第10話 風が、鳴った。
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やがて近づくにつれ、彼らのやりとりが私の耳に入ってくる。
「おいおい、『亡国の遺児』様。まだ見習い騎士のままなのか?」
「五年も寮にいて従騎士から昇格なしって、ある意味才能だよな」
「そりゃ仕方ねぇよ。魔力ゼロの元王子なんて、一緒に居たらこっちまでバカにされちまう」
嘲笑まじりの侮蔑。
ユージンは表情を変えず、その悪意を聞き流していた。
まるで、いつもの習慣であるかのように。
私は湧き上がる怒りをそのままに、彼らの輪の中へずかずかと入っていった。
「……はーっ、はーっ。あ、あなたたち……」
しまった。今は脆弱な身体だというのが頭から抜けてた。
息が切れて、まともに声を出せない。
私の突然の登場に、唖然とする彼らを睨みつけながら息を整える。
………よし。
喋れるくらいには息が整った。
同時に、相手につかみかからんばかりの怒りも落ち着いていた。
「アリシア様……」
驚きつつも、心配そうな表情で私に声をかけるユージンを手で制し、彼らの前へと躍り出る。
「……あなたたち、こんな所で何をなさっているの?」
その言葉に、ハッと我に返ったように騎士達が言葉を放つ。
「おや?『じゃない方』のレオニエル公爵令嬢じゃあありませんか。どうかなさいましたか?」
「我々は、無能な同僚に世間というものを教えているだけですよ、『亡国の遺児』の婚約者様」
彼らは、自分たちの放った言葉に乗せて、私を小馬鹿にするように笑った。
「言葉を慎みなさい。どこの家の者かは知りませんが、騎士の誇りを忘れたわけではないでしょう?」
静かに、たしなめるように告げたつもりだった。
だが、その穏やかな物言いが、かえって彼らの神経を逆なでしたらしい。
「あんたに説教される謂れはないね。聞いたぜ? あんた、魔力がないんだってな」
「……誰に聞いたのですか?そんな噂」
私の問いかけに、一層の嘲笑が広がる。
「誰?だってよ!あんた、そんなことも知らないのか」
「やっぱり『じゃない方』はそれなりの扱いなんだな、哀れなもんだ」
彼らの含みのある言葉に、嫌な予感が頭をよぎる。
まさか……。
「あんたの親父殿だよ。こないだのパーティで嘆いてたってさ!」
「それに比べてセリーヌ様はいい女だって!ウチのパパが言ってたよ」
「貴族のくせに魔力ゼロ?帝国貴族の恥さらしだ。さぞやレオニエル公爵もお嘆きだろうさ」
吐き気を催すような笑い。
貴族が持つ、悪い成分だけを煮詰めたような言葉の数々。
……そう、父自ら吹聴していたのね。
私に魔力がないってこと。
ユージンとの婚約のタイミングに合わせたのは、これで私を厄介払い出来ると思ったのだろう。
今まではレオニエル公爵家を守るために秘匿していたけど、もうその必要もないと踏んだのでしょうね。
――呆れてものも言えないわ。
でもまあ、これを聞いてユージンが少しでも楽になればいい。
ここで私が暴れる必要はない。
そう思った私は、彼らに微笑みを返した。
「……恥かどうかは、周りが決めることではないわ」
私の反論に、彼らの笑い声が更に大きくなる。
もう、これ以上は意味がない。
ユージンを連れてこの場を去ろうと思った瞬間。
「魔力なしの無能同士、お似合いのカップルだ」
その言葉に、私の心がざらついた。
私のことはいい。
ユージンが、無能ですって?
胸の奥が、じわりと熱くなる。
怒りが、身体の芯から静かに湧き上がる。
――熱い。
でもこれは、感情だけの熱ではない。
心の奥底で、何か見えないものがゆっくり膨らむような感覚。
そして、空気がわずかに揺れた気がした。
これは――何?
疑問が浮かぶのと同時に、かつての女王としての冷徹さが私を包み込もうとする。
二つの感情が、身体の中で静かに渦を巻く。
この熱を解き放ったら――
そう思った瞬間。
風が、鳴った。
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。
次回も二話掲載予定です。




