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前世の息子に婚約破棄されたので、母として守ることにしました。~元冷血女王、過保護に支えていたら、息子がいつの間にか帝国一の凄腕領主と呼ばれるようになりました~  作者: 森下ヱンジン
第二章 リオーネ編Ⅰ 亡国の女王と忠臣

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第53話 アリシア、母モード起動。

本日の更新です。


――私は応接室の窓辺へ近づき、外を眺める。


 そこには、雑然と家々が並ぶスラムの景色が広がっている。

 粗末な屋根。汚れた路地。痩せた子供達。


 ここだけではない。リオーネ領には同じような場所がいくつもあり、点在する街や集落もまた、貧しさに喘いでいると聞いている。


 けれど、元々この土地は豊かだった。


 肥沃な土壌。

 豊富な鉱物資源。

 それらを産業として活用できる力が、この地にはあった。


 かつてセレナの私が王としてこの地を治め、魔力をもたぬまま帝国と渡り合えたのも、その地力を活かしていたから。


 ――それが今はこの有様。


 長引く内乱と腐敗が、領内全体を食い潰している。

 一日でも早く、ユージンと一緒にこの地を立て直さないと。


 私は振り返り、マルティナとリナを見る。


「この場所の案内と、調査への協力をお願いできるかしら」


「もちろん――」


「「それは危険だ!」」


 声が重なった。

 ユージンとアルドリックだ。


 ……以前もあった気がするわね、こんなやりとり。

 

「アリシア、あなた自身が行く必要はない。フェルムの皆に任せれば――」

 

「それは、駄目よ」


 ユージンの言葉に、私ははっきりと拒否の言葉を告げた。


「総督府とフェルムはこれから協力体制を築くのよ。だからこそ、総督の婚約者である私自身がフェルムと同じ目的に立ち向かう姿を見せる。これが、みんなを納得させる一番確実な方法だと思うの」


 私はマルティナに問いかける。


「――あなたを信用してもいいかしら?」


 彼女は一瞬だけ黙った後、わずかに笑みを浮かべた。

 

「もちろんだ。……それにしても、ホント肝の据わった姫さんだな」


 けれど、アルドリックは納得していなかった。


「お待ちください。この話を進める前に、一つ確認すべきことがあります」


 彼はマルティナへ向き直る。


「アリシア様とユージン様がこの地へ赴任する道中、何者かに襲われた。そいつらはフェルムの証である札を持っていたんだ。 ――お前たちの仕業ではないのか?」


 マルティナの表情が硬くなる。


「私達がそんなことする訳ないじゃないか。総督に何かあれば余計に治安が悪化する。そんなの、アルドリックが一番分かってるだろ」

 

「しかし、お前の目が届かない所で部下が勝手に動いた可能性はある」


「それは……そうだけど。アルドリックはフェルムを疑ってるのかよ!」


「俺は、あらゆる可能性を排除しない。ただ、それだけだ」


 アルドリックの言葉に、マルティナは歯噛みしたまま押し黙る。

 否定しきれないからこその沈黙だろう。


「――だからこそ、よ。だから、私が一緒に捜査する」


 全員の視線を受けながら、私は言葉を重ねた。


「マルティナ団長の言葉に嘘はないと思う。それはフェルムの理念に基づいたものだから。――もし仮に団長の見えない所で何かが行われていたとしても、団長自身が裁き、それを部外者である私が証言することで、フェルムの自浄能力を示すことになるわ」


 そしてアルドリックへ語りかける。


「この件は私に預けなさい。あなたを失望させることはないと約束する」


「……」

 

 ――どうも、アルドリックに対してはセレナっぽい態度が出ちゃうわね。

 気をつけないと。


 続いて、ユージンを見る。


「あなたには総督として皆を束ね、統率する役目がある。私も含め、ここにいる人達はそれぞれ成すべき役割がある。だから――私のことを応援してほしい」


 ユージンはすぐには答えなかった。

 胸の内で、何かを噛みしめるように黙り込む。


 その時だった。


 アルドリックが、ユージンの前に膝をついた。


「この剣にかけてアリシア様をお守りします。どうか俺に、護衛をお命じください」

 

「何だよ、私じゃ信用ならないってのか」


「マルティナ、お前もまた、お前にしかできない役割があるだろう。フェルムの団長としての」


「……分かったよ」


 マルティナが、アルドリックの言葉に頷く。

 口調は不承不承といった風だったが、その表情は暗いものではなかった。

 

 ――アルドリックにも総督府の警備隊長って役割があるんだけど、それはいいのかしらね?

 

 そんなことを思う私のそばで、ユージンは静かに目を閉じていた。

 やがて覚悟を決めたように顔を上げ、私に告げる。


「……アリシア、あなたに命ずる。フェルムと協力し、このスラムに蔓延る不正の調査を行ってほしい」


 私は小さく微笑み、頭を下げる。


「承知しましたわ、総督閣下」


 そして彼はわずかに身を寄せ、私にしか聞こえない声で囁いた。


 「――くれぐれも、危ないことはしないように」


 その一言だけで、胸が少し温かくなる。

 まったく、この子は。

 総督の振る舞いとしてどうかと思うけどっ。

 

 そしてユージンは、アルドリックへと向き直る。

 

「アルドリック。本件におけるアリシアの護衛を命ずる。……彼女には何人たりとも指一本触れさせないよう、くれぐれも頼む」


「その命、確かに承りました。アリシア様は総督の正式な名代。総督府警備隊長の名にかけて、必ずやお守りいたしましょう」


 なるほど。

 私が総督の代理として動く以上、その護衛も警備隊長の職務範囲内になるという訳ね。


 わざわざそんな理由まで付けて私の護衛に付きたいだなんて。

 アルドリック、もしかして――



 そんなに信用ないの?わたし。

 

 ◇


 ――それにしても、だ。

 

 いや、ここは冷静にと思ってはいるのよ。

 私たちは、その言動が多くの人へと影響する立場になってる訳だし。

 

 でもしかし、だ。

 

 襲撃の件はまだ保留するとしても、ユージンを秘密裏に殺めようとしていたなんて。

 それをヴァルケンは脅しに使った、と。

 自分の不正を隠蔽するために。


 ふーん。

 

 ……。

 …………。

 

 ――よーし。叩き潰そう。


 ほんの少しでもウチの子に不埒な想いを向けたこと。

 

 かならずこうかいさせてみせる。

 ぜったいにだ。


 ◇

 

 心の内でそんなことを私が思っていると、それまで黙って話を聞いていたリナが、おずおずと手を挙げる。


「お二人が襲われたことに関係するか分かりませんが……」


 部屋の空気が、すっと変わった。


 リナはためらいがちに、けれどはっきりと続ける。

 

「昨日、このスラムの中で……変な会話を聞いたんです」

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。


次回より、新たな展開となります。


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