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第39話 意外な来訪者。

週の始まり。

本日の更新です。


「ここで話していても、判断できる材料が少なすぎるわ。なら、直接行って確かめた方が良いでしょう?」


「それはそうだけど……」


「それはそうですが……」

 

 二人はふたたび声を揃えて、困惑交じりの言葉を口にする。


「もし本当にフェルムが私達を襲ってきたのなら、一刻も早く出向いて牽制すべきだし、誤解があるのなら早めに解いておきたいの」


 私の提案に、ユージンは立ち上がり反論する。


「アリシアの考えは分かるよ。でもこれは僕の仕事だ。アルドリック、道案内を頼む」

 

「……承知しました。配下の者も連れていきます」

 

「いや、アルドリックだけで十分だ。多数で行っても相手を無駄に刺激することになる」

 

 ユージンなら言うと思った。

 あなたはいつだって、私の騎士であろうと一生懸命だから。


 でも、ここで引くわけにはいかない。

 

「ちょっと、私を差し置いて話を進めないでよ」

 

「アリシア、分かってくれ。いくら何でも襲撃された勢力の本拠地に乗り込むなんて危険すぎる。ここは大人しく待っていて欲しい」

 

「あら、ユージンとアルドリックがいるじゃない。二人は私を守ってくれないの?」

 

 ユージンは私の言葉に、微量の憤りを含んだ瞳で、寂しげに言葉を落とす。

 

「……アリシア、それはズルい物言いだよ」

 

 ユージンは声のトーンを一段下げながら、静かに窘める。

 

 ――彼の態度を見て、場を和ますつもりの軽口が間違いだったことに私は気づく。

 

「……ごめんなさい、今の言葉は撤回するわ。でも、私も同行した方がいいと思うの」


「それは、なぜ?」

 

「総督とその婚約者が、最小の警備で訪問する。これは恫喝ではなく、対話のための正式な訪問だという証明になるの。仮に先方が留守だとしてもこちらの意向が伝われば問題ないわ」


 私の言葉に、アルドリックが手を挙げる。

 

「ならば、フェルムの者をこちらへ呼び出してはいかがでしょうか。相手の思惑が分からない以上、総督という立場として自然のことと思われますが」


「アルドリック。貴方の提案は一理あるけど、それでは相手に準備する時間を与えてしまう」


 ――友好的な突然の訪問。

 相手が取り繕う前の反応を見るにはこれが一番良い。


 それに。


 呼びつけるというのは、相手にとって高圧的に見られてしまう可能性がある。

 

 今までの総督府のフェルムへの対応を考えると、慎重に過ぎるくらいでちょうどいい。


 ここで対応を誤り、彼らとの敵対関係が深まってしまえば、最終的には武力による鎮圧しか手が無くなるだろう。

 

 それは、従来の総督府の方針を踏襲することを意味する。

 その選択は、成功が不確定だと歴史が証明している上、明らかに無駄な時間を消費することになる。

 

 この場は、アレク殿下から試されている案件の一つと捉えるべきだ。


 ——そして何より、ユージンにそのような選択はさせたくはない。

 それでは、従来の総督府の方針と何も変わらないから。

 

 この子にとっても、リオーネの民にとっても、遺恨を残さない形で場を収めなければならない。


 そのためにも、今までの総督とは違うとアピールする良い機会だと私は判断したのだ。

  

「先方の警戒を緩める意味でも私が同行すべきよ。これは譲れないわ」


 私の言葉にアルドリックは顔をしかめながら、ユージンに呟く。

 

「――総督、あなたの婚約者はいつもこんな感じなのですか?」

 

「はい、これが彼女の日常です」


「……苦労してますな」

 

「そこ、二人でなにヒソヒソ話してるの?」


「「なんでもありません!」」


 二人の会話はよく聞こえなかったけど、随分と気が合うようね。

 何よりだわ。

 

 こうして夜が更けようとしている頃、私達はフェルムの本拠地へと乗り込む算段を決めた。

 

 ◇

 

「では、早速乗り込みましょう」


 私が意気込んでいると、ドアをノックする音が聞こえる。

 

「総督にお目通りを願いたいという者たちが参りました」


 総督府の下仕えが、来訪者の訪れを告げる。

 

「――これから総督は俺たちと出立だ。それを遮るほど急ぎの者なのか?」

 

 アルドリックが迫る。

 

「はい、あ、いや……」


「なんだ、ハッキリ言え。誰が来たのだ」


「氷冠聖会の……司教です」

 

 私は意外な来訪者の報告を、驚きと共に受け止めた。

 

 

「……追い返しますか?」

 

 アルドリックの言葉に、私は苦笑する。


「それも良い考えね。でも、今はこちらを優先しましょう。居留守を使えるならともかく、一度取り次いでしまった以上、ここで追い返したら相手の心証を悪くするだけよ」


 ……わざわざ向こうからやってきた。

 その行為自体、何らかの意図があるかもしれない。


「アルドリック、いざという時はアリシアを最優先に守ってくれ」


 ユージンは目を僅かに細め、アルドリックに命令する。

 

「承知しました、お任せを。――それと」


 アルドリックはユージンと私を交互に見る。


「彼らは以前お伝えした通り、総督府とは表向きは融和的な立場をとっています。しかし実態はリオーネ王国の復活を掲げ、裏で暗躍する反帝国組織です」


「どうやら、こちらも慎重な応対が求められそうね」


「仰る通りです。黒い噂は絶えませんが、総督府も迂闊に手を出せないほどの影響力を持っています。――特にこれから会うクロイツ司教には気をつけてください」

 

 彼の言葉に、私たちは頷いた。

何気に、ユージンがアリシアの言葉に賛同しなかったのは初めてかも。


次回、新キャラ登場です。

お楽しみに。


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― 新着の感想 ―
とても、面白くなってきました。正直、打たれ弱いので、あまり辛い展開は、アレなのですが、どんな展開になるのか、楽しみです。
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