第13話 リオーネ地方新総督、ユージン・ラウネル。
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リオーネ地方。
あの場所は、前世の私が君臨し、そして失敗した場所。
そして、現在の公爵領の西隣に位置する、隣接地だ。
「反乱が絶えず、ゲリラ活動は未だに続いている、と伺っています」
「その通り。併合から十五年。何人もの総督が統治を試みたが、いずれも失敗した」
そう言うと、彼はその端正な顔を少しだけ歪めた。
――そんなの、あったりまえじゃないのよ!
魔力なきものは人にあらず、という差別意識。
それを見透かされてるのよ、リオーネの民たちに。
「あの地には、旧王国派と反体制派という二つの勢力が存在していてな。どちらもリオーネ王国の遺臣が立ち上げたと言われている。」
旧王国派と反体制派?
「王国滅亡の混乱の中で生き延びた、言わば残党だが、あの地での求心力は馬鹿にできない」
――彼の言葉に、私は二人の人物を思いだす。
一人はかつての私の夫であり、ユージンの父親。
ルシアン・ヴァルディエールという男。
王国滅亡の後、彼の行方は分からないと聞いている。
もし生き残っていれば、王族として担ぎ上げる勢力はいるかもしれない。
そして、もう一人は――
と、私が前世の記憶をたぐり寄せていると、殿下は話を続ける。
「これは帝国にとっても、またリオーネの民にとっても不幸でしかない」
そう言うと、殿下は改めて私を見つめる。
誠実さを感じる、素直な表情だ。
「それは――確かに」
思わず首肯する私は、自分が演技していることを忘れそうになる。
いけない。
今は余計なことを考えている場合じゃない。
殿下の真意を聞かないと。
「だから、発想を変えようと思うのだよ」
「それは、どのようなものでしょう?」
「力で抑えるのではなく、自治を与える。ユージン・ラウネルは亡国の遺児。彼の地の民にとっては『旧王家の血を引く者』だ」
彼の言葉に、私の胸が高鳴る。
前世の私が王として君臨した国。
息子を産んだ場所。
そして、私は王として失敗し、母として息子を失った地。
――まさか、この人は。
「彼を総督としてリオーネ地方に派遣させる。そして、君がその実務を支える。二人の力で、リオーネ地方を安定させてほしい」
「……っ!」
「これが、君たちを婚約させる理由だ」
リオーネ地方総督――ユージンが?
前世で私が失敗した地を、今度は息子が治める。
しかも、総督という正式な役職によって。
――本来であれば、ユージンにとってこんな都合の良い条件、怪しすぎて手を出す気にもなれない。
だけど今回、私たちはこの話を断ることが出来ない。
断った場合。
私には公爵家の不祥事が突きつけられるだろう。
父の貴族としての資質を脅迫の材料として。
それで家が潰えたとしても別に未練はない。
けど、実質的な統治者として、負うべき責任を投げ出すわけにはいかないわ。
そしてユージンはさらに最悪だ。
亡国の遺児であるあの子は、本来、騎士の座に就ける立場では無い。
それでも帝国騎士の立場を与えられているのは、いざという時の『使い捨ての駒』とするためなのは明白だ。
私との婚約破棄などとはレベルが違う。
もし断った場合、騎士の失職などという生易しい罰では済まないだろう。
――想像するだけで、どうしようもない悪寒が背中を突き抜ける。
ユージンが理不尽な罪により、闇に葬られるような事態は絶対に避けなければならない。
どれほど疑わしくとも、私たちはこの話を受けるしか無いのだ。
これが罠だとしても、今は、他にあの子を守る術がないのだから。
ならば、前向きに考えよう。
私があの子の側にいられるという、お墨付きをもらったのだと。
「期間は一年とする。その時までに私を納得させる結果を出しなさい」
黙り込む私を尻目に、アレク殿下は話を続ける。
「成功すれば、ユージンには引き続き総督を務めてもらう。さらに一定の自治権を認めよう。あくまで帝国の直轄地として、だがな」
……失敗したらどうなるのか、という言葉を私は飲み込んだ。
聞くまでも無い。その先に待つのは破滅だけだ。
「元々ユージンについてはその予定だった。だが、彼一人では心もとなくてね。優秀なサポート役を探していたのだよ」
殿下が、静かに私の隣へ腰を下ろす。
肌が触れそうな圧迫感に、呼吸がわずかに乱れた。
私は静かに呼吸を整える。
「そこに君の存在だ、アリシア嬢。君ならきっとユージンをサポートし、リオーネ地方をより良い環境にしてくれるだろうと私は確信している」
なるほど、アレク殿下のご意向はだいたい掴めた。
私は心の中で、アレク殿下の提案と思惑を描いていく。
「……アレク殿下。今後について、私自身の立場に関する懸念があるのですが」
「ほう?なんだ、言ってみなさい」
これは賭けでもある。
が、私は躊躇なく伝えた。
「父の名で送る書簡は、すべて私が書いています。もちろん、皇室への上奏文も」
私の言葉に、殿下の表情が変わった。
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それでは、明日20時30分にお会いしましょう。
次回も二話掲載予定です。




