第二十一話 僅かな異変 ②
第2段階の曲数は第1段階よりずっと多く、所要時間も長かったにもかかわらず、実感としては一瞬の出来事のように感じられ、ファンたちの急速に高まる期待をちっとも満たせなかった。
第2段階が終了した瞬間、観客席からは再び大地を震わせるほどの凄まじい歓声と、会場全体に広がるペンライトのカラフルな波と共に、ファンたちも同じく視覚と聴覚を通じて、「月隠の顔」がくれた感覚的な喜びに応えた。
これまでの「恒例」通り、僕の体内に住み着いた数十兆個の「筋金入りのファン」たちが、またしても口々に不満を漏らし始めた。
「え~~~、またこんなに早く終わっちゃうの? 全然物足りないじゃん!」
「こんなに素敵な歌声、見応え抜群のダンスが楽しめれば、正直言って、ここで丸三日過ごしても満足できないくらいだ!」
「ご主人様! 第三段階もありますよね? 第四段階もありますよね? 第五段階も絶対あるはずですよね?」
「妹さんのパフォーマンスを常に鑑賞できないなんて、私たち細胞にとっては生きる意味を失うのと同じ……もしかすると、それによってアポトーシスが引き起こされるかもしれない……」
こいつらの「月隠の顔中毒症状」はますます深刻になっている。
自分の推しのために命を捧げるといった過激な行為は、人間社会では決して珍しくないが、大規模で集団的な自傷行為にまで発展することは絶対にない。
このことから、細胞たちの推しへの執着は、人間よりもはるかに過激であることがわかる。
客観的に言えば、彼らの反応は多少なりとも僕の意志を反映しているが、自身の身の安全を確保するためにも、彼らにもう一度安心感を与える必要がある。
「おいおい、そこまで極端に反応するな!まあ、とにかく、後でうちの妹がアンコールに出て、零時を過ぎるまで歌い続けるから、そんなに落ち込むことないよ~」
「よっしゃ―――!!! 今夜は絶対に夜通し騒ぎまくるぞ!」
「ご安心くださいご主人様!私たちが十分なエネルギーを供給しますから、数日間眠らなくても疲れを感じることはありません!」
「問題は、うちの妹が寝なきゃいけないってことだよ? せめて文緋には少し休ませてあげてほしいんだけど…… 」
「もう……それじゃ興ざめです……せっかく思い切り楽しめるチャンスなのに……」
僕の慰めは効いていないらしく、細胞たちの落胆はますます募るばかりだ。
どうやら無理やり命令を出すといった強制手段で、彼らを落ち着かせるしかないようだ。
「皆さん、ご主人様の妹さんの気持ちもちゃんと考えてあげるべきでしょう! 自分の楽しみばかりに夢中になって、他人の安否を無視してはいけません!」
目からの正義感あふれる発言は、真剣で真面目そのもので、普段の彼女たちの様子とは全く違っていた。
それに、さっきの言いたくても言い出せないような様子を考えれば、彼女たちを疑わずにはいられない。
「目の言う通りです。皆さん、確かにご主人様やパフォーマーの立場に立って考えるべきです。普通の人間には、体力も精力にも限界があります。私たちのように、ご主人様に限りなくエネルギーを供給し続けることはできないのです。それに、あれは何よりご主人様の妹です。肉親を案じるのは、ごく当然のことです。もし皆さんにも、自分にとって特に大切な存在がいれば、自ずとご主人様の気持ちも理解できるはずです。」
心臓もタイミングよく乗り出し、教育者のような口調で、目の言葉に続けて語りかけた。
ただ、後半の言葉がこれほど核心を突くものだとは思いもしなかった。僕の些細な思惑は、やはり心臓には隠せなかったのだ。
「心臓さんと目さんの教えはごもっともです。反省しております……」
「確かに、私たちは自分のことばかり考えていて、ご主人様や妹さんの気持ちを全く気にかけていませんでした。これこそが、人間が言う『利己的』ということなのでしょうね?」
「とにかく、私たちは謝らなければなりません! 私たちの思いやりが足りなかったのが悪いのです!ご主人様と妹さんの気持ちを無視して申し訳ありません!」
目と心臓以外の細胞たちが一斉に謝罪した。過ちを認め、改めようとするその姿は、僕という常に謝る主人と瓜二つだった。
「まあ、別に構わない。お前たちはただうちの妹が大好きだっただけだ。人間なら誰しもそうなるもの…… いや、細胞にとってもごく普通のことだ。理解できるとも。文緋がこれほど人気があるのだから~人間を虜にするだけでなく、細胞のような微小生物でさえ彼女の魅力に抗えないんだ~」
普段は部外者に妹のことを自慢する機会がほとんどない兄としては、精神世界の中で目に見えない小さな連中にしかうちの妹の素晴らしさを吹聴できないなんて、なかなか哀れな話だな。
――――――――
潜在的な大規模な細胞アポトーシスの危機をうまく回避した後、僕はすぐに、おかしな様子を見せる「目」たちを呼び止めた。
目と僕自身の意志は同じ肉体の中に存在しているのだから、理屈の上では、僕と彼女たちが見ているものは同じはずだ。
まさか、彼女たちは僕が視覚では捉えられない異変に気づいていたりするのだろうか?
「目の細胞たち、待ちなさい! さっきからお前たちの様子がちょっとおかしいし、話すのもどもっている。正直に言いなさい、何か隠していることがあるのか?」
角膜から水晶体、そして網膜へと、すべての目の細胞が、僕の質問に自発的に答える気などさらさらなかった。
もちろん、これは命令に背いているわけではなく、僕にどう切り出せばいいのか分からず、口ごもるような合図をまとめて送ることで、言いづらい事情を伝えようとしているだけだ。
しかし、徹底的に追求する僕の決意は、彼女たちがこのままごまかして済ませることを許さない。
「誰も答えないのか? よし、ここで目に命令する。隠していることを洗いざらい白状……」
「わ、わかりました……正直に話します! 実は、わざとご主人様に隠そうとしたわけじゃないんです。ただ、ご主人様に伝えたら心配させてしまうかもしれないと思って、ずっと口に出せなかっただけで……」
「正直に言わないから心配になるんだ! まったく、一体どんなことがそんなに言いづらいの? まさか……文緋に関係あるの?」
「率直に申し上げますと、そうです……実は私たちも100%確信しているわけじゃありませんが、放っておけなくて、それで……」
「じらさないで、さっさとはっきり言え! 文緋のどこに何か見たんだ? 俺には何も異常なところは見当たらないけどな?」
「妹さんの顔をよく見てください。何か注目すべき点はありませんか?」
これはまさに余計な質問だ。第二段階の間中、僕の視線はその仮面から一度も離れていなかったのだから。
今、僕がかけている眼鏡のレンズに映るその顔は、相変わらず彫刻のようであり、繊細で美しく、可憐で魅力的。
時として、透き通るような汗の粒が彼女の肌を伝うが、僕にはそれがまさしく青春と活力の象徴に見え、彼女の美しさにより一層特別な彩りを添えている。
「やっぱり何の異常も見つからないな……」
「彼女の顔色に何か変化があると思いませんか?」
「顔色?ああ、君の言いたいことはだいたい分かった。長時間の活動後の自然な反応じゃないか? 何しろ歌ったり踊ったりして、3時間もぶっ通しでパフォーマンスしたんだ。多少の疲れは当然だろう。でも、文緋の体力については心配しなくていい。彼女は休憩なしで6時間以上も歌い続けたことがあるんだから~」
「そういう意味ではありません。あれは一時的な疲労による顔色の悪さではなく、むしろ体が極度に衰弱している兆候のように見えます。」
「何だって?」




