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私に婚約破棄を告げたのは前世の息子でした ~冷血女王、今世は過保護ママになります!~  作者: 森下ヱンジン


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13/22

第13話 リオーネ地方新総督、ユージン・ラウネル。

本日もお越しいただきありがとうございます。

 リオーネ地方。


 あの場所は、前世の私が君臨し、そして失敗した場所。

 そして、現在の公爵領の西隣に位置する、隣接地だ。


「反乱が絶えず、ゲリラ活動は未だに続いている、と伺っています」


「その通り。併合から十五年。何人もの総督が統治を試みたが、いずれも失敗した」


 そう言うと、彼はその端正な顔を少しだけ歪めた。

 

 

 ――そんなの、あったりまえじゃないのよ!


 魔力なきものは人にあらず、という差別意識。

 それを見透かされてるのよ、リオーネの民たちに。


「あの地には、旧王国派と反体制派という二つの勢力が存在していてな。どちらもリオーネ王国の遺臣が立ち上げたと言われている。」


 旧王国派と反体制派?


 「王国滅亡の混乱の中で生き延びた、言わば残党だが、あの地での求心力は馬鹿にできない」


 ――彼の言葉に、私は二人の人物を思いだす。


 一人はかつての私の夫であり、ユージンの父親。

 ルシアン・ヴァルディエールという男。

 

 王国滅亡の後、彼の行方は分からないと聞いている。

 もし生き残っていれば、王族として担ぎ上げる勢力はいるかもしれない。

 

 そして、もう一人は――

 

 と、私が前世の記憶をたぐり寄せていると、殿下は話を続ける。

 

「これは帝国にとっても、またリオーネの民にとっても不幸でしかない」

 

 そう言うと、殿下は改めて私を見つめる。

 誠実さを感じる、素直な表情だ。


「それは――確かに」

 

 思わず首肯する私は、自分が演技していることを忘れそうになる。

 

 いけない。

 今は余計なことを考えている場合じゃない。

 殿下の真意を聞かないと。


「だから、発想を変えようと思うのだよ」


「それは、どのようなものでしょう?」


「力で抑えるのではなく、自治を与える。ユージン・ラウネルは亡国の遺児。彼の地の民にとっては『旧王家の血を引く者』だ」


 彼の言葉に、私の胸が高鳴る。


 前世の私が王として君臨した国。

 息子を産んだ場所。


 そして、私は王として失敗し、母として息子を失った地。

 

 ――まさか、この人は。


 「彼を総督としてリオーネ地方に派遣させる。そして、君がその実務を支える。二人の力で、リオーネ地方を安定させてほしい」


 「……っ!」

 

 「これが、君たちを婚約させる理由だ」


 リオーネ地方総督――ユージンが?


 前世で私が失敗した地を、今度は息子が治める。

 しかも、総督という正式な役職によって。


 ――本来であれば、ユージンにとってこんな都合の良い条件、怪しすぎて手を出す気にもなれない。

 だけど今回、私たちはこの話を断ることが出来ない。

 

 断った場合。

 私には公爵家の不祥事が突きつけられるだろう。

 父の貴族としての資質を脅迫の材料として。

 

 それで家が潰えたとしても別に未練はない。

 けど、実質的な統治者として、負うべき責任を投げ出すわけにはいかないわ。

 

 そしてユージンはさらに最悪だ。

 

 亡国の遺児であるあの子は、本来、騎士の座に就ける立場では無い。

 

 それでも帝国騎士の立場を与えられているのは、いざという時の『使い捨ての駒』とするためなのは明白だ。

 

 私との婚約破棄などとはレベルが違う。

 もし断った場合、騎士の失職などという生易しい罰では済まないだろう。


 ――想像するだけで、どうしようもない悪寒が背中を突き抜ける。

 ユージンが理不尽な罪により、闇に葬られるような事態は絶対に避けなければならない。

 

 どれほど疑わしくとも、私たちはこの話を受けるしか無いのだ。

 これが罠だとしても、今は、他にあの子を守る術がないのだから。


 ならば、前向きに考えよう。

 私があの子の側にいられるという、お墨付きをもらったのだと。

 

「期間は一年とする。その時までに私を納得させる結果を出しなさい」

 

 黙り込む私を尻目に、アレク殿下は話を続ける。

 

「成功すれば、ユージンには引き続き総督を務めてもらう。さらに一定の自治権を認めよう。あくまで帝国の直轄地として、だがな」


 ……失敗したらどうなるのか、という言葉を私は飲み込んだ。

 聞くまでも無い。その先に待つのは破滅だけだ。


「元々ユージンについてはその予定だった。だが、彼一人では心もとなくてね。優秀なサポート役を探していたのだよ」

 

 殿下が、静かに私の隣へ腰を下ろす。

 肌が触れそうな圧迫感に、呼吸がわずかに乱れた。


 私は静かに呼吸を整える。


「そこに君の存在だ、アリシア嬢。君ならきっとユージンをサポートし、リオーネ地方をより良い環境にしてくれるだろうと私は確信している」


 なるほど、アレク殿下のご意向はだいたい掴めた。

 私は心の中で、アレク殿下の提案と思惑を描いていく。

 

「……アレク殿下。今後について、私自身の立場に関する懸念があるのですが」


「ほう?なんだ、言ってみなさい」


 これは賭けでもある。

 が、私は躊躇なく伝えた。


「父の名で送る書簡は、すべて私が書いています。もちろん、皇室への上奏文も」


 私の言葉に、殿下の表情が変わった。

お読みいただきありがとうございます。

今回のお話の中で、何か心に残るものがありましたら嬉しいです。

続きが気になると思っていただけましたら、リアクション・感想・ブクマなどで応援いただけると励みになります。

それでは、明日20時30分にお会いしましょう。


次回も二話掲載予定です。

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