第18話 子どもたちの小さな嘘。
本日も更新しました。
今回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。
「みんな、僕たちはこれから大事な話をするんだ。少しだけ部屋で待てるかな?」
ユージンの言葉に何かを感じたのだろう、一人の男の子が声を上げる。
「ユージンは悪くないよ!僕たちが……」
その子は言葉が続かず、目に涙を浮かべ始める。
それに同調するように、他の子達からもすすり泣く声が出始めた。
「――エルミナ、お願いがあるのだけれど」
「承知しました、お嬢様」
私の意を察したエルミナは、人懐っこい営業スマイルを浮かべながら子供たちへ声をかける。
「ここには誰も怖い人はいないから大丈夫っすよー。お話がおわるまで、お姉さんと一緒に遊びましょう」
「あ、怖いお姉ちゃんだ」
エルミナを指さしながら言う子供に、彼女は一瞬だけ硬直する。
だがすかさず、少しだけ意地悪な笑みを浮かべると、指さした子供をくすぐるような仕草を始めた。
「ほらほら、悪い子は怖いお姉ちゃんがお仕置きしちゃうっすよー」
そのコミカルな悪役ぶりに、すすり泣きは次第にくぐもった笑いへと変わっていく。
やがて場の空気は和らぎ、子供たちはキャッキャとはしゃぎながらパーティ会場へ逃げ出した。
彼らを追いかけながら、エルミナは一瞬だけ私の方に振り向きウインクをする。
――ここはエルミナに任せて正解ね。
「子供達への気遣いまで。何から何までありがとうございます」
気づくと、先ほどの女性がお礼の言葉を告げる。
「申し遅れました。私はこの孤児院の院長を務めております」
彼女は改めて身分を明かすと、院内にある、質素な応接室へ私とユージンを案内した。
私はテーブルの奥に通され、向かいには院長とユージンが座る。
部屋の外から、子供たちの歓声が微かに聞こえる。
――良かった。さっきの楽しそうな雰囲気に戻ってくれたみたい。
流石はエルミナ。さすエル。
院長は柔和な雰囲気を纏いながらも、私の目を静かに見据える。
「――子供たちは悪気が無いとは言え、ユージンにお祝いをしたい一心で嘘をつきました。孤児院が襲われたとユージンに伝え、ここに来てもらうように。そして、私はそれを黙認したのです」
「お祝い、ですか?」
「今日はユージンがこの孤児院を出てから、ちょうど10年目なのです」
今日はそんな日だったのか。
それならそうと……って、今の距離感では言えないわね。
私がユージンに視線を移すと、彼は申し訳なさそうに頷く。
「ここが襲われたと聞けば、必ずユージンは助けに来るだろうと思ったようです。そして実際に来てくれました。それはもう必死な形相で。」
「そ、そんな酷い顔はしてませんよ」
院長の言葉にユージンが反応する。
「ただ、子供達からここが襲われてると聞いて、焦っていたのは確かです」
私は、騎士団寮での一件を思い出した。
あの時の、彼の騎士としての誇りを。
私の名誉を守るための静かな怒りを。
……ユージンの行動は一貫している。
この子は自分のことより、誰かを守ることが優先するのよね。
ふふん、私も誇らしいわ。
「……あの、どうかなされましたでしょうか?」
院長に声をかけられ、無意識にユージンを見つめていた私は我に返った。
いけない。
必死でここを守ろうとするユージンを想像したらニヤニヤが抑えられない。
と、ここで気づく。
――これじゃあ一番の不審者が私になっちゃうじゃない。
気を取り直し、居住まいを正しつつ院長に視線を戻すと、彼女は立ち上がり、私に向かって深々と頭を下げる。
「今回の責任はすべて私にあります。罰は、どうか私だけに」
そして、彼女に連動するかのようにユージンが立ち上がる。
「確かにあの子達は嘘をつきました。でも、それを容認し、アリシア様との約束を反故にしたのは僕の責任です。改めて、深くお詫びいたします」
机に額がつくんじゃ無いかとばかりに頭を下げる二人に、私は慌てて頭を上げるよう告げる。
「――子供が誰かを慕う気持ち。その思いを罰するつもりは元よりありませんわ」
院長とユージンがこれ以上恐縮しないように、ゆっくりと、静かな口調で私の気持ちを伝えた。
「あ、ありがとうございます」
私に手を合わせる院長と、下げた頭をまだ上げないユージン。
……この構図だけみると、物語でよくある悪役令嬢になってない?私。
心外だわ。
◇
「ところで、一つ疑問があるのですが」
二人が落ち着いたところで、改めて私は問いかける。
「なぜ子供達はユージン様と会うのにこんな嘘をついたのでしょう。騎士団が多忙なのは分かります。でも、十年の節目の記念日ですよ。事前に話を通しておけば、流石に断られることは無いと思うのですが」
それに寮で会ったとき、今日は非番って言っていたわよね、ユージン。
私の言葉に、部屋の中の空気がわずかに張り詰める。
「それは……」
言いよどむユージンの言葉を引き継ぐように、院長が理由を告げる。
「ユージンは……、いえ、ユージン様は本来この孤児院に来てはいけないお方なのです」
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。




