第33話 反省と同衾。
初めましての方も、またお目にかかりましたね、の方も。
ようこそいらっしゃいました。
本日の更新です。
「人が変わったというか、誰かが乗り移ったように見えたっすよ」
「そ、そう?」
総督府内の挨拶回りを終え、応接室にてユージンとエルミナの三人で一休みする。
「口調も、声のトーンも変わってたっすから」
紅茶を淹れながら、エルミナが私のヴァルケンへの態度について印象を述べた。
「アリシアの聡明さはいつも通りだけど、口調まで変わったのはびっくりした。 聞いていて背筋が伸びる想いだったよ。あれは、単なる統治者というより、王の風格すら……」
「正にそれっすねぇ」
エルミナの同意にユージンは頷いたあと、真剣な眼差しで私を見つめる。
確かにあの時は、アリシアとしての意識を保ったまま、セレナの感情にまかせることへの違和感がなかった。
……それでヴァルケンの対応は失敗しちゃったんだけど。
「正直、アリシアの振る舞いに見惚れてしまったんだ。改めて、僕の一生を捧げるに値するお方だと思ったよ」
瞳を輝かせながら思いの丈を私に伝えるユージン。
その様は、まさに王に仕える騎士のそれだった。
ん、んー。
そっか、やっぱりそういう方向に行っちゃうかあ。
私としては、あなたにそうなって欲しいんだけどな。
エルミナに視線を向けると、苦笑いしながらゆっくり首を左右に振っている。
この子の独り立ちには、まだまだ時間がかかりそうね。
大変だと思いつつ、何故だか自然と笑みがこぼれてしまうのだった。
◇
「ところでユージン。ここへ来る途中に襲われた件で聞きたいことがあるの」
私の言葉に含まれてた重い響きを察したのか、ユージンは真剣な眼差しで頷く。
「あの時、あなたは敵に魔法の使い手はいないと断言したわよね。何故あの場で瞬時にそう判断できたの?」
もちろん敵が初手で弓を使ったことで、状況的に推測することは可能だ。
でも、それを断言できるほど戦いは単純なものではない。
ましてや、どう考えても今回の相手は戦闘に慣れている集団だった。
あえて油断を誘い、その後魔法で攻撃するやり方だってあり得たのだから。
だから、私は一つの仮説を立てていたのだ。
「……流石、よく見てるね」
少し驚いた表情を浮かべつつ、ユージンは感心したように私の質問に答える。
「騎士団に入って、魔法使いを相手に戦うようになってからなんだけど、戦う相手の魔力を感知できることに気づいたんだ」
「——それは、相手がどの系統の魔法を使うか、というところまで分かる?」
「うん。だから事前に対処ができる。この力のおかげで随分助かってるよ。今回も、だから問題ないと思ったんだ」
「なるほど。だけど模擬戦では感知できない。実戦の時だけその能力が発揮されるのではないかしら」
私の指摘に、ユージンは目を見開きながら何度も頷く。
——やっぱり、そうだったのね。
自分に悪意を持つ者が行おうとする魔力操作。
これを事前に察知する能力をユージンは持っていた。
仮説が証明されたことが、堪らなく嬉しい。
今のアリシアにはない、前世のセレナが持っていた能力なのだから。
魔力を必要としないこの力は、魔力を持たぬ者が、持つ者に抗うための大きな手段になる。
そして、前世において私以外にこの能力を持つ者はいなかった。
この子を守る力を、少しでも引き継がせることができた。
そう思うと、胸の奥に安堵が満ちていく。
ただ……。
「——なんでそーゆー能力を持っているって早く言わないんですかね、このお方は!?」
私の心を読んだかのようなタイミングで、エルミナがユージンに声を上げる。
対するユージンは、いきなりの詰問に戸惑いの表情を隠せない。
「これで二回目っすよ。アリシア様がどれだけ貴方様のことを気にかけているか、いい加減理解してください」
目を細めながら、低い声で刺すような言葉を投げるエルミナ。
「アリシア様に少しでもご安心いただく。それができなければ、手柄をいくら立てたところで意味は無いっすよ。こんなこと、ユージン様自身が一番分かってるんじゃないんすか?」
「……その通りだ、エルミナ」
ユージンは私へ向き直り、痛みをこらえるような表情で頭を下げる。
「ごめんなさい、アリシア」
あー。
また、エルミナに言わせてしまった。
私がもっと早く確認しておけば良かったのに。
帝都で聞いていた、ユージンの人並み外れた戦場での強さ。
その段階で、この子に魔力がないのは分かっていたのだから。
ならば、その強さを支える何かがあると考えるべきだった。
騎士団寮での動きを見て、ユージンの身体能力ばかりに目を奪われてしまっていたのは否定できない。
……らしくないわね。
しんっ、と静まりかえる中、私は言葉を探す。
「——きょ、今日はもう遅いし、このまま休みましょう。夜も更けてきたし、明日もあるし、ね」
「明日は誰にだってあるっすよ」
私の咄嗟の言葉に、すかさずエルミナがツッコむ。
だ、だめかあ。
私は、がっくりと肩を落とす。
しかし少しの間のあと、彼女は軽く吹き出しながら笑顔を見せた。
「——主君に気を遣わせないよう、お互い騎士として気をつけるっすよ、ユージン様」
「……うん。肝に銘じるよ」
その後、エルミナに案内されるまま、私とユージンは総督府内に設けてある居住エリアへと移動した。
……エルミナ、いつのまにメイドから騎士にジョブチェンジしたのかしら。
◇
――やっぱり、こうなるわよね。
日中エルミナに、総督府の居住部分の確認と整理をしてもらった。
そして、彼女に案内された部屋は――
「僕、ソファで寝ます」
そう、ユージンと同じ部屋。
同じベッド。
まあ、婚約者なんだから当然よね。
「別々でも不思議ではないっすけど、ここは周りへ円満アピールした方がいいと思うっすよ」
と、ニコニコしながら主張していたエルミナは確かに正しい。
「いいのよ、ユージン。ソファじゃ疲れが取れないわ」
「で、でも……。いいの?」
「いいの。ゆっくり休みなさい」
考えてみれば、親子が一緒のベッドで寝るなんて、普通のことじゃないの。
……今のユージンは年上だけど。
既にナイトドレスに着替えていた私は、そそくさとベッドへ入り、ユージンが寝る場所に背を向けて横になる。
私に続き、静かにベッドへ入ろうとしてるユージンを尻目に目を瞑る。
「……おやすみなさい」
背中越しにユージンの小声が聞こえる。
私は目を閉じたまま。
「おやすみ」
と一言返す。
それっきり、静かになった。
こころなしか塩対応になったのは、決して緊張しているからではない。
あくまで、母としての立場からの態度。
……。
やがて睡魔が私を襲う。
思えば今日も一日色々なことがあった。
何者かの襲撃とユージンの桁外れの強さ。
ユージンに引き継がれたセレナの能力。
アルドリックとの再会。
そしてなにより、私の中にいるセレナ・リオーネの存在。
どれも、リオーネ領のこれからを暗示するような出来事だった。
かつての王宮という場所が、私の中へ何か影響しているのかもしれない。
そんなことを考えるうちに、私は眠りに入る。
その夜、私は夢をみた。
それは、思い出したくもない前世の記憶。
同時に、忘れることなどできない前世の感情。
私がユージンを手放した、あの日。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
次回はセレナの過去話です。
……。
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