第29話 ユージン無双。
初めましての方も、またお目にかかりましたね、の方も。
ようこそいらっしゃいました。
本日の更新です。
ユージンは私の方へ振り向く。
「どうやら何者かがこの馬車に用があるようです。確認しますので……ア、アリシアはここでお待ちを」
「……気をつけてね」
非常事態に対し、ユージンが即座に戦闘モードへと切り替わっていくのが分かる。
この状態で私の呼び方を気にするなんて、その肝の据わりようが頼もしい。
でも同時に、彼に何かがあったらどうしようという恐怖が私の心を乱していく。
前世ではこのような場面を散々体験しているのに。
何か励ます言葉をかけたいのに、言葉にできない。
それでも、私の精一杯の言葉にユージンは微笑み、エルミナへ声をかける。
「彼女を頼むぞ、エルミナ」
「任せておくっすよ!」
そうして彼は振り向き、引き続き兵達へ指示を出す。
「奴らは弓を構えている。総員盾の用意!矢を防げ!」
やがて集団から放たれた矢がこちらへと降り注ぐ。
しかしユージンを始め、兵たちの盾によりすべての弓は弾かれた。
ユージンは被害状況を確認するように周りを見渡す。
ここまでは皆無傷のようだ。
その集団は、騎馬を先頭にこちらへ向かい丘を駆け下りてくる。
ユージンは片手に盾、片手に槍を構え直す。
「どうやら相手に魔法の使い手はいない。馬車を守ることを最優先にしろ!奴らを一歩たりともここへ近づけるな!」
彼は他の騎士に指示を出すと、単騎のまま丘の上へと馬を走らせていく。
「――貴様らの目的は私であろう。リオーネ領総督、ユージン・ラウネルが相手だ。かかってくるがいい!」
ユージンの言葉に襲撃者は一瞬怯んだが、そのまま無言で一斉に彼へと襲い掛かる。
その数、二十を超える。
……あの子、自分を囮にして馬車を守ろうとしている。
だから、素性を敢えて明かしたのね。
ユージンの意図を察した私は、たまらず馬車の扉に手をかけた。
「アリシア様、今はここでお待ちください!」
エルミナがその手を掴む。
「今私たちが出て行っても、あの方の迷惑になるだけっす」
「でも、あんな不利な場所で、あんなに沢山の敵がいるのに!」
「我慢も応援のうちっすよ!」
彼女の叫ぶような言葉に、私はびくっと体を震わせる。
「今はユージン様を信じましょう。あの方が考えなしな行動を取るとは思えません」
「……なんでそんなこと言えるの?」
「落ち着いて考えてみるっす。あの方が、こうありたいと願う使命は?」
「――私を騎士として守ること」
「そうっす。そして、もしあの方に何かあったら、その使命が果たせなくなります。それは、あの方自身が望まないと思うんすよ」
「……」
「以前アリシア様に報告した通り、あの方は戦場において無類の強さを発揮されます。だから、今は信じましょう。あの方のアリシア様に対する、騎士としての意志の深さを」
彼女の言葉を聞くうちに、頭が冷えていくのを感じる。
――思い出した。
ユージンの強さを。
生還率の高さを。
帝都で家族に初めて啖呵を切った時のことを私は思い浮かべる。
「――そうね。エルミナの言うとおりだわ。取り乱してごめんなさい」
冷静になった私は、馬車の傍に備える兵士の一人に声をかけた。
「現在の戦況はどうなっているの?」
「はい、半数ほどの襲撃者を倒したところです」
彼の言葉に反応するように視線をそちらに向けると。
確かに、かなりの敵がユージンの周りに横たわっていた。
対するユージンは、疲れた様子も見えず、残った襲撃者を見下ろしている。
すでに騎馬兵は倒され、歩兵だけが残っていた。
どうやらユージンの見立て通り、最も警戒すべき魔法の使い手はいないようだ。
とにかく、ユージンは無事だった。
その事実に、私はひとまず胸をなでおろす。
丘の下側という不利な位置で、ユージンはあっという間に半数もの敵を倒した。
改めて、あの子の強さを実感する。
◇
ユージンの動きを目で追っている私に、先ほどの兵士が声をかけた。
「ユージンの――あ、いえ、ユージン様のレベルになると、周りに味方はいない方が却って戦いやすいそうです」
――この兵士、確かあの騎士団寮でユージンをいじめてた内の一人だ。
よく言うわ。
ユージン一人に任せておいて。
と、今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
よく見ると、残された敵兵はユージンから距離をとり始めた。
ユージンが動けば離れ、止まると近づき、あの子との勝負を避けつつ包囲は崩さない。
――敵は援軍を待っているのか。それとも単に攻めあぐねているのか。
その間も全く声を上げない彼らは、ただの賊とは思えない。
相当な訓練を積んだ、手練れの集団だ。
とすると、これは散発的な襲撃ではなく、最初から予定されていた?
きっとユージンはそれを予感していたのね。
だから、名乗りを上げたのだろう。
そして、そのまま膠着状態が続くかと思った瞬間。
戦況が動く。
別の武装した騎馬集団が、再び丘の上に現れたのだ。
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。




