表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/52

第46話 フェルム初代団長。

本日の更新です。


「――フェルムはもともと、リオーネ各地方の自警団たちの集まりなんだ」

 

 リナが泣き止むのを待ってから、マルティナはぽつぽつと口を開き始めた。


「リオーネ王国が滅びた後、帝国からの扱いはそりゃあ酷かった」


「――魔力を持たぬものに対する、帝国に蔓延る差別感情ね」


 私の言葉に、彼女は頷く。


「まともな医療体制もなく、治安はそっちのけ。そのうえ酷い重税を課されていた。当然不平の声は上がるが、総督府のヤツらは声を上げた彼らを連行していき、激しい拷問を加え、……結果多くの民がそこで命を落としたんだ」

 

 ここで彼女は一度言葉を止める。

 

 少しだけうつむき、ただ沈黙する。

 それは、忘れてはいけない記憶を逃がさない儀式のように。

 

 応接室内に、冷たい沈黙が霧のようにかかっている。

 

「当時、既に氷冠聖会は存在していたけど、彼らに与する者は少なかった。私達をこんな目に遭わせてる王国を許せなかったからな。なんで、負けたんだって。それを再建させるなんて、正気の沙汰とは思えなかった」


 彼女の言葉が、私の心に重くのしかかる。

 セレナの私は、弁解のしようもない。

 

 私は隣にいるユージンへと視線を移す。

 彼は静かに話を聞きながら、その瞳に冷たい光を宿している。


「その時からだ。自発的にこの地を、自分たちで守ろうって気風ができあがったのは。それを取りまとめて、今のフェルムを立ち上げた一人の男がいた。俺たちは力じゃ勝てない。だから、数で対抗しようって。それが、彼の口癖だった」


 ――なるほど。

 そして、帝国の総督達に反抗し始めた、という訳ね。

 

「……早くに両親を亡くした私達に、その方は目をかけて下さいました」


 マルティナの話に呼応するかように、リナが話し始める。


「私はまだ幼かったのですが、姉は彼から色々なことを学んだそうです。生きる術、戦う術。そして――、人を守る術。当時、姉はいつも嬉しそうに彼の話をしていました」

 

 リナから視線をむけられたマルティナの頬は、微かに紅潮していた。


「最初はみんな、同じ志だった。弱き立場の者たちを、協力して救いあおうって」


 照れ隠しのようにマルティナは言葉を続けたが、そこでまた口を閉ざす。


「……それが、続かなかったのね」


 私の言葉に、驚いたような表情をするマルティナ。

 

「っ!……よく分かったな。フェルム内でも、富める者とそうでないものが出てきて、徐々に意見が分かれちまったんだ」


 ――人の心は移ろうもの。

 最初は理念で団結していても、やがて立場の違いや欲望が生まれる。

 それが権力争いをもたらし、いつの日か分裂していく。


 数多の組織が繰り返してきたことだわ。


「それでも、その男がいた頃はまだ良かった。……そいつは自分の命を顧みず、誰よりも前に立って戦っていたんだ。その姿は、まるで求道者のようだったよ。だから私を含め、多くの団員がその男を慕っていたんだ」


 しかし、と彼女は続ける。


「ある日、そいつはフェルムを抜けると言いやがった。理由は言わず、私を、次期団長に指名して」

 

 そう言うと、彼女は投げやりな笑みを浮かべる。


「それからさ。収拾がつかなくなっていったのは。――リナを脅してきた黒縄会(こくじょうかい)の中心メンバーも、元々はここにいた奴らだ。裏は取れてねえが、何やら別の組織をバックにして私らに対抗している節がある。だが、それを抑える力が今の私達、いや、私には無いんだ」


 そこで彼女は一度、言葉を止める。

 少しだけ逡巡した表情を浮かべた。


「あいつらは瞬く間にこのスラムを席巻していった。住民たちも、今ではフェルムより黒縄会のヤツらの顔色をうかがっている。ここにフェルムの本拠地があるにもかかわらず、だ」


 このスラムから、フェルムを追い出そうとしている組織がいる。

 これが、フェルムそのものを切り崩すための布石だとしたら。


 ……一体、誰が。


「ここ、領都セレスティア以外の集落でも、続々とフェルムから団員が抜けている。場所によっては組織の体すら保てないほどにな」


 マルティナはここまで捲し立てるように語った後、ゆっくりと俯く。

 

 そして少しの間の後、彼女は静かに呟いた。

 

「……全て、私の力不足だ。笑ってくれ」


 彼女は、私の方へと視線を向ける。


 ――違う。

 マルティナの視線は、私には向けられていない。


「なあ、笑ってくれよ。こんな奴に後を任したのが間違いだって」


 マルティナの視線は――私の後方。

 

「笑えよ!」

 

 応接室に大声が響く。


「初代団長、アルドリック・ヴァルター!!」

このまま次回へと続きます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ