第23話 レオニエル公爵家の沈黙。
初めましての方も、またお目にかかりましたね、の方も。
ようこそいらっしゃいました。
本日の更新です。
玄関のドアを開けると、そこには両親と妹の三人がご丁寧に立っていた。
父は焦燥感を隠しきれず、母は引きつった笑顔。
二人の後ろに控える妹は、見るからに不機嫌な表情を隠そうともしない。
「あら、三人でこんな場所にいらっしゃるなんて……。今お帰りですか?」
私の言葉に呼応するように、父が私に迫る。
「それはお前を待って……。いやそんなことより、どうだったのだ。殿下は何と言っていたのだ!」
「何、と仰いますと?」
「とぼけるな!……あ、いやいや、殿下へのフォローは欠かさなかったであろうな」
「フォローというのは一体……。帝室への上奏文を私が代筆していたという件ですか?」
「なっ、お前、そんなことまで言ったのか!!」
今にも掴みかからんばかりの勢いで憤慨する父へ、私は静かな声で応える。
「そんな大声を出さないでくださいませ。殿下にはその件も含めて当家の現状を余すところなくお伝えしました。――もっとも、既に殿下はすべてご存じのようでしたが」
私の言葉に、父は真っ青になる。
……このくらいはいいわよね。
自身の行為を省みるいい機会よ。
もっとも、そんなことができる人なら、こんな形で帝室に利用されることはなかったのでしょうけど。
「――あの方との交渉の結果、すべて不問に処すとのお言葉をいただきましたのでご安心ください」
「そ、そうか……。しかしあの冷徹な第二皇子だぞ。一体どうやって……」
「それより!」
それまで歪んだ笑顔で佇んでいた母が急に声を上げる。
何かに気づいたかのように。
「殿下からは、口頭だけの約束では無く、きちんと書面に残したのでしょうね。まさか、口約束だけで済ますような、そんな軽率なミスはしていないと思いますけど」
「いいえ、口頭のみで書面には残しておりません」
「お、おい。お前は黙ってなさい」
私の言葉に、父の制止の声も聞かず勝ち誇ったような表情になる母。
「まあ、まあまあ。折角の約束を書面に残さないだなんて!それでは公的な約束の意味が無いでしょうに!一体何を考えているのやら。これだから魔力無しは――」
「黙れ!」
父の剣幕が自分に向かったことが分かり、母は硬直する。
「お前は何も分かっておらん。口頭のみで不問に処したのは殿下の温情だ。……殿下から赦すという言質を取った。この意味の重さが何故わからぬのだ」
父は一転、母を諭すように声を落とす。
「せっかく殿下が記録を残さずに赦すと仰って下さるのに、わざわざ書面でワシらの不利になる証拠を残す必要がどこにある。今回は、アリシアの判断が正解だ」
「え……ですが……だって……殿下が誰かに漏らしたらどうするのですか?」
尚も食い下がる母に、父は現実を突きつける。
「その時は殿下とワシらが共倒れになるだけだ。今回は殿下の方が明らかに分が悪いはず。にも関わらず口頭で済ませた理由はわからんが……アリシアによってこの状況がもたらされたのは確かなのだよ」
「…………」
母はそのまま沈黙する。
私は静かにため息をつく。
二人とも、無能な訳ではない。
だからこそ、これ以上の対話は無用だ。
「――ご理解頂き何よりですわ。それではエルミナと今後の話をしますので失礼します」
呆然とする母と、憔悴した父を尻目に執務室へ向かおうとすると。
「そうやって、いつもお姉様ばかり!!」
妹のセリーヌが、そう言い残し足早に自分の部屋へ閉じこもっていった。
一瞬追いかけようとも思ったが、恐らく今は何を話しても無駄だろう。
今までの経験から、そのままにしておくのが一番だと判断した。
執務室へ向かう階段を昇っていると、玄関の様子が目に入る。
そこには、その場にへたり込み安堵の姿を見せる父と、とても人には見せられないような、歪んだ笑顔のまま固まった母が残されていた。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価、いいねで応援していただけると嬉しいです。
それでは、明日20時30分にお会いしましょう。




