第30話 総督府警備隊長 アルドリック。
初めましての方も、またお目にかかりましたね、の方も。
ようこそいらっしゃいました。
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その騎馬集団は、そのままユージンの元へと向かっていく。
私はその光景を見てため息をついた。
「アリシア様、まだ諦めるのは早いっす!」
エルミナの言葉が後ろから聞こえる――
「大丈夫よ、エルミナ。あれは帝国総督下の直属兵だから」
彼らが掲げる旗を見て、私はエルミナにそう告げた。
「総員突撃!ラウネル総督をお守りしろ!」
先頭を駆ける兵士の号令に、その集団は矢のような速さでユージンのいる場所へ突き進んでいく。
そして、その存在に気付いた敵兵たちは退却しようとするが、そのことごとくが逃げ遅れ、倒されていった。
◇
「敵の生死を確認しろ!負傷者には治療を。動けそうな者には縄をかけておけ」
先ほど号令をかけていた、おそらく部隊長であろう男性が他の兵に指示をした後、ユージンと言葉を交わしながらこちらへ向かってくる。
彼は。
あの姿は――
「アリシア、ひとまず敵は追い払いま……追い払ったよ。安心して」
馬車に戻ったユージンが、私をほっとさせる言葉をかけてくれる。
「……とにかく、あなたが無事で本当に良かった」
思わず本心が漏れる。
「心配させてしまったね。ごめん」
ユージンが頭を下げると、エルミナは半ば呆れたような声で感心している。
「何か作戦でもあるのかと思ってましたが、想像以上に力業で押し切ったっすね」
彼女の言葉に私は頷く。
――確かに、あれだけの力量を持っているんだ。
きっと、ユージンの行動は最善だったんだと思う。
でも——
私は、少しだけ不安と期待の入り交じった引っかかりを感じていた。
やがて、後ろに控えたその男性が私に敬礼をする。
「初めまして、アリシア・レオニエル公爵令嬢。私は――」
そこまで言って、彼は言いよどむ。
私と目があった彼の瞳の奥が一瞬、私を見定めるような雰囲気を醸し出していた。
「……リオーネ領総督府警備隊長、アルドリック・ヴァルターです。到着が遅れたことをお詫びします」
低い、静かな口調で名乗った後、彼は押し黙る。
その表情から、感情をうかがい知ることができない。
「アリシア、僕がさっき『印象に残ってる方』って話したの覚えてる?」
気を取り直すように、少しだけ弾んだような口調でユージンが説明する。
「え、ええ。もちろん覚えてるわ」
動揺を隠すように平静を装いながら私は返事をする。
「それがアルドリックなんだ。会ったのは一度だけど、今でも忘れられないよ」
「そう仰ってくださるのは光栄です。ですがお世話になったのは俺の方ですよ、殿下」
「殿下はやめてくれよ、アルドリック」
殿下、か……。
苦笑いしながら訂正を促すユージンに、彼は一瞬表情を硬くしたが、すぐに感情の見えない表情に戻ったまま頭を下げる。
「――これは失礼しました、ラウネル総督」
「いや、そういうつもりじゃなくて……」
「総督、今のあなたは私の上官です」
ハッキリした言葉で彼はユージンを窘めた。
「――うん、そうだね。分かったよ、アルドリック」
彼の言葉に、わずかに残念そうな表情でユージンは応えた。
「それではこれから総督府まで、私どもが案内します」
彼はそう言うと、再び敬礼ののち、集まった部下たちに指示を出し始める。
「……昔はもっと気さくな感じだったんだけど。僕が子供だったからかなあ」
「多分、そういうことではないと思うわ」
「え、アリシアは会ったことあるの?」
「いや、初めてよ」
――今世では。
アルドリック・ヴァルター。
前世での私――女王セレナ・リオーネは彼をよく知っている。
以前と違い、長く伸びた髪は無頓着に乱れ、無精ひげもそのまま。
さらに心労のせいだろうか、生気のない表情をしている。
その整った顔立ちと軽快な話術で、数多の女性との噂が絶えなかったあの頃と印象は全く違っているが、それでも見間違えることはない。
彼は私の親衛隊長だった人。
私の最古参の部下だった人。
――そして、セレナ・リオーネだった私の処刑を執行した人。
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。




