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第43話 総督の流儀。

本日の更新です。


 路地の先で、少女が声を荒げていた。

 

「決められた分は支払っている筈。文句を言われる筋合いはないでしょ!」


 身なりから、スラムの子と容易に分かる少女。

 年の頃は私と同じくらいだろうか。

 

 その後ろで、顔を真っ赤に腫らした幼い男の子が泣いている。


「今日から上納金の金額が変わったんだよ。さっさと残りの分を払いな!」

 

 対して、少女たちを見下ろす三人の男たち。

 皆、制服のように揃った格好をしながら彼女たちを詰めている。


「そんな話、聞いてない!」


「知ったこっちゃねえよ、そんなこと。それとも……」

 

 男たちの一人が、少女を見ながら下卑た笑いを浮かべる。


「代わりにお前が払ったっていいんだぜ、リナ」


「……っ!」

 

 リナと呼ばれた少女は、一瞬後ろを振り返った。

 顔を腫らした男の子を見て、唇を噛みながら絶句する。

 

 そして、意を決したように男を睨みつけた。


「――あんたたちのボスに会わせてよ。直接話を聞くわ」

 

 リナの言葉に、男たちは嘲るような笑い声をあげる。


「お前ごときがボスに会えるわけないだろう。身の程をわきまえろ!」

 

 そう言いながら彼女の腕をつかみ、抱き寄せようとする。


「嫌、離して!」

 

 男たちは彼女の抵抗を見ながら、さらに囃し立てている。


 そこへ――。

 

「ほう、僕も会ってみたいな、そのボスとやらに」

 

 彼女らに割って入るようにユージンが声をかける。


「なんだぁ?」


「誰だてめえ!」

 

「――名乗ってもいいけど、聞いたら君たち、このままじゃいられないよ」


 穏やかな笑顔を浮かべていたユージンは、話し終えた瞬間表情が変わった。

 

 細めた目の温度が下がる。

 あの子の周りが冷たい空気に変わっていくのを感じる。

 

 ただならぬ殺気を感じたのか、その中の一人がユージンへ語りかける。

 恐らくこの三人のリーダー格だろう。


「俺たちはここのルールに従ってるだけだ。文句を言われる筋合いはないんだがな」


「別に文句があるわけじゃないさ。ただ、金額が本当に変わったかどうか確認したいとその子は言っている。それは正当な訴えだよ」


 ユージンの言葉に、言葉を詰まらせる男たち。

 

「……うるせえんだよ、この野郎!」


 やがて、その中の一人が業を煮やしたようにユージンへと飛びかかる。


 ユージンは僅かに身体を反らし、男の勢いをやり過ごす。

 空をつかむ形になった男が振り向こうとした瞬間。


 ひゅ。


 風を切るような音を立てながら、男の腕をつかみ、そのまま地面へと落とした。

 何かが崩れたような鈍い音が、路地に響いた。


 その光景をみた男たちは、目を見開いたまま額に汗を滲ませている。

 

「あ、そ、そうだ。もしかしたら俺が金額を聞き間違えたかもしれねえ。リナ、今日のところはこれで勘弁してやる」


「待て」


 捨て台詞のような言葉を吐いてこの場を立ち去ろうとする男たちに、ユージンの短い声が響く。


「な、なんだよ」

 

「……このまま帰ったら、君たちがボスとやらに怒られるのではないのか?良かったら僕も同行して、お互いの誤解を解ければと思うんだけど」

 

「はっ、はあっ?」


 ユージンの不敵な笑顔に気圧された男たちは、その姿に似合わない甲高い声を上げる。


「……必要ねえよ、そんなことは」


 やがて、リーダー格の男が呟いた。

 

「そうか、なら無理にとは言わない。でも、理由はどうあれ、今の行動は認められないよ。君たちのルールに安易な口出しはしないけど、徴収のやり方は考え直してほしい」

 

「――覚えてたらな」


 そういうと彼らは、地面に転がって気絶している仲間を連れ、どこへともなく去って行った。


 ◇

 

「――ユージン」

 私は、アルドリックに周囲を警戒するよう指示する彼の名を呼んだ。

 

「ごめん、アリシア。気がついたら身体が動いてしまって……」


 私が声をかけると、ユージンは予想通りの言い訳をしながら頭を下げる。


「……」

 

「危険な場所に君を置いてしまった。騎士として失格だ」


 ユージンの言葉に、私はかぶりを振る。

 騎士として、か。

 

 ――ううん。今は、これでいい。

 

 見ると、ユージンに助けられた少女は、こちらに気づく余裕もない様子で必死に男の子の看病をしている。

 

「ほら、あの子をこのままにしていいの?」


「う、うん」


 ユージンは、もう一度私に頭を下げたあと、彼女の方へ向かった。

段々と、ユージンが能動的に。


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