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私に婚約破棄を告げたのは前世の息子でした ~冷血女王、今世は過保護ママになります!~  作者: 森下ヱンジン
第一章 帝都編

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第21話 誓わせてください、アリシアさん。

始めまして、の方も、またお目にかかりましたね、の方も。

ようこそいらっしゃいました。


本日の更新です。

 ――ああ。

 これがこの子の本音なのだ。


 私がこの子に良かれと思った行為が、彼の矜持を傷つけていたのだ。


 敗戦国の遺児で、しかも魔力がない。

 それでもこの子は騎士になると生涯をかけて誓った。


 細い線をたぐるようなわずかな可能性を信じて。

 それだけを拠り所に、想像を絶する日々を重ねてきたのだろう。

 

 その願いを、私は蔑ろにした。

 

 ユージンの思い込みを自分勝手と言う人もいるかもしれない。

 けれど私は、この子の生きる糧となってきた想いを否定したくない。

 

 ――そんなこと、できるわけが無い。

 

「……婚約の白紙撤回を申し上げたのは、夫として貴方に並び立つのではなく、騎士として貴方を影からお守りしたいと思ったからです。魔力のない僕でもアリシア様にご迷惑をかけず、胸を張ってお側にいられる、ただ一つの願いでした」


 息子の告白のような言葉に、私は黙って耳を傾ける。

 

「アリシア様をお守りすると誓ったあの日から、僕はいつか、貴方の騎士になることだけを支えに生きてきました。だけど、今の僕にはその資格がない。実際――」


「実際?」


「僕のせいで今、貴方を困惑させ、不機嫌にさせている。そして、その対処の方法が僕には分からないのです」

 

 ――対処の方法が分からない。


 それはユージン、あなたのせいでは絶対にない。

 知る機会がなかった環境のせい。


 あなたは、私の騎士になることだけを支えに生きてきたと言った。

 それは同時に、それ以外のものを持つ余裕がなかった、ということ。


 その意味を理解した瞬間、私は涙が溢れそうになる。


 そして、その根幹の原因は。

 その環境にあなたを追いやってしまったのは。



 …………。



 そこでようやく、私は気づいた。


 ユージンは、私との婚約を単に気を遣って遠慮したから白紙にしてほしいと言った訳ではない。

 そんな生易しい理由ではない。


 婚約者として隣に立つ資格など、自分にはない。

 騎士になることでしか、私のそばにいることは許されない。

 

 この子はあの時、そこまで思い詰めていたのだ。


 そんな負い目を、この子に抱かせてしまっているのだ。


 

 部屋を覆う沈黙だけが、ここを支配している。


 不甲斐ないのは私の方だ。

 

 つい、ごめんなさい、という言葉が喉まで出かかるが、そこで私は思いとどまる。

 

 ――いや、これは違う。

 

 今この子へ謝罪をしてはいけない。

 彼の矜持を余計に傷つけてしまう。


 考えなさい、私。

 今、ユージンに必要な言葉は。



「――分からないなら、これから知ればいい」


「……えっ?」


 私の発言に、彼は何事かと顔を上げる。


「今の貴方は、まだ学びの途中なの。教わってもいないんだから、できないのは当たり前でしょう」

 

 私は、あえてこの子には敬語を使わないことにした。

 

「それは……そうとも言えますが、今の僕に教わる資格があるのでしょうか?」


 私の願いは、ただ一つ。


 この子には、誰かを守る事だけを生きる目的にして欲しくない。

 それは、ただの依存になりかねない。


 むしろ、守る側であると同時に、守られるに値する人になって欲しい。


 そのための舞台は、もう用意されている。

 第二皇子によって。

 

「心配しないで。私が教えてあげるわ」


 私の言葉に、ユージンは感極まったような表情を見せる。

 

「はい……。本当に、ありがとうございます」


 ◇

 

 ――確かにここの院長は、私の知らないこの子を知っている。

 それは当然だ。

 この子を放棄したのは私なのだから。

 

 だからこそ、私ができなかった子育てをしてくれた彼女に。

 

 ユージンを一途で素直な子に育ててくれた彼女に。

 心からの、感謝を。


 そして私は、ユージンのこれからを一緒に歩むのだ。


 気がつけば、私の中にある澱みのようなものはすっかり消えていた。


 ◇

 

 その後、院長は子供たちの世話のため退席し、応接室には二人だけとなる。

 部屋の中にしばしの静寂が訪れるが、それが心地よい。

 

 耳を澄ますと、子供たちの声が聞こえてくる。

 

 少しばかりの静けさを楽しんだ後、私はユージンに、第二皇子からの命令について説明した。

 

 彼は最初こそ驚きに目を見開いていたが、すぐに姿勢を正した。

 それきり、静かに私の話を聞いている。

 

 その瞳には、自分の立場を理解している者の覚悟が感じられた。

 

 

「……どう?できる?もっとも、私たちには断るという選択肢はないのだけれど」


 私の問いに、彼は逡巡した表情を見せる。


「アリシア様にお仕えできるなら……」


「はっきり仰いなさい」


「はい、必ず成し遂げます」


「ん、良い返事」

 

 私の言葉に、ユージンは少しだけ頬を紅潮させた。

 

「これが上手くいけば、あなたの――立派に独り立ちする成長は間違いないわ」


「はい、これで僕も――貴方に胸を張れる成長ができます」


 ……ん?

 この子は理解してくれてるのよね?


 ユージンは立ち上がり私に近づき、ひざまずく。

 息子の仰々しい立ち振る舞いに思わず苦笑いをしつつ、嬉しさが込み上がってくるのを実感する。

 

「汚名返上の機会をいただき、誠にありがとうございます。これから僕は貴方の剣――」


 私はたまらず、彼の言葉を遮り、思わずその手を取った。

 

「そうね。一緒に協力していきましょう!」


「……えっ?あ、ハイ」


 なにか奥歯にものが挟まった表情をしてるけど、どうしたのかしら、ユージン。


 それにしても。

 この子は自分より誰かを守ることを優先するとは思ってたけど。

 

 その一番が、まさかの私だったとは。

 

 ――でも、うん。

 これで、ユージンとの距離が少しは縮まった気がする。

 それは本当に良かった。

 

 私たちは、リオーネ領平定という未来へ歩き出す。

 

 息子と同じ思いを共有できる。

 私にとってこんなに喜ばしいことはない。



 ……同じ、よね?

 こういうとき、エルミナがいてくれると分かりやすいんだけど。

ここまで読んでくださって、本当に嬉しいです。


ユージンの婚約破棄の真相がここではっきりとしました。

そして、ふたりの関係性も変わっていきます。

 

新たな目標を目指すふたりのこれからを、改めて見守って下さい。


続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価、いいねで応援していただけると嬉しいです。


皆さまからの反応が、次の話を書く大きな励みになります。

それでは、明日20時30分にお会いしましょう。

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