第11話 やっちゃえ騎士道。
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張り詰めた空気が、一拍置いて弾けるような音がした。
その場にいた誰も、一瞬何が起きたのか理解できなかっただろう。
――ただ一人を除いて。
視界の端を、影が走る。
「……ユージン様!」
私が声を上げた次の瞬間、私の前にいた三人の騎士がほぼ同時に膝をついた。
残りの者達は硬直したまま、息をのむ。
ユージンは剣を抜いてもいない。
ただ踏み出した足と、彼の軌跡が空気を切り裂いただけ。
彼は巧みな動きで、あっという間に三人の足を払ったのだ。
騎士団寮の中庭に、静けさが響く。
「――淑女への侮辱は許さない。それが騎士道ではないのですか」
声が微かに震えているのは怒りだろうか。
この子が大切にしている想いを垣間見たような気がした。
さっきまで胸の中にあったどす黒い感情や『何か』が、いつの間にか溶けている。
息子の勇姿を目の当たりにして、ただ静かに私は息を吐く。
「ユージン様」
私が名を呼ぶと、彼は振り向いた。
周囲の騎士たちは、呆然と立ち尽くしている。
「――手荒な場をお目にかけてしまい、申し訳ございません。この者らの貴方に対する数々の暴言、心を抑えられませんでした」
それが騎士道精神に基づいたものか。
私が侮辱された事に対するものか。
……答えを出す必要はないかな。
私は彼に微笑む。
「彼らの言った通り、私にも魔力はありません。だから、そのことは気にしないでくださいませ」
ユージンは驚きの表情を残しながら沈黙する。
きっと、私に何と声をかけたらいいのか分からないだろう。
「――今から第二皇子殿下にお目にかかるの。その後、お話をしたいのだけれど」
私の声にはっとした表情を見せた彼は、少し頬を紅潮させながら頷く。
「承知しました。今日は非番なので、ご用がお済みになられたらお声がけください」
ユージンの返答を聞き、私は彼に背を向ける。
すると、そこには心配そうな表情でエルミナが佇んでいた。
彼女に近づきながら、ふと自分の手のひらを見る。
さっきの感覚は、すでに消えている。
まるで夢でも見ていたかのように。
「心配かけたわね、エルミナ」
「……こういう時は、私を先に行かせるよう命令してください。っす」
いつになく低い声。
とってつけたような『っす』。
「エルミナ、……怒ってる?」
私の言葉に、彼女は一瞬何かを言いかけたが、すぐに穏やかな微笑を浮かべ、軽いため息をつく。
「ここは、喜んだ方が良さそうっすね。昨日からどんどんアグレッシブになるアリシア様を見てると、私も母親目線になるっすよ」
彼女の言葉に、鼻の奥がツンとなる。
「ごめんなさい」
身近過ぎて日頃は気づかない、大切な人が私にはいる。
◇
私たちは馬車に乗り、皇宮へと向かう。
「しっかし、凄い動きでしたねえ、あのお方。」
「ね。ユージン様の素晴らしさを話では聞いてはいたけど、正直、想像以上だったわ」
言った瞬間、なんだか急に照れくさくなって、慌てて態度を変える。
「も、もっとも。騎士団の一員ならあれくらいの動き、当然ではないのかしら」
「いやいや、あれはシャレになってないっす。周りの騎士の方々も唖然としてましたし」
「それは、周りの方々が鍛錬を怠っているのでしょう」
「アリシア様」
「なに?」
「……めちゃめちゃ、顔がニヤけてるっす」
「…………」
◇
皇宮の一角、第二皇子殿下の執務室前。
扉の両脇には近衛兵が二名、無言で立っていた。
彼らは私に気づくと、扉に向かって声をかける。
「レオニエル公爵令嬢、アリシア様がお見えです」
すぐに、扉の向こうから声が返ってくる。
「入ってくれ」
兵士が扉を開き、私は軽く一礼して中へ進む。
背後でエルミナは控えの姿勢を取り、扉の外に留まった。
ユージンのために、いまの私ができること。
ここで迷ってはいけない。
私は息を整え、殿下の待つ執務室の中へと歩みを進める。
殿下は執務机から顔を上げ、私に声をかける。
「やあ、よく来てくれた」
柔和な表情で私をねぎらう第二皇子殿下は、皇子というより、学者を彷彿させる風貌だった。
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。
次回も二話掲載予定です。




