第19話 アリシア、空回りのゆくえ。
本日も更新しました。
今回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。
「……理由を伺っても?」
「はい、それがユージン様を引き取ったラウネル男爵家からの条件でした。この孤児院からは、全ての縁を切るように、と」
縁を切れ、ねえ。
さしずめ、貴族の体面って所かしら。
それはそれとして……。
「ユージン様、ここは貴方にとって第二の生家のようなものでしょう。さぞやお辛かったでしょうに」
私の言葉に、ユージンは何故か懐かしむような笑顔を見せる。
「それが、一番良いと思ったのです」
その短い言葉の奥に、様々な感情が潜んでいるのを感じた。
そこへ、院長が柔らかな声色で話し出す。
「ユージン様は利発な方です。ここの運営が厳しいことを幼い頃から気にしていました。ね、ユージン様」
「……様はいらないよ」
「あら、それは失礼。でも、これはけじめなのよ。ご理解なさい」
院長はユージンから再び私に向き直る。
「彼が騎士団へ入団したと耳にした後です。匿名で毎月ここの孤児院へお金が届くようになりました。子供達に使ってください、と書かれた手紙と共に」
「毎月、ですか?」
「ええ、今も欠かさず毎月同じ日に。その日は騎士団の賃金支給日だと、後で知りました。」
院長の言葉に、思わずユージンに視線を送る。
彼は一瞬目を逸らし、小さく息を吐いた。
「やっぱりバレてたんだね」
「そんな気遣いは無用!……と言いたい所だけど、正直助かっているわ」
「少しでも、役に立てるかなって思ったから……」
「――ありがとう」
……なんか、いいな。
院長とユージンの間に流れる空気は、柔らかくて、どこか眩しかった。
ユージンには、信頼できる人が既にいるんだ。
嬉しい。
――嬉しい、はずなのに。
私の知らないユージンを、この院長は知っている。
何だろう、私の中に何かが澱むのを感じる。
体調でも悪いのかしら。
それより、ユージンにとってこれほど大切な場所。
そこに、顔を出すことすら許されないなんて。
今の私に出来ることは……。
「……ひとつ、提案がございます」
私はしばらくの思案の後、その内容を二人に告げる。
「定期的に、レオニエル公爵家として私がこちらに慰問をする、というのはいかがでしょう」
突然の私の提案に、二人は目を丸くする。
「そして、ユージン様には私の護衛として同行してもらうのです。騎士としての実力は十分におありですし、何より婚約者が護衛を務めるのは自然な流れですわ」
……というか、ユージンより能力のある騎士なんて、帝国内でも片手で数えるくらいじゃない?
「――これなら、ラウネル男爵への説明も問題ないかと存じます」
うん。我ながらいい案だと思う。
公爵家の慰問となればユージンも胸を張ってここに来られるし、ラウネル男爵も従わざるを得ない。
これは喜ぶだろうとユージンを見ると……。
笑顔を見せながらも、その顔色は冴えない。
うつむきながら、力を込めすぎてこわばった身体が微かに震えているように見えた。
――え、待って。
私、なにか間違えた?
全部丸く収まると思ったんだけど。
どう見ても、喜んでいる態度ではない。
言葉を失う私へ、見かねたように院長がフォローに入る。
「レオニエル公爵令嬢、あなた様のご提案はとても素晴らしいものです。実現されることを心よりお願い申し上げます」
「で、ですよね!?もちろん実現させます。ですが、その……」
褒められたくて言ったわけじゃない。
……だけど。
私は、この子の為に。
母親として、全力で――
私の中から、暗い感情が頭をもたげる。
「――私の提案が、余計なことだったのであればお詫びいたします。どうぞお断りくださいませ」
私の言葉に、ユージンは驚いた様子で顔を上げる。
「違うんです!アリシア様には本当に良くしていただいてます!本当に、心から感謝しているのです」
ユージンの必死な言葉に、私はいつもと違う思いが含まれているのを感じる。
それでも、穏やかな気持ちは戻れない。
「何か、ご事情が?」
わずかに棘を含む私の言葉に、ユージンはしばらくの間うつむいていたが、やがて静かに顔を上げる。
「……これは、僕の問題なんです。アリシア様を心からお慕いしてる、僕の」
――お慕いしてる?
ユージンが何を考えているかが分からない。
それじゃあ、どうして素直に喜んでくれないの?
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表紙となるイラストは、画々市先生に描いていただきました。
画々市先生とは何度もイメージのすり合わせを行っていただき、私自身の持つキャラクターや世界観のイメージを余すところなく表現していただいております。
作品と合わせて、こちらのイラストでイメージを膨らませていただければ嬉しく思います。
それでは、明日20時30分にお会いしましょう。
次回からは一話づつの更新となります。




