第22話 目標と目的。
初めましての方も、またお目にかかりましたね、の方も。
ようこそいらっしゃいました。
本日の更新です。
ユージン達と別れ、孤児院からの帰りの馬車の中、私はエルミナにこれまでの経緯についての詳細を説明をした。
彼女は、殿下からの命令については驚きを隠さず、真剣な表情で私の話に聞き入っていた。
しかしユージンとの会話に差し掛かると、初めこそ真面目に聞いていたものの、徐々に呆れたような表情に変わっていき、最後には可哀想な子を見るような目で私に言い放った。
「あー。それは噛み合っていないっすね」
彼女のダメだしに、私はちょっとだけ憤慨する。
馬車の車輪が石畳を小さく跳ね、窓の外を夕闇の帝都が流れていく。
「だって目標は一緒なのよ?ユージンも私の意見に賛同してくれたし」
「いや、目標はいいんすよ。問題はその目標がなんのためか、ってことっす」
「……どういうこと?」
私の問いかけに、エルミナは人差し指をこめかみに当てしばし考え込んでいる。
「――アリシア様のお望みは、あの方が総督の経験を通して一人前の男性になること。ここまでは良いっすよね?」
「そうそう。ユージンもそうなりたいのでしょう?」
私の言葉に、エルミナは目を瞑り、やれやれといったように首を振る。
「たぶん違うっすよ、それ……」
「じゃ、じゃあユージンはどういうつもりでこの話を引き受けたの?」
「あの方は、生涯をかけて誓ったんですよね。幼きアリシア様の騎士になるって」
「そうよ。だから私はそれじゃあまずいと思って……」
「そこまで強い想いを持っているんすよ。騎士になるという志を叶えたいと思うに決まってるじゃないっすか」
「――つまり、あの子……いやいや、ユージンは総督で居続けるより私の騎士でいることを目的に引き受けたってこと?」
「もう『あの子』でいいっすよ……」
まいったなあ。
エルミナの言うことが本当なら、真逆の目的じゃないの。
「ねえ、どうすればいい?エルミナ」
「どうすれば、って……。放っておけばいいんじゃないっすか?」
「ど、どうして?」
「……全く、あの方に関することになると、途端にポンコツ化するんだから。ウチのお嬢様は」
「何か言った?」
「いいえー。何にもー」
ブツブツと呟いていたエルミナが顔を上げる。
「ここでアリシア様の本心を伝えたら、がっつりモチベ下がりますよ、あの方」
仕方ないなあ、という仕草で彼女は言い放つ。
「アリシア様が目指すのはあの方の自立。あの方が目指すのはアリシア様への忠誠なんすから」
「…………」
「目標は一緒でも、目的が違うってやつっす。ならこのまま勘違いさせておけば、馬車馬のように働くと思うんすよね」
「馬車馬って……。エルミナ、あなたちょっとユージンに冷たくない?」
「そりゃあこれからはライバルっすからね、アリシア様すきすき勢として。
なので、あの方にも従者としてしっかり働いてもらいますよー」
アリシア様すきすき勢って……。
従者って……。
怖いお姉さんの顔をしながらニヤリと笑うエルミナ。
「なら、あの子の自立はどうやって促せばいいと思うの?」
「総督として必死に働けば、その内自然に芽生えるんじゃないっすかねえ」
自然に、って、そんな投げやりな。
……でも、やっぱりそれしかないか。
私もちょっと考え方を改めたほうがいいのかなあ。
窓ガラスに映る私の顔は、母親というには少し頼りなく見えた。
それは、息子より年下だからという理由だけでは恐らくない。
◇
それはそれとして、エルミナとユージン、これから上手くやってくれるかしらと私が思っていると。
「それで、あの……」
「どうしたの?」
エルミナから不意に声がかかる。
「私もアリシア様のメイドとして、リオーネ領に同行させていただけるのかなって……」
急にしおらしくなったような態度のエルミナに、私は思わず吹き出してしまう。
「――当たり前じゃない、そんなの。エルミナが側にいてくれない状況なんて考えもしなかったわよ」
「良かった。私も馬車馬(仮)くらいは働きますよー」
「ふふふ。仮、なのね。それで十分よ」
そうこうしているうちに、レオニエル公爵家の邸宅前で馬車が止まる。
今日最後の戦いを前に、私はふんすっ!と気合いを入れた。
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。




