子なのだと。
そして私は、レオニエル公爵家の『じゃない方の令嬢』になった。
◇
「……もしかして、セリーヌ様のこと、気にされてます?」
エルミナの言葉に、ふと我に返る。
「どうしてそう思ったの?」
「いや、ブレスレットをずっと触ってたんで。セリーヌ様とお揃いのやつ」
彼女に言われて、改めて左腕のブレスレットに目を落とす。
私が身につけている唯一のアクセサリー。
これ以外のアクセサリーを持つことは、母から禁じられている。
彼女曰く『無駄』なのだそうだ。
――これはまだ、私とセリーヌが一緒に遊ぶような年頃だった時、王都の宝飾店でお互いにプレゼントしあったお揃いのブレスレット。
あの頃はお互い面倒なことを考えず、エルミナと一緒に三人で仲良く遊んでたな。
いつからか、セリーヌがこのブレスレットを着けているのを見なくなったけど。
「んー。あの頃は平和だったって思ってたの」
彼女は私の言葉に、少し時間をおいてから応える。
「……私は、いつでもアリシア様の味方っすからね。せいぜい笹舟にのった気持ちでいてください」
「笹舟って……。いくら何でもちょっと頼りなさ過ぎない?」
「今の私にはそれが精一杯っす」
エルミナの冗談に、つい私は吹き出す。
彼女は私を心配するとき、こんな冗談を言って私の肩の力を抜いてくれる。
前世の記憶を思い出す前から、彼女の気遣いが本当に心地よい。
『じゃない方の令嬢』になった後、彼女は様々な方面に手を回してくれた。
そのおかげで今も、こうして私個人に仕えてくれているのだ。
エルミナに前世の記憶を思い出したことを言うべきか一瞬悩む。
けど、今はこの件で変に彼女を混乱させたくはない。
もう少し、ユージンのことや第二皇子の思惑がハッキリしてからにしよう。
その時、ドアを叩く音が響いた。
「失礼します」
入ってきたのは、館付きの執事だった。
「アリシア様。第二皇子殿下より書状が届きました」
「殿下から?」
私は封を切り、中の書状に目を通した。
エルミナが心配そうに私を見る。
「……明日、王宮へ出頭せよ、ですって」
これはまた、ずいぶんとタイミングのいいことね。
願ったり叶ったりだわ。
最初から不思議だったこの婚約。
殿下が何故決めたのか、改めて伺うことができる。
それに、彼の思惑も。
それらを知ることができれば、こちらも動きやすくなる。
「殿下からの召喚状? そのまま捕まっちゃうとか?」
エルミナの冗談に、私は苦笑する。
「そうね、捕まる前に、髪ぐらい整えておかなくちゃ」
「……あのー、冗談っすからね?」
「私もよ」
二人で顔を見合わせて、笑う。
明日は――ユージンを守るための方針を決める、大切な日。
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。




