第35話 許されざる罪。
初めましての方も、またお目にかかりましたね、の方も。
ようこそいらっしゃいました。
本日の更新です。
そこで、目が覚めた。
夜明け前の薄暗い部屋。
世界が目覚める前の、静かな時間。
その、余りにもリアルな夢――
かつての私が犯した罪。
おぼろげだった記憶。
それを、鮮明に思い出してしまった。
◇
――ユージン、ユージンは?
私は咄嗟に上半身を起き上がらせ、周りを見渡す。
…………。
隣で、静かな寝息を立てている。
そうだ、この子は生きていてくれていたのだ。
私はその事実に心から安堵する。
「良かった……。本当に!」
だけど喜びもつかの間、押し寄せる後悔の念が私を覆っていく。
……私には、この子の母親を名乗る資格が、ない。
子を見放した親。
その冷厳たる事実がある限り。
私の罪は、永遠に消えることはない。
「……ごめんなさい、なんて言えないね」
ユージンを眺めながら呟く。
するとユージンは私の気配に気づいたのか、うっすらと目を開ける。
「――おはよう。随分と早起きだね」
寝起きで少しだけ掠れた声。
それすらも愛おしい。
そして、何かに気づいたかのような表情で、ユージンも身体を起こす。
「――何かあったの?」
彼は、その大きな瞳で真っ直ぐに私を捉える。
「……なぜ、そう思うの?」
私の言葉にユージンは少しだけ眉をよせ、答えを探すように視線を落とす。
「アリシア、自分の頬を触ってみて」
私は両手で頬に触れる。
汗ではない。
目尻から、ひとすじの涙が流れているのがわかる。
――私は、泣いていたのか。
ユージンはわずかに首を傾け、私をみつめる。
「なにか、嫌なことを思い出した?」
その言葉の温かさを感じながら私は目を伏せ、ゆっくりとかぶりを振る。
「忘れていたけど、絶対に忘れてはいけない夢をみたの」
「そうか……。僕に何かできることはある?」
彼は再び問いかける。
「――ひとつだけ、聞いてもいい?」
「うん」
「――ユージンは、孤児院に入る前の記憶はある?」
ユージンは、あの後どうなったか。
私は貴方を選ばなかった。
セレナ・リオーネは王として、挑発めいた行為で帝国へ抵抗の意思を示した。
それが味方を鼓舞し、城は守られた。
帝国は、抵抗した国を決して許さない。
それが領土を広げるための国是とすら言える。
しかし、セレナが処刑された後リオーネの地は、攻め滅ぼした領地への慣例となる略奪などが起こらなかったと聞いている。
そして、セレナの息子。
ユージンは今ここにいる。
つまり、亡国の遺児は生かされたということになる。
その時、帝国内で何か……。
「――いや、やっぱり今のはナシ。何でもないの」
それを聞くってことは、ユージンにまで嫌な思い出を呼び起こすことになるじゃない。
生かされたからと言ったって、丁重に扱われたなんて事あるわけがない。
なにを聞いてるんだろう、私。
馬鹿じゃないだろうか。
「――僕を中心に、高位だと思われる人たちが大きな声で何か言い合っている。 そしてその中の一人が、僕を抱き上げて、別の静かな部屋へ連れていってくれた。その人に、『心配いらない』と声をかけられた」
「え?」
気づくと、彼が笑みをたたえながら私を見つめている。
「それが、覚えている一番古い記憶。恐らくだけど、その人に僕は助けられたのだと思う。……それが誰だったか、というのは今もわからないんだけど」
そう言うと、再び心配そうな表情になる。
「少しは役に立ったかな。この話」
「……うん。ありがとう。ごめんね、嫌なことを思い出させちゃって」
そうか、帝国内にユージンを庇う人がいたんだ。
私はこの奇跡のような事実に、心から感謝する。
そして、あの時のことをユージンは覚えていない。
それで何かが変わるわけでも、許されるわけでもないけれど。
「いや、アリシアがこの話で少しでも楽になれば嬉しい」
――理由も聞かず、素直に話してくれる。
その気遣いがありがたい。
理由など、説明できないのだから。
それでも、ひとつだけ改めて私は覚悟を決める。
あの日、セレナの私が手放してしまったユージンを、誰かが守ってくれた。
ならば今度こそ。
この子が立つ場所は、私が守る。
それが、今の私にできる償いなのだから。
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