第31話 女王の片鱗。
初めましての方も、またお目にかかりましたね、の方も。
ようこそいらっしゃいました。
本日の更新です。
「ふん、貴様のような魔力なしの若造に、この地を統治できるとも思えんがな」
アルドリックの案内で領都セレスティアへ到着した私たちは、そのまま総督府へ向かう。
かつて王宮だったその建物は、帝国の旗を掲げつつも、補修跡の残る石造りの床や柱に、リオーネ王国時代の面影を色濃く残していた。
その姿に、懐かしさを感じつつも胸の奥が軋む。
かつて女王セレナとして過ごした記憶は、あまりにも、重い。
そこで私たちは、いきなりの『洗礼』を受けたのだった。
「お出迎えありがとうございます、ヴァルケン総督」
「私を総督と呼ぶなど、イヤミのつもりかね」
ヴァルケンは鼻の下に長く細い髭を蓄え、その小柄な身体を精一杯に反らしてユージンを見上げる。
ユージンの挨拶にも、明らかに不快な表情を崩さない。
「ふん。大体私のような高貴な者に対し、このような辺鄙な場所への赴任などという命令そのものがおかしかったのだ」
うわー。
清々しいくらいにひねくれてるな。
でもまあ、この人もいわば『左遷組』だ。
私たちは帝都にいる間、帝国側から見た旧リオーネ領の評価について調べていた。
帝国貴族にとって、リオーネ地方総督の座は決して望ましい地位ではない。
この地が帝国領となってから十五年も経つのに、未だ平定できていない。
だけど、それを自分たちの統治の失敗と認めるわけにはいかない。
だから、いつしかリオーネ地方全体を、『従順さを知らぬ者たちの住む未開の土地』と見下し、忌避するようになった。
ヴァルケンの態度を見れば、それがよく分かる。
自尊心を肥大化させ、自分にふさわしい役職ではないとうそぶく。
自分自身の能力の欠如という問題から目を背けるために。
だからこそ、その職務を全うできぬまま解任されるというのは、単にプライドが傷つけられるだけではない。
今後のキャリアが閉ざされることを意味するのだろう。
そう思うと、ちょっと不憫にも感じるわ。
もちろん、同情する気にはなれないけど。
——アレク殿下は、ユージンと私に何を求めているのか。
この辺りも察しろということかしらね。
ふう、と私は軽く息を吐いた。
「――紹介します。彼女が私の婚約者のアリシアです」
ユージンの言葉を受け、私はヴァルケンへ向けてカーテシーを取る。
「ヴァルケン様、初めまして。ユージン・ラウネル総督の婚約者、アリシア・レオニエルです。以後、お見知りおきを」
すると彼は皮肉たっぷりの表情で、値踏みするように私をのぞき込む。
「……職場に女を連れ込むなど、良いご身分だな、ユージン殿。流石は第二皇子お気に入りの小僧。特権も帝室並ときたか」
顔、近いって。
ふとユージンを見やると。
さっきの戦闘モードに入るときの顔してる。
ダメよ、冷静にならないと。
彼から情報を提供してもらって、この地の現状を少しでも把握しないといけないんだから。
私はユージンに、目線でそう伝える。
彼は仕方ないといった表情に戻った。
「ああ、君にも一つ良いことを教えてやろう。リオーネの民はとにかく反抗的だ。徹底的に追い詰めて、奴らの立場を理解させるのだ。魔力なしの劣等民族、だとな」
――劣等民族。
ヴァルケンが私に向けて放ったその言葉に、前世の女王であったセレナ・リオーネの血が苛烈に騒ぎ出す。
一瞬頭の中が空白になる。
次の瞬間、色鮮やかな情景が浮かび始めた。
前世でのリオーネの民たち。
かつての部下たち。
苦楽を共にした一人一人が頭の中をよぎっていく。
「……なるほど。この地に住むリオーネの民は、劣等民族、と仰るか」
私はヴァルケンへ、視線を向けたまま一歩近づく。
声色が一段低くなる。
「貴君はその劣等民族とやらに、散々な目に遭い、総督を解任されるわけだ――ヴァルケン殿はさぞかし有能、なのだろうな」
皮肉な笑みを浮かべる私の言葉に、目を見開くヴァルケン。
目の端に、驚いた表情のユージンが見える。
「そもそもリオーネの民は――いや、すべての民は、劣等などと呼ばれる謂れなどない!」
セレナの感情が、私を覆い尽くす。
ここがかつての王宮だから?
あふれ出る言葉が止まらない。
「統治者が民を見下してどうするというのだ!彼らは共に歩む存在である。ならばその道を示すのが我らの務めであろう」
私は、更にヴァルケンに詰め寄る。
「そのために心血を注ぐのが我らの使命。その使命を忘れた統治者に、民を治める資格はない。何故それが分からぬか!」
――ひと息にヴァルケンを詰めたところで、ハッと我に返る。
彼は目を白黒させて、あんぐりと口を開けた表情のまま動かない。
ユージンは、驚きつつもやれやれといった表情で私を見ている。
それ、いつもの私の役目……。
――あー。
やっちゃった。
ユージンには大人しくするよう促したくせに。
ふとアルドリックを見ると、唖然とした表情で私を見ていたが、
私の視線に気づいた瞬間、眼光鋭く私を睨み始めた。
……それはそうよね。
総督の婚約者風情が、かつての上司に噛みついたのだから。
こうして、総督府は静寂に包まれるのであった。
※告知がわかりづらくて大変申し訳ありません。
次回より、週3回の更新となります(月・水・金)
次話は3日(金)更新ですので、よろしくお願いします。




