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私に婚約破棄を告げたのは前世の息子でした ~冷血女王、今世は過保護ママになります!~  作者: 森下ヱンジン


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11/22

第11話 やっちゃえ騎士道。

本日もお越しいただきありがとうございます。

 張り詰めた空気が、一拍置いて弾けるような音がした。

 その場にいた誰も、一瞬何が起きたのか理解できなかっただろう。


 ――ただ一人を除いて。


 視界の端を、影が走る。


「……ユージン様!」

 

 私が声を上げた次の瞬間、私の前にいた三人の騎士がほぼ同時に膝をついた。


 残りの者達は硬直したまま、息をのむ。

 ユージンは剣を抜いてもいない。


 ただ踏み出した足と、彼の軌跡が空気を切り裂いただけ。


 彼は巧みな動きで、あっという間に三人の足を払ったのだ。



 騎士団寮の中庭に、静けさが響く。

 

「――淑女への侮辱は許さない。それが騎士道ではないのですか」

 

 声が微かに震えているのは怒りだろうか。

 この子が大切にしている想いを垣間見たような気がした。

 

 さっきまで胸の中にあったどす黒い感情や『何か』が、いつの間にか溶けている。

 息子の勇姿を目の当たりにして、ただ静かに私は息を吐く。


「ユージン様」


 私が名を呼ぶと、彼は振り向いた。

 周囲の騎士たちは、呆然と立ち尽くしている。


「――手荒な場をお目にかけてしまい、申し訳ございません。この者らの貴方に対する数々の暴言、心を抑えられませんでした」


 それが騎士道精神に基づいたものか。

 私が侮辱された事に対するものか。


 ……答えを出す必要はないかな。


 私は彼に微笑む。


 「彼らの言った通り、私にも魔力はありません。だから、そのことは気にしないでくださいませ」

 

 ユージンは驚きの表情を残しながら沈黙する。

 きっと、私に何と声をかけたらいいのか分からないだろう。

 

「――今から第二皇子殿下にお目にかかるの。その後、お話をしたいのだけれど」

 

 私の声にはっとした表情を見せた彼は、少し頬を紅潮させながら頷く。


「承知しました。今日は非番なので、ご用がお済みになられたらお声がけください」


 ユージンの返答を聞き、私は彼に背を向ける。

 すると、そこには心配そうな表情でエルミナが佇んでいた。


 彼女に近づきながら、ふと自分の手のひらを見る。

 さっきの感覚は、すでに消えている。

 まるで夢でも見ていたかのように。


「心配かけたわね、エルミナ」


「……こういう時は、私を先に行かせるよう命令してください。っす」

 

 いつになく低い声。

 とってつけたような『っす』。

 

「エルミナ、……怒ってる?」


 私の言葉に、彼女は一瞬何かを言いかけたが、すぐに穏やかな微笑を浮かべ、軽いため息をつく。


「ここは、喜んだ方が良さそうっすね。昨日からどんどんアグレッシブになるアリシア様を見てると、私も母親目線になるっすよ」


 彼女の言葉に、鼻の奥がツンとなる。


「ごめんなさい」

 

 身近過ぎて日頃は気づかない、大切な人が私にはいる。

 

 ◇

 

 私たちは馬車に乗り、皇宮へと向かう。


「しっかし、凄い動きでしたねえ、あのお方。」


「ね。ユージン様の素晴らしさを話では聞いてはいたけど、正直、想像以上だったわ」

 

 言った瞬間、なんだか急に照れくさくなって、慌てて態度を変える。

 

「も、もっとも。騎士団の一員ならあれくらいの動き、当然ではないのかしら」


「いやいや、あれはシャレになってないっす。周りの騎士の方々も唖然としてましたし」


「それは、周りの方々が鍛錬を怠っているのでしょう」


「アリシア様」


「なに?」


「……めちゃめちゃ、顔がニヤけてるっす」


「…………」

 

 ◇

 

 皇宮の一角、第二皇子殿下の執務室前。

 扉の両脇には近衛兵が二名、無言で立っていた。

 

 彼らは私に気づくと、扉に向かって声をかける。


「レオニエル公爵令嬢、アリシア様がお見えです」


 すぐに、扉の向こうから声が返ってくる。


「入ってくれ」


 兵士が扉を開き、私は軽く一礼して中へ進む。

 背後でエルミナは控えの姿勢を取り、扉の外に留まった。

 

 ユージンのために、いまの私ができること。

 ここで迷ってはいけない。

 

 私は息を整え、殿下の待つ執務室の中へと歩みを進める。


 殿下は執務机から顔を上げ、私に声をかける。


「やあ、よく来てくれた」


 柔和な表情で私をねぎらう第二皇子殿下は、皇子というより、学者を彷彿させる風貌だった。

お読みいただきありがとうございます。

今回のお話の中で、何か心に残るものがありましたら嬉しいです。

続きが気になると思っていただけましたら、リアクション・感想・ブクマなどで応援いただけると励みになります。

それでは、明日20時30分にお会いしましょう。


次回も二話掲載予定です。

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