第47話 拒絶と喪失。そして、告白。
本日の更新です。
――やはり。
あなただったのね、アルドリック。
私は帝都での、アレク殿下とのやり取りを思い出していた。
旧王国派と反体制派――二つの勢力の話をアレク殿下から聞いた時、脳裏をよぎったもう一人の人物。
それが、彼だった。
マルティナの息づかいだけが残された部屋。
いつ果てるかも分からない静寂が、私達を遮っている。
私は後ろを振り返り、アルドリックを見つめる。
全ての視線が同時に、彼を刺していた。
「……俺は」
そんな空気を、アルドリックが破る。
「笑うなんて、できるはずもない。マルティナ。俺は、お前に詫びることすら許されない」
うなだれながら、絞り出すように声を発するアルドリック。
私はその姿に、前世の自分を重ねていた。
「……アルドリックから次期団長を指名された時、最初に感じたのは怒り、そして強い喪失感だった。ああ、やっぱりこの人も私たちを見捨てるんだって。だから、もう人を信じるのはやめようと決めたんだ。私が意地でも代わりに率いてやる。そう思ってた」
最初の剣幕が嘘のように、訥々と独り言のようにマルティナは話す。
「だけど、あなたがいなくなった途端、この有様だ。誰も私の言うことなんて聞いちゃくれない。――それで分かったんだよアルドリック。あなたがどれだけ凄い人で、フェルムをまとめる為にどれだけ心を砕いていたのか、って」
「……」
「本当は、すぐにでも相談したかった。私のプライドごときで、皆にまた辛い思いをさせるなんて耐えられないと思ったから。でもさ、ダメだったんだよ」
「……マルティナ」
アルドリックは彼女の名前を呼ぶ。
彼女は、疲れたような笑顔を返す。
「これでまたあなたに拒絶されたら、って思ったらさ。おっかなくなっちまったんだ。あなたに依存してる自分を自覚しちゃってさ。本当、情けねえよな、私」
マルティナはそう言うと、胸に抱えたリナの頭に、そっと額を重ねた。
――分かっているのに、素直な態度が取れなくなる。
彼女の想い、今なら分かる。
かけがえのない人がいる。
心から慕っている人がいる。
もし、その人から、拒絶されたら。
きっと、私だって立ち直れない。
アルドリックに目を移すと、彼は目を閉じ、奥歯を噛みしめるようにして感情を収めているように見えた。
その時。
「――何故捨てた、アルドリック」
静かな怒りを含んだ、冷ややかな声。
ユージンだ。
彼に視線を移すと、既にソファから立ち上がっている。
「何故、フェルムを」
アルドリックへと歩みを進めるユージン。
「何故、彼女たちを捨てたか教えてほしい」
そして、ユージンはアルドリックの前に立つ。
「――リナから聞いたよ。スラムには、正規の警備隊が寄りつかないって。あなたは総督府の警備隊長だ。知らないとは言わせない」
初めて聞く、ユージンの声色。
静かな怒気が、彼を包んでいる。
「……僕が子供の時に会った貴方は、輝いて見えてた。それは、課せられた責任を果たそうとする姿だったのだと思う。あの時に僕は、貴方のような人になりたいと心から思ったんだ」
彼を包む怒りが、アルドリックへと向けられる。
「でも、今の貴方からはその輝きが見えない。あの時のアルドリックはどこへ行った?教えてくれ。貴方は何故、大切なものを捨てたんだ!」
ユージンからの問いかけに、アルドリックは一瞬視線を落とす。
が、すぐにユージンへ顔を向ける。
その視線は強い。
覚悟を宿した瞳で、ユージンを凝視する。
「――あなたに。セレナ女王の御子である、あなたに仕えるためです」
アルドリックの言葉に、私の中のセレナが反応する。
胸がどくんと波打つ。
「……僕に、仕える、ため?」
ユージンの呟きにも似た問いかけに、アルドリックは頷く。
「少しだけ、俺の昔話を語ることをお許しください」
部屋の空気が変わる。
ユージンの放つ怒りが、困惑へと移っていった。
「俺は、セレナ王を信じ抜くことができませんでした。――最期の、処刑の時でさえも」
アルドリックは、ユージンの目を見据える。
「ユージン様、あなたの母君に直接手をかけたのは、この俺です」
マルティナの苦悩については、自分の体験を踏まえて描きました。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
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