第38話 小さな嫉妬。
本日の更新です。
ユージンにも早くこのことを伝えよう。
私達は、頼もしい味方を得たって。
私は、弾んだ気持ちでユージンのいる執務室へ戻る。
「ユージン、聞いてくれる?あのね――」
部屋に入り、彼に声をかける。
「……なに?」
あれ?
反応が薄い。
ユージンは執務室の席に座り、資料に目を落としながらこちらを見ようとしない。
でも、資料に熱中している感じもしない。
「どうかしたの?元気がないみたいだけど」
「……あの、さ」
「ん?」
ユージンはそのまま少しの間黙っていたが、意を決したように顔を上げる。
「なんか……アルドリックと、距離近くない?」
「ええっ?」
ユージンは何を言いたいのだろう。
距離が近いって……。
――と、少し考えて私は腑に落ちた。
「……アリシア、何笑ってるのさ」
「え?いやいや、何でもないわよ」
「何でもないって、そんなことないだろ?――ニヤニヤしちゃってさ」
「あらあら、総督様はご機嫌斜めのようですね。もしかして、嫉妬してます?」
「~~~っ!そうじゃない!」
ユージンは顔を赤くしながら、否定に忙しい。
アルドリックに嫉妬なんて、お可愛らしいこと。
でもまあ、茶化すのもほどほどにしておきましょう。
「アルドリックは忠臣になり得る人物よ。彼を取り込みたいと思っていたの」
「――それは、分かるけど」
「私の行動は全て貴方を思ってのことよ。安心なさい」
「分かってる。でも……なんかさあ」
ユージンが、理性と感情の狭間でもどかしく揺れているのがよくわかる。
ちょっと嬉しくなるのは不謹慎かしら?
「……確かに、ちょっと僕が幼稚だった。それで、アルドリックは?」
――私の前で幼稚なのはまったく問題ないのだけれど。
「全面的に協力すると約束してくれたわ。これは私の功績ではなくユージン、あなたへの評価の結果よ。胸を張りなさい」
私の言葉に微妙な表情をしていたユージンだったが、やがて苦笑交じりにやれやれと軽く両手を挙げる。
「アリシアには敵わないな。大丈夫、自分の力量は理解しているつもりだよ」
そう言うと彼は立ち上がり、私に会釈する。
「総督として、あなたの働きに心より感謝する」
うん、それでいい。
その素直さは、人の上に立つ者として得難いものなのだから。
◇
――夕刻に差し掛かり、窓から橙色が緩やかに差し込む執務室。
ユージンと私は今後のスケジュールについて話していた。
すると、ドアをノックする乾いた音がこだまする。
私がドアを開けると、そこにはアルドリックが立っていた。
彼は渋い表情で静かに一礼する。
アルドリックを中に通すと、彼は淡々とした声で私たちに話し始めた。
「……昨日の総督達への襲撃は、『フェルム』の手によるものと思われます」
彼の言葉が、部屋の中に一瞬の緊張を走らせる。
「彼らは自白したのかい?」
ユージンの質問に、アルドリックは苦々しげに口元を歪める。
「それが尋問を行おうとした途端、急に苦しみ出し、そのまま事切れました。フェルムの犯行と申し上げたのは、奴ら全員、フェルムの一員であることを表す金属性の札を所持していたからです」
アルドリックは、証拠品としてまとめた札の束を机の上に並べる。
首から提げるためだろう、小さな穴から紐が通されたその札には、異なる大きさの人影めいたものが二体刻印されていた。
それを見た私は、何となく引っかかるものを感じたが、まずはアルドリックからの話を聞こうと彼に問いかける。
「毒の使用かしら?」
「はい。死体を確認した所、奥歯に仕込んでいました。捕らえた時にもっと検分を徹底すべきでした。私の失態です」
彼の言葉に、私は軽くため息をつく。
できれば自白による裏付けが欲しかったのだけど。
「仕方ないわ、貴方は私達を無事にここまで連れてくる。それが最優先の使命だったもの。それにしても――」
ユージンとの戦闘を見るに、彼らは相当に訓練された兵達だった。
そして、自白しないよう躊躇のない自決。
にもかかわらず、フェルムの者とすぐに分かる金属の札を持っているなんて……。
「そう言えば、王国復興派の組織もあると言ってたわね。確か……」
「はい。氷冠聖会といいます」
……さっきも感じたけど、ずいぶんと思想の分かりやすい組織名だわね。
「——そちらの者たちの偽装とは考えられないの?」
「可能性がゼロとは言えませんが、彼らには動機がありません」
「というと?」
「氷冠聖会は、氷血女王と呼ばれたセレナ・リオーネ様を聖なる存在として崇めています。最期の王であったあのお方を象徴として、王国の復興を目指しているのです」
あのお方って。
セレナを悪く言えないって感情が漏れてるわよ、アルドリック。
それにしても……
はあ。
セレナを神格化か。
組織名を聞いたときからそうだろうなとは思ったけど。
やっぱり王国復興派に利用されてるわけね、わたしは。
「その御子であるユージン様を、崇めこそはすれ、害するなどとは考えられないのです」
そこで言葉を止めたアルドリックに、ユージンが問いかける。
「フェルムの側には、僕を害する理由がある、と?」
「……より可能性の高い推測、という前提が許されればの話ですが。少なくとも、氷冠聖会よりは」
二人の会話を聞きながら、私は決断をする。
「乗り込みましょう。その、フェルムとやらの本拠地へ。私も一緒に行って、真相を確かめるわ」
「「ええっ?」」
私の言葉に、ユージンとアルドリックは揃って慌てたように目を見開くのだった。
今回のユージンは、珍しく少しだけ子どもっぽい一面を見せました。
普段とのギャップを楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回もお楽しみください。




