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私に婚約破棄を告げたのは前世の息子でした ~冷血女王、今世は過保護ママになります!~  作者: 森下ヱンジン


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14/22

第14話 元女王、第二皇子と取引する。

本日も更新しました。


今回もお付き合いいただけましたら嬉しいです。

 ――弱気になってはいけない。

 ここは、私の持つ弱みを解消する絶好の機会だ。


 私はアレク殿下の眼を真っ直ぐに見据える。

 執務室に漂う空気が、冬の朝のように冷たくなるのを感じる。


「ふむ、公文書についても重大な罪となるが、さらに帝室への上奏文にまで、当主本人の名で君が代筆をしていたとはな」

 

 殿下は目を細めながら、私を突き刺すような視線で圧倒しようとする。

 

「確かにそれは、公爵家を取り潰すに十分な罪と言えるな」


 ――そう、父が行うべき実務を私が肩代わりしていたことと、父の名で帝室へ上奏文を出していたことでは、罪の重さが違う。


 殿下は一瞬沈黙し――

 愉快そうに、けれどどこか含みを帯びた微笑を浮かべる。


「なるほど。そう出るか」


「……」

 

 やはり殿下は、この件もすでに把握しているのだろう。

 知った上で私をユージンの『補佐役』に選んだのだ。


 態度を見るに、いずれ最悪のタイミングで交渉材料として切られたでしょうね。


 その可能性は最初から考えていた。

 だからこそ、私はあえて先に自白した。


「公爵家の不祥事に、私を巻き込み、共犯者とする――か。それも、公爵令嬢自らの告発によって」

 

 殿下は私の隣から立ち上がると、向かいのソファーへ戻る。


「――アリシア嬢、君は思った以上に危険な女性のようだ」

 鋭利な瞳で私を射抜きながら、殿下は言葉を続ける。

 

「これで私は選択を迫られることになった。リオーネの地か、レオニエル公爵家かを」


 殿下は私の意図を正確に把握している。

 そう、彼はどちらかを選ばなければならない。


 そして、どちらを選んでも、殿下の描いた計画は修正を迫られる。

 

 ただし――

 それはこの告発が、『表沙汰になれば』の話。


 殿下が心の奥に留めておけば、すべて丸く収まる。

 それは即ち、帝室がレオニエル公爵家の不祥事を()()()()と同義だから。


 だから、これは賭け。

 私が差し出すのは、レオニエル公爵家の利用価値。


 そして――私への過分な信頼。


 リオーネ統治が成功すれば、殿下の名声は確実に高まる。

 そして、殿下が真に目指しているのは――さらにその先だと私は踏んだのだ。

 

 ……分かっている。

 ユージンの気持ちも聞かぬまま、私は勝手に走り出している。

 それでも、止まれない。

 

 あの子が闇に飲まれる未来にだけは、絶対にさせない。

 

「君は自分の発言が、何を意味しているのかを理解しているのか?」

 

 彼の声は静かで、重い。

 

「私とユージン様で、御意に添う結果を」


「――必ずだ」


 殿下の声が低く響く。


「リオーネ領の統治を、殿下の定められた一年のうちに必ず成功させることを、ここに誓います」


 自分でも驚くほど、声は落ち着いていた。

 

「……いいだろう。君の告発内容については不問に処す」


 ――賭けに、勝った。


 緊張がほどけそうになるのを、私は必死に抑えた。

 背筋を一筋、冷たい汗が流れていくのが分かる。

 

 内心で何度か深呼吸していると、少し間をおいて殿下が話し始めた。



「ああ、それと、もう一つ君たちの婚約には理由がある」


 先ほどまでの殺気めいた雰囲気は影を潜め、アレク殿下は柔和な笑顔に戻る。


「二人とも魔力を持たない同士、リオーネ領の民も君を受け入れやすいと思ってのことだ」

 

 なるほど、それも道理ね。

 彼らが魔力に忌避感を持っている可能性を考慮している。

 

「――だが少しばかり、私は今回の人選を急ぎすぎたかもしれぬ」


 殿下が、静かに私をみつめながら呟いた。


「……仰る意味が、分かりかねるのですが」


「君の有能さの質を見誤っていたよ。君はユージンを支えるというより……。いや、この話はここまでにしよう」


 彼が何を言っているのかを考えている間に、殿下は話を変える。


「それと君の処遇については、既に君の父上には伝えてある。君が来る前にね」


 殿下はここまで言うと、その時を思い出したのか、少年が悪戯を成功させた時のような笑顔を浮かべた。


「最初は憤慨している様子だったが、公爵家の内情について話すうちに、いつのまにか納得してくれたようだ」

 

 流石は殿下、今から聞こうとしたことを先回りしてくれた。

 父が今朝、慌てて出かけていったのを思い出す。

 

 まあ、これだけ公爵家の所業がバレていれば、殿下の要求は飲まざるを得ないでしょう。

 冗談じゃなく、お取り潰しの名目を帝室に握られているのだから。

 これは帝室の力を父が甘く見ていたという証左だ。

 

 もっとも、そのおかげで殿下が私に目を付けて下さったとも言える。

 ……何というか、皮肉なものね。


 ◇

 

 ――そうなると、残るのはレオニエル公爵領の統治。

 私がリオーネ領へ出向くのであれば、今までのように一日中執務室で対応するわけにはいかない。

 

 エルミナには、是非とも私のそばにいてほしい。

 

 だから、私たちの為に動いてくれる人を何人かお願いしたいのだけれど――


 「ああそれと、レオニエル公爵領の統治についてだが――何人かを君の下に付けよう」


 「……!?」



 本当に話が早いわね、この皇子。


 正直、レオニエル公爵家の行く末については後回しにしたい。

 今の私が最優先すべきは、ユージンのこれからについて、だから。


「私個人に仕える者達だが、文武において皆それなりの技量は持っている。君の裁量で上手く使ってくれ」


 そう言って、彼は微笑む。


「……ありがたく、使わせていただきます」


 私が懸念しそうなことは全て分かっているって訳ね。

 そして、暗にこうも言っている。


 ――これだけの環境を揃えて、失敗など許されると思うなよ、と。

ここまでお読みいただきありがとうございます。


続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価、いいねで応援していただけると嬉しいです。


皆さまからの反応が、次の話を書く大きな励みになります。


それでは、明日20時30分にお会いしましょう。


明日も二話掲載予定です。

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