第17話 エルミナ、業を煮やす。
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「騎士団寮の衛兵から伺いましたの。ユージン様が血相を変えて剣を手に飛び出し、こちらへ向かったのではないかと」
「そ、そうだったんですか」
「なにか大変なことがあったかと心配したのですが、ユージン様の無事なお姿を拝見して安心しました」
「どうやら僕の勘違いだったみたいで……。ああ、いやいや、心配してくださってありがとうございます」
ユージンが私に慌ててお礼を述べた、そのすぐあとだった。
エルミナが業を煮やしたように、一歩前へ出た。
「――そうです。騎士様の身を本当に、本当に案じていたのですよ。ですよね、アリシア様」
「え?……あ、そ、そうね」
「なのにその張本人が楽しく子供たちと戯れているとは一体どういう事でしょうか!?」
「エ、エルミナ……。ユージン様が悪いわけでもないのよ。私が勝手に心配しただけだから」
「いいえ!」
私の言葉をエルミナはキッパリと否定する。
「婚約者であり、公爵令嬢であるアリシア様とのお約束を反故になさる――その行為そのものが問題なのです。だいたい……!」
彼女はユージンに尚も詰め寄る。
「アリシア様が騎士団寮に足を運ぶことは分かっていたはず。何があったかは存じませんが、何故この状況を衛兵たちへ伝えに戻らなかったのですか!?」
「――!」
エルミナの言葉に、ユージンは息を呑む。
「一言、心配はいらないと衛兵に言付けくだされば、アリシア様も少しは落ち着いたでしょうに。……貴方様が剣を携えこちらへ向かったと聞いた時のお嬢様のお気持ち、少しも想像できませんでしたか?」
怒気をはらむエルミナの声が、少しだけ湿り気をまとう。
「貴方様のご事情を知らないアリシア様が心配するのは当然でしょう。これは誠実さの問題です!」
玄関口で一気にまくし立てた彼女は、唇をわずかに噛みながらユージンを睨む。
対するユージンは、それまでの慌てぶりが嘘のように静かになった。
彼は青ざめた表情で、まっすぐ私へと視線をむける。
「――こちらの方の仰る通りです。僕の行動は、アリシア様に対してあまりにも不誠実でした」
絞り出すような声で、彼は私に頭を下げた。
彼はその姿勢のまま微動だにしない。
微かに震えているようにも見える。
「本当に、情けない」
――彼のつぶやきに心を動かされつつ、私はふと違和感を覚える。
いくら何でも、そこまで恐縮しなくてもいいのではないだろうか。
とはいえ、こういう時どう振る舞うのが正解なのだろう。
確かに心配はしたけど、ユージンが無事で良かった以外に思う所はないのよね。
何か事情があってのことと思うし。
もちろん、エルミナの言っている内容は正しい。
不謹慎かもしれないけど、彼女が私のために怒ってくれたことも嬉しく思う。
約束を守れなかったときって、その時の相手への配慮こそが一番重要なのよね。
特に貴族社会では、約束の反故とその対応は一歩間違えると命取りになる恐れもあるのだから。
とはいえ、震える声で頭を下げ続けるユージンを眺めていると、私の胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
この子をここまで恐縮させてしまったこと。
エルミナに、私が言うべき言葉を代弁させてしまったこと。
私が自らユージンを叱って、抱きしめてあげれば何も問題は無かった。
それができないのは、私のせいだ。
――と、そこでふと我に返る。
こんなふうに他人の感情に思いを馳せるなんて、前世の私にとっては思いもよらなかった。
かつて王であった私は、誰かへの配慮よりも、その者の能力と実績のみを重んじていたのだ。
今のアリシアである私だから、こう思うのだろうか。
……どうやら、前世と今世、二つの私が混在しているらしい。
「――ごめんなさい。ふたりとも」
「「え?」」
思わず口に出た私の言葉に、二人は同時に同じ声を発する。
「……何でアリシア様が謝ってるんすか」
息を潜めながらエルミナが私にささやく。
「いや、エルミナに嫌な役割をさせちゃったし、それに――」
私は、ユージンの後ろ越しに視線を送った。
そこには、奥の部屋からこっそりと、そして心配そうに私たちを見つめる子供たちがいた。
小さな肩を寄せ合いながら、じっと私たちの様子を窺っている。
「――折角の楽しい雰囲気を、私が壊してしまった気がするの」
三人とも黙り込み、重い沈黙が場を満たす。
そんな中、先ほど私たちを出迎えた女性が、足音も静かに戻ってきた。
彼女は私に対し、深々と頭を下げる。
「レオニエル公爵令嬢様。このたびは、大変なご無礼を働いてしまいました……お詫びの申し上げようもございません」
「……どういう意味でしょうか」
突然の謝罪に、私は思わず問い返した。
「今回の件は――すべて、私の責任なのです」
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。
明日も二話掲載予定です。




