第54話 エルミナ、何かをひらめいた。
本日の更新です。
今話から新展開になります。
フェルムへ訪問した翌日。
「あれ?ユージン様と一緒じゃないアリシア様ってなんか新鮮っすね」
この日はエルミナとアルドリックを執務室に呼び、三人で顔を合わせていた。
「――ユージンは、マルティナ団長の立場から見たリオーネ領の現状について確認したいんだって。朝一で話を聞きに行くって飛び出して行ったわ」
昨日はその後、マルティナ団長といくつか取り決めを行った。
その中に、私たちが手を結んだことはまだ公表しないというものがある。
これは、黒縄会や、そのバックにいると思われる氷冠聖会にこちらの動きを悟られず、先手を取るために必要なことだという認識で一致したもの。
なのに、ユージンがよりによって総督の制服を着て行こうとしていたのだ。
慌てて町人っぽい格好に着替えさせたけど。
昨日は表敬訪問というお題目があったから総督の姿で問題はなかった。
でも、今日も総督の制服を着てフェルムの本部に入っていったら、何かあるのかと勘繰られる恐れがある。
この感覚を持っていないといけない立場なのに。
そういうところ無頓着なのよね、あの子は。
「ほほう。総督自ら足を運ぶなんて、馬車馬の面目躍如っすね」
エルミナの相変わらずの物言いに思わずクスリとしてしまう。
彼女とそんなやり取りを挟みつつ、私はフェルム本部での出来事と、リナの話を整理しながら説明する。
リナによると、会話の主は黒縄会に所属する者たちだったようだ。
以前にも難癖を言ってきた人たちだからよーく覚えてる、と。
◇
「奴らを襲った連中は返り討ちにあったか、自害したって話だ。とりあえず外に漏れなければ、ボスの計画に変更はねえ」
「そ、そんなに強えのかよ。選りすぐりの傭兵を雇ったって聞いたぞ」
「あの方に評価されたいってのは分かるが、ウチのボスもやり過ぎじゃねえのか?今回の件、話通してねえって聞いたぞ」
「だから俺は言ったんだ!あの男の口車に乗せられやがって」
「いまさらそんなこと言っても仕方ねえだろ――」
◇
「……それは、どう考えても先日私たちが襲われた話っすよねえ」
エルミナの言葉に私は頷く。
「この話が本当ならフェルム本部の犯行という線は消え、代わりに黒縄会が首謀者として浮かび上がるわね、アルドリック」
「……話の裏が取れれば、ですが」
「疑り深いっすねー、アルドリック隊長」
エルミナの率直な言葉に私は苦笑いする。
アルドリックの気持ちも分かる。
元団長だからこそ、彼は最後までフェルムに対して疑いの目を向ける。
これは彼自身が思うという以上に、古巣に対し、厳しい目を向けているという周りへのアピールとして必要なことだ。
「確かにアルドリックの言う通りね。ところで、エルミナの方はどう?」
「アリシア様のご指示通り、領都内の鍛冶屋を一通り当たってみたっす。最近、フェルムの構成員が持つ金属の札をまとめて発注した店がないかって」
「それで、どうだった?」
「はい、まともな鍛冶屋は全部空振りだったっす。でも、スラム内にあるうらびれた鍛冶屋が一件だけ引っかかりました。あの辺りは黒縄会の縄張りで、その店もすでに連中の息がかかってると見た方が良さそうっすね」
私はアルドリックから襲撃犯の話を聞いた後、証拠品として提出された金属の札が気になっていた。
それは、フェルムの一員であることを表すしるしのようなもの。
にもかかわらず、襲撃犯たちが持っていたそれらは、どれも同じように真新しく、使い込まれた形跡がなかった。
最近まとめて造られたものではないか。
それも、フェルムの管理下にない鍛冶屋によって秘密裏に。
だとすれば、そこから真犯人を追えるかもしれない。
そう考えた私は、その作成者と依頼人を確認するべく、エルミナに調査を指示していたのだ。
――予感は当たっていた。
昨日マルティナ団長から、この金属札はフェルムが認めた鍛冶屋でのみ作成が許されているという話を聞いていた。
そして領都内において、フェルムの管理下にある鍛冶屋では造られていなかったことも。
リナの話と合わせれば、少なくとも襲撃に黒縄会が関与しているのは間違いないと言えるだろう。
アルドリックは保留しているが、奴らがフェルムの犯行に見せかけたと考えた方が自然かな。
そして、リナが聞いたという、『あの方』というのは誰か。
これは、黒縄会のバックが氷冠聖会だと仮定すれば、クロイツを刺している可能性が高い。
とはいえ、今の段階でクロイツ自ら認めることはないだろう。
だから、動かぬ証拠を集める必要がある。
あとは、あの男の口車に乗せられた、か……。
——それにしても。
「ねえエルミナ。スラムにはあなた一人で行ったんじゃないわよね?」
逓信魔法を得意とする彼女は、戦闘向きとは言い難い。
でも、彼女の性格を考えると、唯一の手がかりの確認を人任せにするとは思えなかった。
「アレク殿下から派遣された内の一人を護衛につけたっすよ。この地では面が割れていないので」
私の心配をよそに、エルミナはあっさりと応える。
「別に一人でも問題ないんすけど、アリシア様が心配すると思って」
私の心を見透かしたように、彼女は首をすくめた。
またエルミナに気遣わせてしまった。
「……その鍛冶屋に行ってみたいのだけれど」
「了解っす。ご案内しますよ」
エルミナの返事を聞いた後、アルドリックを見ると、黙って頷く。
当然、彼も私の護衛として同行するつもりなのだろう。
けれど、私たちが総督府の者だと知られれば、鍛冶屋が警戒して口を閉ざすかもしれない。
「私たちの素性がバレないよう、変装が必要ね。エルミナ、お願いできるかしら」
「ばっちりお任せ下さい。結構そういうの得意っすから」
彼女の言葉に頷いた後、ふとアルドリックに目線を移す。
「——エルミナ、アルドリックには特に念入りにして頂戴。普通の変装では足りないわ」
「……それは、どういう意味でしょうか?」
訝しげな表情を浮かべるアルドリック。
「目立ちすぎるのよ、あなたは。現総督府警備隊長で、元フェルム初代団長。スラムはおろか、この領都セレスティアであなたを全く知らない人なんていると思うの?」
アルドリック、おまえもか。
ユージンと一緒じゃないの。
「——アルドリックが乗り気じゃないなら、エルミナに付いている護衛にお願いしようかしら」
「お、お待ちください。俺はユージン様にあなたをお守りすると誓ったのです。なにより——」
珍しく狼狽した様子でアルドリックは話を続ける。
「俺が、アリシア様をお守りしたいのです」
——うーん。
そこまで言ってくれるのは嬉しいけど、そのまま行ったら目立ちすぎてまともに話なんか出来ないわよ。
どうしたもんかと頭を悩ませていると。
「私に、いい考えがあるっす!」
エルミナが、にっこにこの表情で私に告げた。




