第4話 婚約破棄の理由と、アリシアの決意。
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「この帝国で、魔力を持たない僕なんかと一緒になったら、レオニエル公爵家の名に傷がついてしまいます」
帝国では、魔力こそが貴族の価値を決める。
そしてリオーネの地では、魔力持ちの子は決して生まれない。
それを気にしての、婚約破棄の申し出だったのだ。
やはりユージンは自分のことより相手を思いやってる。
優しい子。
胸の奥が、じんわりと温かくなる。
思わず、顔が緩みそうになるのをこらえた。
……でもまあ、そんなことはユージンが心配する必要ないんだけど。
だって、これは父の意向で公にはしていないけど、私にも魔力がないと言われてるのだから。
前世も含め、私にはよほど魔力に縁がないとみえる。
『魔力あらずば貴族にあらず』
それが帝国を覆う空気だ。
お互い苦労してるわね。
――でも。
それらを考慮に入れたとしても。
やっぱり、拍子抜けもいいところだわ。
変なところで思い切りがいいんだから、まったく。
このポンコツさ、誰に似たのかしら。
…………。
……。
いや、考えるのはよそう。
「そ、それで、ユージン様。婚約破棄をなさったとして、その後のことは?」
「え? その後、ですか?」
「ええ。第二皇子殿下へのご報告。我がレオニエル家の体面。そして何より、 貴方ご自身の今後。そのあたり、どうお考えなのかしら?」
「それは……、おいおいと」
……ユージン。
あなた、もしかして。
この後のこと、何も決めて、ない?
「ですが、アリシア様には迷惑がかからないようにします!」
…………。
ユージンの言葉に、私は心の中でふかーいため息をついた後、完璧な淑女の笑みを浮かべた。
「ユージン様。お話の趣旨は理解いたしましたわ。ですが、その宣言を公にするのは少しお待ちくださいませ」
「え?」
「貴方のため、そして私の家のために、です。よろしいですわね?」
私の圧に押されたユージンが、こくこくと子犬のように頷くのを見て私は内心、二度目のため息をついた。
そのとき。
「最初に、言わなければいけないと思ったんです」
彼は、その大きな眼をまっすぐ私に向けながら話を続ける。
「誰よりも先に、貴方にお伝えして、その裁きを受けるべきだと思ったんです。他の方については、その後に考えようと思ってました」
「……どうして、そう思ったの?」
不意打ちのような彼からの言葉に、つい素の口調で私は問いかけた。
「それが、いちばん誠実だと思ったものですから」
少し間を置いて、彼は苦笑した。
「って、これは言い訳ですね」
「……」
「お恥ずかしい所をお見せしました」
言葉を探すような一瞬の沈黙の後。
彼は立ち上がると、右拳を左胸に当て――帝国式の敬礼をしながらお礼を言う。
「自分の浅はかさ、汗顔の至りに存じます。アリシア様のご指摘に心から感謝いたします」
彼の動きに私は一瞬、目を奪われた。
帝国に滅ぼされた亡国の遺児が、帝国式の敬礼をする。
それも、公爵令嬢といえど、年下である私に。
その意味と、非の打ち所のない誇り高さを感じさせる所作に、私は息をするのも忘れていた。
あんな幼子だったこの子が、こんなにも立派に――
しかし同時に、胸が痛いほどに締めつけられる。
この子には教えてくれる人がいないのだろう。
貴族社会という魍魎が潜む世界での立ち振る舞いを。
そして、ユージンをそんな目に遭わせているのは、他の誰でもない。
かつての、私だ。
「……とりあえず、今日のところはお引き取りくださいませ。私の方で今後の対応を考えます。ユージン様がよろしければ、ですが」
「はい、ありがとうございます。アリシア様のお考えに従います」
……あなたに従います。
前世では王として、その言葉を何度も聞いた。
そのたびに、心をすり減らしながら立ち続けた。
同じ言葉を、息子から言われるなんて。
以前とは違う光が、胸の奥でそっと灯る。
それは、かつて王として国を守ろうとした光とは比較にならない程、静かで、強い。
――この子を守りたい。
そのためにも、今の私は力を持たなければならない。
今世の私は、余りにも非力だ。
魔力を持たない。剣も振るえない。
そして、家族関係は控えめに言って最悪。
当然ながら、援助など望めない。
でも――私には、前世の知識がある。
今世でも培った知識がある。
そして何より、もう二度と失敗したくないという、強い想いがある。
前世のような過ちを繰り返さないために。
今度こそ、この手で――
そのためにまずは、今の私の立場を強くしないと。
地盤を固め、この子の未来を守る大きな力とするために。
――手始めは、ウチの家族。
レオニエル公爵家から始めよう。
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