第6話 アリシア、大いに怒る。
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本日も二話掲載です。
ホールに着くと、家族はすでに食堂へ向かっていた。
私は後ろから、静かについていく。
彼らは呼び出した私を待たない。
これも、いつもと同じ。
――相変わらずだこと。
私は内心で、やれやれとため息をつく。
食堂に入ると、三人はすでに席へとついていた。
父は上座。その隣に母。
向かい側にセリーヌ。
そして、私の席は――ない。
私はいつものように、セリーヌの背後に立つ。
まるで、給仕する召使いのように。
しばらくして、食事が運ばれてくる。
「……さて、それでは始めるぞ」
父の声を合図に、三人は食事を始める。
私は黙って、その光景をただ見つめる。
彼らの食事が終わるまで、ここに立ち続ける。
そして三人がこの場を立ち去った後、私はその残りをいただく。
ときに、何も残らない日がある。
そんな日は、もちろん食事は抜きのまま。
もちろん、他の執事やメイドは無関心だ。
それが、『影』としての役割。
◇
「ところでアリシア、お前の婚約相手のことだが」
食事を始めて間もなく、父が不意に声をかけた。
「かつてのリオーネ王国の遺児だそうだな。魔力を持たぬ、あの地方の」
父は、私が返答する間を与えず言葉を続ける。
「いやいや、魔力なき者同士、お似合いじゃないか」
父の嘲笑に、母も同意する。
「そうですわね。どちらにせよ、この家を継ぐのはセリーヌよ」
母は一度ナプキンで口を拭いた後、私をにらむ。
「魔力を持たぬ血筋なんて……聞くだけでうんざり。せいぜい帝室に恩を売って、さっさと向こうの家へお入りなさい」
「第二皇子殿下のご意図は計りかねるが、これで改めて帝室に恩を売れた。アリシア、お前も少しは役に立ったな」
二人の話に私が黙っていると、セリーヌが無邪気に尋ねる。
「あの方、騎士って聞いたけど、魔力もないのに役に立つの?」
……役に、たつ?
彼女の言葉に、私の中に残っていた最後の何かが弾けた。
私は今までの自分を蝕む呪いを追い出すように、一度大きく息を吸い、そのまま吐き出す。
そして、静かに言葉を告げる。
「……失礼ですが」
三人が一斉に私へと視線を送る。
「アリシア。何か言ったか?」
怪訝そうに私を見る父に対し、私は顔を上げ、まっすぐに彼を見た。
「このお話をいただいてから、ユージン様について私なりに調べてみました」
「調べた?何をだ」
「彼の、帝国騎士団での実績です」
「ワシに黙って何のためにそんなこと――」
――そんなの、貴方たちがユージンに無関心だったからに決まってる。
いくら私に拒否権がなくたって。
以前の私にあの子の記憶が無くたって。
婚約相手の素性を知りたいと思うのは当たり前のことじゃない。
この人達が私に意を介さないのはよく分かっていたけど。
魔力を持たぬ他者への興味が。
本っ当に、何も無い。
私はこみ上げてくる黒色の感情を抑えるために、もう一度静かに息を吐く。
そして、私の想いを察したエルミナが、自ら申し出て収集してくれたユージンの情報について朗々と声を上げた。
「――彼は入団以降、騎士団内での対個人模擬戦において、常に上位に名を連ねております。これは部隊長や指導教官など、役職付の団員を含めての戦績です」
私の発する言葉に三人は沈黙する。
「そして、先だって成功したと報告された北方辺境での魔獣討伐。三度に及ぶ遠征で他の部隊の生還率が軒並み半数を割る中、彼の所属する部隊の生還率は九割を超えています。――しかも彼自身は、その全ての戦いで最前線に立っていたそうです」
「……お、おい」
「また、この功績により――」
私は一呼吸おく。
「皇帝陛下から、直々に勲章を賜っています」
父の顔が、みるみる青ざめる。
「そ、それが何だ。『魔力なし』には変わらんだろうが!」
「だからこそです!」
私は、今まで抑えていた感情を爆発させるように声を荒げた。
通常、戦闘時は自らの魔力を用いて身体強化を行うのが常とされている。
したがって、魔力がなければ素の体力のまま敵と対峙せざるを得ない。
当然、危険度は桁違いに跳ね上がるのだ。
「――魔力を持ち得ないからこそ、他の技能を極限まで磨いておられる。血の滲むような努力を重ねてこられたのだと容易に想像できます。そのような方を――」
この人たちはユージンが――私の息子が積み重ねてきた努力さえ無視し、否定するのか。
魔力が無い。ただ、その一点だけで。
私は三人を、順に見回す。
「役に立たない、とおっしゃるのですか!?」
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。




