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前世の息子に婚約破棄されたので、母として守ることにしました。~元冷血女王、過保護に支えていたら、息子がいつの間にか帝国一の凄腕領主と呼ばれるようになりました~  作者: 森下ヱンジン
第二章 リオーネ編Ⅰ 亡国の女王と忠臣

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48/60

第48話 右腕の贖い

今週も始まりました。

本日の更新です。


「……それは、アルドリックが処刑執行人になったってこと?」


 ユージンの言葉に、彼は唇を震わせながら頷く。

 その表情を、私は微かに覚えている。


 処刑台で、あなたが斧を持ちながら嗚咽を漏らしていた瞬間。

 あの時と、同じ。


「……セレナ様は、俺のことを『自分の右腕』と評してくださいました。だから、俺は処刑の執行人に手を挙げたのです。あの方の右腕として、最期まで傍らで寄り添うために。――そして俺は、他の誰かが、あの方に手をかけることを許せなかった」


 アルドリックは、自分の両手を胸の位置に掲げる。

 そして、しばらくの間、その両方の手の平をを見つめ続ける。


 まるで、そこに何かが宿っているかのように。

 

 ——やがて拳を握りしめ、天井を見上げながら目を閉じる。

 懺悔と、何かを慈しむかのような、仕草。


「だが、俺は間違えていた」


 彼はユージンに視線を向ける。


「この地が帝国に併合された後も、俺は独自に調査を続けていました。そして、知ったのです。セレナ様が王国を裏切ったのではない。王国という存在そのものがセレナ様を裏切ったのだと!」


 応接室に、重い沈黙が流れる。

 

「……俺は、取り返しの付かないことをした」


 アルドリックはその言葉を皮切りに、やがてゆっくりと当時について語り始めた。


「――公式には、帝国に滅ぼされると悟ったセレナ様が、自ら帝国の侵入を手引きしたことになってます。……王が、自分の命を惜しんだが為に、と」


 アルドリックの声は掠れている。

 それでも、ユージンを見つめながら静かに続ける。


「しかし、あのセレナ王がそんな選択をすることは、絶対にあり得ないんだ。だから、これは何かの陰謀に違いないと確信したのです」


 『絶対にあり得ない』


 アルドリック、あなたは。

 あなただけは、そう思ってくれてたのね。

 ――でも。


「……何故、絶対にあり得ないと言い切れるの?当時は、氷血女王が無様に屈したとの意見が大勢だった。――そう、聞いてるけど」


 私が問いかけると、彼は視線を私に移す。

 その声は徐々に熱を帯びていく。

 

「セレナ様は、何よりも王であることを選んだのです。その覚悟の瞬間を、俺はあの方の一番近くで見た。本当は、もっと大切にしたいものがあったはずなのに……」


 私がアルドリックの言葉を胸の内で受け止めていると、彼はユージンに向き直る。


「俺は、独房へと軟禁されているセレナ様に、自ら潔白を訴えて下さるよう何度もお願いに上がりました。そうすれば執行までの猶予が生まれる。その間に、なんとしても無実の証拠を揃えようと思ったのです」

 

「……それで、母上は何と?」


 ユージンの問いかけに、それまで熱く語っていたアルドリックの表情が変わり、声のトーンが落ちる。

 

「『もう良いのだ、アル』——俺が訪ねるたびにそう仰せられ、それ以上を語ることはありませんでした」

 

 そう、セレナの私は何も弁明しなかった。

 

 ユージンを見捨てたその日から、王でいることだけが私の生きる理由だった。

 

 だが、セレナの私は貶められた。

 王として、母として失格の烙印を押された私は、これ以上生き延びる意味を見いだせなかったのだ。


「そして、俺は決定的な証拠を掴むことができなかった。処刑までの時間は、あまりにも短すぎたのです」


 吐き捨てるように、アルドリックは声を落とす。

 

「……セレナ様を強引にでも連れ出し、別の土地へ逃れ、王朝の再建を果たすことだって不可能ではなかった。しかし――」


 アルドリックは、そこまで覚悟していたのね。

 逆賊としての汚名を受けたとしても、セレナを救い出すために。


「日に日に増していくセレナ様を悪とする世論。肝心な所で横やりや妨害の入る調査。……俺は自分の無力さに打ちのめされていた。そして何より、この件について何も語らないセレナ様を前に、こう思ってしまったのです」


 誰も口を開かず、静寂が尚も続く中、アルドリックの声だけがこだまする。

 

「……もしやこのお方は、ここで最期を迎えられることをお望みなのではないか。だとすれば、俺の行いはセレナ様のご意志に背くことになっている、と。——そして、俺はそれ以上自ら考えることを拒否してしまったのです」


 やがて、アルドリックは微かに顔を歪めながらユージンに頭を下げる。

 

「その結果、あの方を冤罪によってこの手で――」


 彼は、自嘲を含む歪んだ笑顔を見せる。


「ユージン様。これが俺の、あがないようのない罪です」

アルドリックの孤独な戦いです。

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― 新着の感想 ―
アルドリック、つらいねー 大変だったねー 報われてほしい (T . T)
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