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僕の仲間は60,000,000,000,000(60兆)人もいる。  作者: キヨ
第三章 60,000,001,000,000『人』に達した動員数のライブ
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第二十四話 舞台裏侵入作戦 防衛線突破

 抜群の空間記憶力を頼りに、先ほど通った道を辿って走り続けると、すぐに舞台裏へと通じる防火扉の近くに着いた。


 虎視島に張り巡らされた隙の無いハイテク警備システムに比べれば、目の前の舞台裏への経路を防衛する仕組みは、かなり粗末なもの―――


 指紋認証ロックが取り付けられた、分厚い扉一枚だけだ。


 とはいえ、その機能性と密閉性は極めて高く、蚊一匹すら飛び込めないほどだ。僕のような大柄な人間が突破できるなど夢のまた夢である。


 どうやら主催者はこの扉に十分な自信を持っているようで、ここに警備員を一人も配置していない。


 何しろ、関係者の案内がなければ、よそ者が通常の手段でこの堅固な障壁を突破することは絶対に不可能だからだ。


 もし「通常ではない手段」を用いるなら、話は別になる。


 これは、僕の特殊能力がハイテクなセキュリティシステムを突破できるかどうかを試す絶好の機会でもある。


 扉の周囲の状況を少し観察した後、僕は監視カメラの「目」にも人目にもつかない隅に身を隠し、細胞たちと共に舞台裏に潜入する策を練った。


「やっぱりあのドアから舞台裏に入るしかないみたいだな。みんな、何か役に立つ能力はあるか?」

「ただのドアに過ぎないじゃないっすか! ご主人様が命令さえ下せば、俺たち筋細胞の爆発力でぶち破ればいいだけっす!」

「冗談を言うな。仮に本当にぶち破れたとしても、会館の外には大勢の警察が待ち構えているぞ。無理やり突入すれば、即座に刑務所送りになるだろう……」

「拙者の考えでは、まずそのドアの基本的な構造を把握する必要があります。そうした上で的確な対策を立てられるでしょう。」と、相変わらず心臓の真面目な見解。

「あれは高硬度の耐火物で造られた普通の防火扉だが、その表面に生体情報を即時感知する指紋認証ロックが取り付けられてて、厄介な代物だ。」

「そのロックには何か特別な点があるのですか?」

「生体センサーが搭載されてて、指紋認証パネルに接触した物体を分析する仕組みだ。人体の正常な生理的特徴を持つ指の皮膚でなければ認証できない。これによって、他人の指紋が付着した人工皮膚を指にはめるなど、偽造指紋でロックを不正に解除する可能性を完全に排除しているんだ。」

「本物の人間の指の皮膚でなければロックを解除できないわけですね……分かりました。だとすれば、ご主人様の指紋を、関係者の指紋に直接変えればよいだけではありませんか? 手の皮膚細胞たちにとっては、造作もないことですよね、皆さん?」

「もちろんです~~~ご主人様がご希望の指紋パターンを私たちに送信していただければ、全人類の指紋を完璧に複製できますよ!」


 もし以前、ほかの常識外れな超能力を実際に体験していなければ、皮膚細胞たちの自画自賛に多少は驚いたかもしれない。


 しかし今では、この能力は僕のスキル一覧の中でも、せいぜいレベル1程度に分類されるだろう。


 RPGゲームで例えるなら、最も基本的な「ファイアボール」のようなスキルに相当するはずだ。


「問題は、どうやって他人の指紋を採取して、それを君たちに送信するかだ。ハッカーになって国の指紋データベースに侵入するわけにはいかないだろう……」

「ご主人様には2つの方法からお選びいただけます~1つ目は視覚による直接送信です。つまり、完全で鮮明な指紋を1つ見て、目の細胞たちを通じてその形状情報を私たちに送信していただければよいのです~」

「これは絶対に無理だ。もう一つの方法は?」

「皮膚で、他人の指にある指紋の付いた部分に直接触れるんです。触覚を通じてその形を私たちの記憶に転送すれば、いつでも複製できるようになります~ただし、事前に私たちに『記憶モード』に入るよう命令していただく必要がありますね~」


 皮膚細胞の話を聞くが早いか、将来自分が「ヒト型指紋データベース」になるだろうという予感がした。ただし、それは僕の意志次第ではあるが。


「じゃあ試してみるか。君たちに命令すればいいだけだよね?」

「そうです~ご主人様、どうぞご命令ください!」

「そ、それじゃあ始めるよ!ゴホン!」


 正式に命令を下す前に、僕は少しわざとらしく喉を鳴らし、この「作戦前の壮行会」に、些細ながらも儀式的な雰囲気を添えた。


「手のひらと手首のすべての皮膚細胞たち、よく聞け! ここに命ずる。直ちに記憶モードに移行せよ!」

「承知しました―――!記憶モードを起動!」


 一斉に応答する声が僕の精神空間に響き渡り、やがて急速に消え去って静寂が戻り、現実世界から聞こえてくるざわめきだけが残った。


 半信半疑で、いわゆる「記憶モード」というスキルを発動したこの両手のひらをじっくりと観察してみたが、感覚的には何の違いも感じられない。


 相変わらずごく普通の、肌はそれほど滑らかではなく、少し節くれだった男性の手のひら。


「これでいいの?なんか全然変わってないような気がするんだけど?」

「ご安心ください、ご主人様!試してみればすぐわかりますよ~きっと私たちの実用性に満足していただけるはずです~」

「さて、この能力が本当にそんなに便利なのか、ちょっと確かめてみる……」



 ――――――――



 実のところ、僕はとっくにこのスキルを使う対象を決めていた―――近くには秩序維持のスタッフが何人かいて、コンサートの休憩時間にホールから出てきたファンたちに様々な手助けをしていた。


 中でも最も典型的なのは、お手洗いに行こうとするファンに案内することだったが、そこにわずかな好機を嗅ぎ取った。


 というわけで、僕も他の人たちと同じく自然に、何食わぬ顔でスタッフの前に歩み寄り、余裕たっぷりな様子で尋ねた。


「すみません、トイレはどこにあるでしょうか?会場が本当に広すぎて……」

「あちらへまっすぐ進んで、あの花壇の前まで行くとトイレの案内板が見えます。そこから指示に従って進めば大丈夫です。ご案内しましょうか?」

「いえ、いえ、自分で行けます。本当にありがとうございます!」


 僕はとても親しげに右手を差し出し、感謝の意を込めて握手のジェスチャーをした。


 礼儀としての握手は、陽の国の人々の日常のやり取りではあまり一般的ではないが、世界共通の礼儀として、たとえ会釈やお辞儀で挨拶をするのが慣習のこの国であっても、通常は誰もそれを嫌がったりはしない。せいぜい、陽の国語を話せる外国人だと思われる程度だ。


「あ、とんでもありません。当然のことですから。」


 あまり慣れていないせいか、スタッフは一瞬呆気にとられたが、すぐに我に返り、同じく右手を差し出して、僕の「魔力」が宿った掌と握手した。


 僕は笑顔で応じながら、手の皮膚が相手の指先の、凹凸のある環状の模様がびっしりと刻まれた部分を貪るように撫で回すのを放任した。


 相手が感じているのは、たぶん手のひら同士で伝わり合う体温と、僕がわずかに加えた力だけだろう。


「ご主人様! これで大丈夫です!」


 かれこれ3、4秒後、皮膚細胞たちが記憶が完了したことを知らせる信号を送ってきた。


 僕はすぐに手を離してスタッフにお礼を言い、お手洗いの方へ少し歩いた後、彼らからは見えない位置から舞台裏の入り口の扉の前へと引き返した。


「どうだ? 指紋は変わったか?」

「出来上がりました~私たちの『変身』の成果をぜひご確認お願いします!」


 僕は右手を上げて、各指の指紋をざっと観察した。


 正直なところ、以前と何の違いがあるか全く見分けがつかなかった。理由は単純だ。自分の指紋がどんな形をしているかをわざわざ覚える人などいるだろうか?


 たとえ記憶力がどれほど優れていても、全く役に立たない記憶の断片を保存するために脳の容量を無駄にすることはないだろう。


 自分のスマホや自宅のドアロック、あるいは様々な名目で活動する官公庁や企業などに、一人ひとりの生体情報を預けてもらうほうが、時間と労力を節約できるのではないだろうか?


「見ただけでは分からないな。実践で君たちの成果を検証してみよう。」


 一般的に、指紋登録の際、人差し指と親指の使用頻度が最も高い。なぜなら、この二本の指が人間の手の主要な動作を担っているからだ。


 先ほど、北崎さんの側近が扉のロックを解除する際、僕にも同じ実演を見せてくれた。つまり彼女もまた一般大衆の一員であることは証明済みだ。


 したがって、この二本の指のうちのいずれかを使って扉を開けるのが、間違いなく最も確実な方法だ。


 ただ人差し指をタッチパネルに軽く当てるだけ――目を閉じていてもできるほど単純な動作なのに、僕の鼓動は五臓六腑にこだまするほど高鳴り、全身が共鳴する勢いとなった。


 施設の警備設備を無断で解除し、許可なく侵入すること――こうした行為は、本質的に何を意味するのだろうか?


 陽の国の法律を少しでも知っている人なら誰でもこう答えるはずだ――犯罪だ。罪名は不法侵入。


 僕は犯罪心理学を研究したことは一度もない。だから、とてつもない大罪を犯した凶悪犯であれ、凶器携帯などといった軽犯罪に留まる小悪党であれ、彼らが初めて犯行に及ぶ際の心理活動は、僕にとっては謎に包まれた、一生足を踏み入れることのできない禁域――本来ならそのはずだった。


 ところが今、僕は実体験を通じて、自分自身を犯罪心理学の事例の一つに加えようとしている。


 初犯者も、僕と同じように緊張しすぎて頻脈になるのだろうか?それとも、僕だけが例外なのだろうか?


 僕には知る由もなく、知りたくもない。


 ただ一つ分かっているのは、法を遵守し品行方正な市民から、法を無視し道徳を踏み躙る犯罪者へと堕ちるのに、防火扉一枚分の厚さしか挟まっていないということだ。


「心臓さん……ちょっと、俺の心拍数をコントロールしてくれないか?」

「承知いたしました。」


 僕は心臓に心拍を調整する理由を明言しなかったが、それでも心臓は僕の指示に快く応じてくれた。


 心拍が正常に戻った後、扉が両側に徐々に開いていくにつれて、目の前の光景も次第に広々とした明るい空間へと変わった――


 舞台裏や楽屋へと続く通路が、僕の視界に飛び込んできた。


「嘘だろ……マジでドアが開いた! みんな見て! 本当に他人の指紋でドアを開けてるんだ!」


 ついさっきまで底なしの緊張感と罪悪感に深く沈んでいたのに、瞬く間に自分の「共犯者」――つまり僕の右手――と、歪んで病的な達成感を分かち合うようになった。


 犯罪者は、初めて犯行に成功した時、僕のように有頂天になったり、自惚れたりするのだろうか?


 僕には知る由もなく、気にするつもりもない。


 初めて戸をこじ開けたり、鍵を解錠したりする新米犯罪者にしては、これほど難易度の高いセキュリティを何の苦労もなく突破できたなんて、果たして僕のこれからの犯罪者としての人生において、「幸先の良いスタートを切る」ことになるのか、それとも刑務所送りの前触れになるのか、正直分からない。


「ご主人様、誰かに気づかれる前に、早く中に入ってください。トラブルを招く恐れがございます。」

「ああ、そうだ……何をしているんだ俺は!ここで時間を無駄にしてはいけない!」


 心臓からの忠告を聞くなり、僕は矢の如く扉の中へ飛び込んだ。


 その直後、背後で扉がぎしりと閉まる音が聞こえた。それ以外に余計な音は一切しなかった。


 つまり、僕の潜入は誰の注意も引かず、すこぶる順調に進んでいるということだ。


 目の前のこの通路は、先ほど北崎さんの部下と一緒に通った時と変わらず、人影一つなく、まるで嵐の前の静けさのように、僕が正式に舞台裏に突入する前に、最後の息つく合間を与えてくれている。

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