表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私に婚約破棄を告げたのは前世の息子でした ~冷血女王、今世は過保護ママになります!~  作者: 森下ヱンジン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
10/23

第10話 風が、鳴った。

本日もお越しいただきありがとうございます。

 やがて近づくにつれ、彼らのやりとりが私の耳に入ってくる。


「おいおい、『亡国の遺児』様。まだ見習い騎士のままなのか?」


「五年も寮にいて従騎士から昇格なしって、ある意味才能だよな」


「そりゃ仕方ねぇよ。魔力ゼロの元王子なんて、一緒に居たらこっちまでバカにされちまう」


 嘲笑まじりの侮蔑。

 ユージンは表情を変えず、その悪意を聞き流していた。

 まるで、いつもの習慣であるかのように。

 

 私は湧き上がる怒りをそのままに、彼らの輪の中へずかずかと入っていった。


「……はーっ、はーっ。あ、あなたたち……」


 しまった。今は脆弱な身体だというのが頭から抜けてた。

 息が切れて、まともに声を出せない。

 

 私の突然の登場に、唖然とする彼らを睨みつけながら息を整える。


 ………よし。

 喋れるくらいには息が整った。

 同時に、相手につかみかからんばかりの怒りも落ち着いていた。


「アリシア様……」


 驚きつつも、心配そうな表情で私に声をかけるユージンを手で制し、彼らの前へと躍り出る。


「……あなたたち、こんな所で何をなさっているの?」


 その言葉に、ハッと我に返ったように騎士達が言葉を放つ。


「おや?『じゃない方』のレオニエル公爵令嬢じゃあありませんか。どうかなさいましたか?」


「我々は、無能な同僚に世間というものを教えているだけですよ、『亡国の遺児』の婚約者様」

 

 彼らは、自分たちの放った言葉に乗せて、私を小馬鹿にするように笑った。


「言葉を慎みなさい。どこの家の者かは知りませんが、騎士の誇りを忘れたわけではないでしょう?」


 静かに、たしなめるように告げたつもりだった。

 だが、その穏やかな物言いが、かえって彼らの神経を逆なでしたらしい。


「あんたに説教される謂れはないね。聞いたぜ? あんた、魔力がないんだってな」


「……誰に聞いたのですか?そんな噂」


 私の問いかけに、一層の嘲笑が広がる。


「誰?だってよ!あんた、そんなことも知らないのか」


「やっぱり『じゃない方』はそれなりの扱いなんだな、哀れなもんだ」


 彼らの含みのある言葉に、嫌な予感が頭をよぎる。


 まさか……。


「あんたの親父殿だよ。こないだのパーティで嘆いてたってさ!」


「それに比べてセリーヌ様はいい女だって!ウチのパパが言ってたよ」


「貴族のくせに魔力ゼロ?帝国貴族の恥さらしだ。さぞやレオニエル公爵もお嘆きだろうさ」


 吐き気を催すような笑い。

 貴族が持つ、悪い成分だけを煮詰めたような言葉の数々。


 ……そう、父自ら吹聴していたのね。

 私に魔力がないってこと。

 

 ユージンとの婚約のタイミングに合わせたのは、これで私を厄介払い出来ると思ったのだろう。


 今まではレオニエル公爵家を守るために秘匿していたけど、もうその必要もないと踏んだのでしょうね。


 ――呆れてものも言えないわ。


 でもまあ、これを聞いてユージンが少しでも楽になればいい。


 ここで私が暴れる必要はない。

 

 そう思った私は、彼らに微笑みを返した。


「……恥かどうかは、周りが決めることではないわ」


 私の反論に、彼らの笑い声が更に大きくなる。

 

 もう、これ以上は意味がない。 

 ユージンを連れてこの場を去ろうと思った瞬間。


「魔力なしの無能同士、お似合いのカップルだ」

 

 その言葉に、私の心がざらついた。

 

 私のことはいい。

 ユージンが、無能ですって?


 胸の奥が、じわりと熱くなる。

 怒りが、身体の芯から静かに湧き上がる。


 ――熱い。

 でもこれは、感情だけの熱ではない。

 心の奥底で、何か見えないものがゆっくり膨らむような感覚。


 そして、空気がわずかに揺れた気がした。


 これは――何?


 疑問が浮かぶのと同時に、かつての女王としての冷徹さが私を包み込もうとする。

 二つの感情が、身体の中で静かに渦を巻く。


 この熱を解き放ったら――


 そう思った瞬間。


 風が、鳴った。

お読みいただきありがとうございます。

今回のお話の中で、何か心に残るものがありましたら嬉しいです。

続きが気になると思っていただけましたら、リアクション・感想・ブクマなどで応援いただけると励みになります。

それでは、明日20時30分にお会いしましょう。


次回も二話掲載予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ