第20話 ユージンの真意。
始めまして、の方も、またお目にかかりましたね、の方も。
ようこそいらっしゃいました。
本日の更新です。
「――私を守ると誓った、ですか!?」
私は院長からの説明に思わず声がうわずってしまう。
ユージンの、要領を得ない説明に耐えきれないと言い切った院長は、彼の代わりに話を続ける。
「はい、ユージン様はまだこの孤児院に居たときから、貴方様をお慕いしていたのです。彼は幼い頃私にこう仰いました。『僕が騎士としてお守りするひめさまに出会いました』と。そのお方が、貴方様なのです」
――え?
そんな。急にそんなこと言われて……。
母としてこんなに嬉しいことはないわ!
なんていい子なの、ユージンってば。
……いやいや。ちょっと待ってちょうだい。
展開があまりにも意外すぎて、思考が追い付かない。
大体、昔そう誓ったということは、私とユージンは婚約話の前に会っている?
そんな大切な場面、すっかり頭から抜け落ちてるわよ。
「……あの、大変恐縮ですが、それはいつ頃のお話でしょう?」
いつ、いつなの?
そんな素敵なシチュエーションが起こったのは!
「それは――」
「後は僕から話します」
院長の言葉を遮るように、ユージンが話し出す。
「もう十年以上前になります。レオニエル公爵家の皆様がこの孤児院へ慰問にいらっしゃった事がありました」
「……えーっと」
「アリシア様が覚えていないのも無理はありません。まだ幼い頃の話ですから」
彼は暗い表情を残しつつも、その瞳に熱を宿し、静かに、けれど絞り出すような声で言葉を続ける。
「その時に初めてアリシア様と出会いました。……あの時に誓ったのです」
少しの沈黙の後、ユージンは続ける。
「生涯、貴方様をお守りする騎士になると」
そう言うと、彼は一瞬だけ目を輝かせた。
「……だから、第二皇子殿下から婚約の命を受けたときは衝撃を受けました。貴方に再会することを心から望んではいましたが、まさかこんな形になるとは」
それは、そうだろう。
生涯を誓った相手に思いがけず再会したのだから。
でも――
「……幼少時の私は、何を言ったのでしょう。ユージン様にそこまでの決意をさせるなんて」
「それは……」
彼は一瞬視線を落とし、真っ直ぐな眼差しで私を見つめ直す。
「僕の心に、秘めさせてはいただけませんか?」
――ユージンからの視線に、私は引き寄せられるような気持ちになる。
ユージンがそう思ってくれたのは嬉しい。
嬉しいけど。
私の言葉が、息子を縛っているのだとしたら。
それは、嫌。
この子には自分の意志で未来を切り開いて欲しいから。
私のためではなく、自分のために。
――我ながら身勝手な願いだ。
私を守るというユージンの言葉に、こんなにも胸を高鳴らせているのに。
それでも。
想いは変わらない。
……もっとも、こんな真剣な瞳でそう言われたら、これ以上は踏み込めないわね。
本当は、すごく聞きたいのだけれど。
今は、我慢。
「――なのに」
「えっ?」
ユージンの表情に、再び苦悩の影が落ちる。
あくまで静かな声音で、ユージンは言葉を重ねていく。
「今の僕は、アリシア様に守られている。思えば、再会した時からずっとそうだった」
「……ユージン様」
「婚約の白紙撤回という僕の浅慮にも腹を立てた様子は見せずに、解決策を模索してくれる。騎士団寮での諍いも、その細腕で僕を守ろうとしてくれた」
――ユージンが、泣いている。
表情には出さずに、心の中で。
「さっきだって、約束を破った僕に頭を下げて、立場を守ってくれた。そして今も――」
「……」
「ここが僕にとって大切な場所だと分かって、その力を尽くそうとしてくれる。アリシア様がここまで僕のためにして下さっている。それなのに僕は……」
一気に思いの丈を語った彼は、息を整えるように一度目を閉じる。
そして少しの間の後、目を開き、私に視線を合わせた。
「守りたい人に守られてしまっている。……この事実が本当に不甲斐ないのです」
絞り出すような声。
うっすらと泣き笑いの表情。
ユージンの、懺悔のようにも聞こえるその言葉で、私はようやく腑に落ちた。
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。




