第十八話 思い切りライブを楽しむ二人
ペンライトの色とりどりの波と、地を揺るがす歓声の中、「月隠の顔」と彼女のバックダンサーたちは、広大なステージの真ん中に軽やかに着地し、このコンサートの正式な幕開けを告げた。
華やかで多彩なイルミネーションが、「月隠の顔」が着地した瞬間と同時に点灯し、もともと少し荒涼としていたステージを、不思議なメルヘン王国へと変貌させた。
余計なオープニングの挨拶はなく、会場の雰囲気が最高潮に達したその瞬間に、単刀直入に次の曲へと切り替え、ファンの中で燃え盛る炎をさらに煽り立てた。
物悲しい曲調が、なんと継ぎ目なく躍動感あふれる明るいリズムへと移行し、その編曲の巧みは、僕のような素人でもはっきりと聞き取れた。
文緋本人を除けば、新世代の歌手の中でこれほどの才能を持つ人物は、おそらく他にいないだろう。
歌っている時の表情だけでなく、文緋のステージ上のダンスの姿をこの目で見たのも、これが初めてだった。
踊り全体から、一つひとつの微細な動きから、数え切れないほどの厳しいトレーニングを重ねてきた痕跡がうかがえる。
汗だくになってリハーサルに励むその小柄な姿が、まるでステージ上に現れたかのようで、輝きを放つ「月隠の顔」と肩を並べて舞い、曲のリズムと一体となっていた。
百万人の注目を集める煌めく光は、誰にも知られぬ汗の滴と、歯を食いしばって耐え抜いた涙の輝きと引き換えに得られたものだ。
類まれな才能だけでなく、岩のように堅い意志と決意。成功者に不可欠なこれらの要素が、繊細で華奢な少女の中に融合し、生み出したその後ろ姿は、漢よりもたくましく、威風堂々としている。
兄として、もう君には完全に追いつけないな。
親父、おふくろ、見ているよね? 特に安達政さん! 自分の娘のことを心から誇りに思ってくれよ!
――――――――
「ヘイ――― ! ヘイ―――!」
100万人のファンがリズムに合わせて次々と掛け声を上げ、ペンライトを上下に振り回す光景は、その壮観さでは間違いなく歴史に刻まれるに値する。
ところが、どこかおかしいような気がし始めた……歓声がさっきよりもさらに大きくなっていないか?
「『月隠の顔』は世界一!!! いや、宇宙一!!!」
現実世界から隔絶された、このダサい賛辞を聞けば、言うまでもなく、またしても細胞たちの仕業に違いないとわかる。
たった二曲の間に、彼らは現場で狂喜乱舞するファンたちに完全に同化され、「月隠の顔」の歌声とパフォーマンスに酔いしれていた。
騒がしいとはいえ、彼らに「静かにしろ」といった命令を下すことはせず、この一生に一度あるかないかの貴重な瞬間を、彼らと共に楽しむことにした。
ただ残念なことに、肉体という障壁に阻まれて、この数十兆もの応援の声は僕の体内に留まるだけで、彼女に本当に届くことはとてもないのだ。
そこで細胞たちは、僕から見ればとんでもなく馬鹿げた案を思いついてくれた。
「ご主人様~~~どうして会場のファンたちと一緒に盛り上がらないんですか? みんな楽しんでいるじゃないですか?」
「そうですよ。私たちでさえ知らず知らずのうちに盛り上がってしまいました。人間ならなおさらです!」
「ご主人様の妹さんには確かに不思議な魔力がありますね。彼女のパフォーマンスは人間を魅了するだけでなく、私たちのような下等生物でさえも虜にしてしまうなんて、本当に不思議です。」
「でも、ご主人様だけは魅了できないの? だってご主人様はただ立ち尽くして見ているだけじゃないですか?」
「こんなに素晴らしいパフォーマンスに無関心だなんて、どうやらご主人様は私たちが想像していたほど、妹さんを可愛がっていないようですね。」
「ほら!お前たち、話がどんどん脱線してきてるぞ!それに、余計なお世話をしすぎじゃない?何と言っても、俺にとってコンサートなんて初めての場だし、正直まだ慣れてないんだ……急に思いっきり羽目を外せって言われても、ちょっと……」
「あのさ、ご主人様、隣におられる長実さんも、このパフォーマンスをとても楽しんでいらっしゃいますよ!」
「えっ?」
ステージ上の文緋に見とれすぎていたせいで、隣の清音が他の熱狂的なファンたちと同じように、ペンライトを振りながら飛び跳ねていることに全く気づかなかった。
その動きは他の人ほど激しくはなかったが、なめらかな腰までの長い髪が散らばってしまうほどには十分だった。
僕の目には、かつての極度に人見知りで口数の少なかった清音も、大人になって優雅で、気品あふれる清音も、僕の隣にいるこの奔放でワイルドな少女とはどうにも結びつかない。
確かに「月隠の顔」が清音に自分自身を変えるきっかけを与えたことは知っているが、まさかここまで彼女を変えてしまうとは……
「以前とは違う」と僕ばかりを指摘するけど、清音、あなたも同じではないのか?
とはいえ、清音が他人の目を気にせず、自分の感情を思う存分解き放っている姿を見ると、羨ましさと感慨が交錯する。
おそらく細胞たちが言うように、音楽には本当に何か特別な魔力があるのだろう。
「ですから、ご主人様も気兼ねせず、一緒に踊りましょう!」
「でも……」
「私も、ご主人様にはもう少し肩の力を抜いて、無理に自分を抑え込まないでほしいのです。人間のように音楽を心ゆくまで楽しめない私たちの分まで、思い切りはしゃいでみてください。」
「心臓さんまでもがそう言うなら……わかった、わかった。やってみる。」
――――――――
そこで僕も、ほったらかしにしていたペンライトを手に取り、ぎこちなく振り始めた。
足も曲のリズムに合わせて動こうとしたが、結果は想像通り、リズムに全く合わず、そのせいで全身の動きが極めて不自然で滑稽なものになってしまった。
遠くから見れば、故障した人型ロボットかと錯覚されるほどで、周囲の「普通の人々」とは完全に浮いてしまっていた。
おまけに僕の席はステージ真正面の最前列中央だったため、たとえその場にじっとしていても、ステージから見るにせよ、ライブ配信のカメラに映るにせよ、十分に目立つ位置。
そのため、僕のこの不器用な姿は、ステージ上の出演者全員の記憶に刻み込まれることは必定であり、会場外で生放送を見ている視聴者たちからは、コメディの雰囲気を盛り上げる道化役として見なされてしまうかもしれない。
パフォーマンス中ずっとこっそり僕を見ていた文緋は、もちろん客席での僕の拙いダンスも見逃すはずがない。
歌と踊りの合間を縫って、彼女はまたいたずらっぽく僕に数回ウインクを送ってきたが、それを文字に訳すと、内容はツッコミ満載だった。
「ねえ、そこで何してるの、お兄ちゃん? 獅子舞の真似? それとも自分で発明したゾンビダンス?」
「うる……うるさい! 俺がこんなに熱心に応援してやるのに、お前は全然感謝しないな……やっぱりさっきみたいにじっとしてたほうがいいかもさ。」
「わかったわかった~お兄ちゃんの気持ち、ちゃんと伝わってくるよ! でも、あなたの情熱はまだちょっと足りないかしら?」
「は? もうここまでやったのに?狂気の度合いは他の人たちとほぼ同じレベルじゃない?」
「だめだめ! まだ重要な要素が一つ足りない!」
「他に何があるの?」
「『月隠の顔』への愛……じゃなくて、応援の気持ちを、もっと直感的に表現しなきゃ! 清音ちゃんのやり方をしっかり参考にしてね~~~もう話す時間はないわ、歌を続けるから~」
無理難題を押し付けてくるなお前……もうこれほどまでに見栄を捨てて必死に応援してやっているのに、このスーパーアイドルを満足させるには、一体どうすればいいんだ?
しかも清音を参考にするなんて? そう言われても、自分の方が清音より劣っているとは思えないんだけど? リズム感も、姿勢も僕よりも人間らしいこと以外は……
途方に暮れているところへ、再び心臓が道しるべを示してくれた。
「ふむ、妹さんの言わんとすることは、おおよそ理解できました。」
「えっ?心臓さん、俺と文緋のまばたき暗号も読み取れるの?」
「まばたき暗号を解読しているのは私ではなく、ご主人様ご自身の脳です。私はただ、その解読結果を脳細胞と共有しているに過ぎません。」
「そうか……じゃあ教えて、まだ何が足りないの?」
「簡単です。長実さんや、会場にいる他のファンたちと同じことをすればいいだけです。」
「今やっているじゃない? さっきお前たちが言ったように、音楽を楽しもうと、ファンの雰囲気に溶け込もうと努力している。まだ少し不慣れだけど、精一杯やっているんだ……」
「まだ一つ足りないものがあります。それは、『月隠の顔』への支持と愛を言葉で表現することです。」
「は──── ? つまり、さっきの他の細胞たちみたいに、聞くだけで鳥肌が立つような気持ち悪いスローガンを叫べってこと?」
「ご主人様、そんなことを言われますと、私たちの自尊心がちょっと傷つきますが……」
「そうですよ、ご主人様。私たちはただ本音を言っただけで、わざとあんなにベタなことを言ったわけじゃないんです。」
「私は別に不適切なことは言ってないと思うんですけど……気づかぬうちにご主人様を怒らせてしまってごめんなさい!」
他の細胞たちの不満はますます高まり、僕もすぐに自分の不注意に気づき、慌てて言葉を改めた。
そもそも、僕の無神経さと堅物ぶりが原因だったのだ。
単に人間のように、隠すことなく内面の感情を表現したいだけである細胞たちが、これほど不当な評価を受けるべきではない。
「みんなごめん! 俺が悪かった! 責めてるわけじゃないんだ! ただ、個人的にはスローガンを叫ぶなんてちょっと恥ずかしいと思って……」
「もしご主人様がどうしても気まずいとお感じなら、長実さんのやり方を真似るのも一つの手ではないでしょうか。」と、心臓が助言した。
「清音のやり方? 彼女と他の人たちと何が違うの?」
「少し観察すれば分かるでしょう。」
卑猥な目つきで彼女を覗き見していると清音に誤解されないよう、少し後退し、彼女の視界に入らない位置からその一挙手一投足を観察した。
どうやら、僕の配慮は余計だったようだ。音楽の世界に没頭している彼女は、まさに他のことに気を取られることなく、周囲のあらゆる「雑物」を無に等しいものとして扱っていた。
もちろん、故障したこの粗悪な人型ロボットである僕も含めて。これはむしろ、僕の観察にとって好条件となった。
ほどなくして、僕は観察結果を導き出し、それを心臓と照合した。
「うーん……強いて言うなら、清音は確かに他の人とは少し違うようだね。しばらく観察していたが、彼女は一度もスローガンを叫ぶことなく、ただ『月隠の顔』の歌に合わせて歌っていただけだ。これって心臓さんが指摘したことかな?」
「そうです。ご主人様が直接言葉で思いを伝えられないのであれば、歌声を合わせて『月隠の顔』への支持を示すという折衷的な方法でも同様の効果が得られるはずです。」
「うーん、それは別に構わない。どうせ彼女の歌はだいたい歌えるし……でも俺が歌っても彼女には聞こえないんじゃないか? 最前列に座っているけど…。」
「それはご主人様が気に病むべき問題ではありません。聞こえるかどうかは、発声者ではなく、聴く側次第です。重要なのは、ご主人様が相手に想いを伝える決意があるかどうかです。」
心臓の言う通りだ。余計な心配に気を取られてはいけない。
文緋に、彼女の夢を追う旅路において、常に背後で黙って見守っている「朴念仁」がいることを知ってもらうこと、それこそが真のテーマなのだ。
「もちろんあるぞ! さっきも言ったじゃないか、今日、俺はまさにそのために来たんだ!」
「うむ、ではご主人様の素晴らしいパフォーマンスを楽しみにしております。」
「おいおい、今パフォーマンスをしているのはうちの妹であって、俺じゃないんだぞ?そんな他人事のように騒ぎを煽る口調で話すのはやめてくれないか……」
「もしご主人様がプロの歌手にも引けを取らない美しい歌声を求められるなら、いつでも私たち『喉』にお申し付けください! ポップスでもオペラでも、どんな歌唱法でも代わりに歌わせていただけます!」
『喉』の突然の横槍にかなりの情報量が詰まっていたが、今は迂闊に超能力に頼る時ではない。
「へえ、じゃあ俺には変声能力もあるってことか? 妹の仕事を横取りしに来たわけじゃないんだ……それに、俺の想いは自分の声でしか彼女に伝えられない。他人の力を借りては無理だ。だから、君たちはひとまず下がってくれ。好意は感謝する。」
「よくは分かりませんが……とにかく仰せの通り! では、ご健闘をお祈りいたします!」
歌声という点で言えば、僕自身のレベルでは何十回生まれ変わっても文緋には到底及ばない。
あまつさえ、僕の喉の歌唱機能は人生の大半において放置状態だった。
たまに口ずさむことがあっても、その聴衆は自分の両耳か、あるいは宇宙の様々な惑星だけであり、人間の審査員による評価を受けたことは一度もない。
断言できるのは、僕が全く音痴というレベルではないということだ。
自分の声を美化してしまう耳の影響を除けば、歌ったメロディーは少なくとも聞き苦しくない範囲内にある。
それに、たとえ耳障りな歌声だったとしても、他人はそれを単に会場の音響設備からの雑音だとしか思わないだろうから、他人の感想を気にする必要もない。
――――――――
そこで僕は口を開き、「月隠の顔」の歌声に合わせて、そっと口ずさみ始めた。
呻き声のような最初の低音から、徐々に調子に乗ってきた2番目のフレーズ、そして脳内からドーパミンが分泌され始める没入感のある高音に至るまで、歌詞を3フレーズ口ずさむだけの時間で、「月隠の顔」の音楽は僕と会場にいる他の999,997人のファンを完全に一体化させ、僕の真面目ぶった仮面を完全に剥ぎ取ってくれた。
手の中で揺れるペンライトも、会場全体のリズムに完璧に合致して動きながら、僕が正式に「月隠の顔」ファン応援団の一員となった証を作ってくれた。
音楽の世界で、遠慮なく情熱をぶちまけることは、これほどまでに爽快で、これほどまでに心地よいものだと初めて知った。
この世に生きる上で、常にまともな人間というイメージを保たなければならないわけではない。
時折、心の中に長く閉じ込められていた「猛獣」を檻から解き放ち、果てしなく広がる「大草原」を思いのままに駆け回らせる必要もあるのだ。
「月隠の顔」の歌声こそが、この世で通用する万能の鍵であり、どんなに堅く閉ざされた檻でも、その鍵があれば簡単に開くのだ。
しかし、文緋の心の扉を開くその鍵は、いったいどこにあるのだろうか? 僕の、荒々しく野獣っぽい歌声の中にあるのだろうか?
この自己陶酔的な空想にあまり期待はしておらず、自分の歌声で鍵の在りかを模索するしかなかった。
ただ、僕が予想だにしなかったのは、僕の歌声に真っ先に反応してくれた人が、ステージ上のあのオリジナル歌手ではなかったということだ。
僕の右腕に微かな感触が続々と伝わってきて、音楽に酔いしれる動作を一時的に止めざるを得なくなった。
「先輩の歌声、すごく、すごく素敵です!」
清音が僕の耳元に顔を寄せ、そう言った。
一瞬、彼女が心から僕を褒めてくれているのか、それとも遠回しに皮肉っているのか、見当がつかなかった。
僕みたいな野暮ったい大男が歌うアイドルソングを「素敵」と思う人なんてこの世にいないだろう? 普通の聴衆に吐き気を催させないことだけでも、僕にとっては最高の賛辞だ。
「俺をからかうな…… 自分の歌声がどの程度のレベルか、俺にも分かっているさ。」
「いいえ、この曲は『月隠の顔』の全楽曲の中でも難易度の高い部類に入ります。特に男性にとっては、低いキーで歌っても上手に歌うのは難しいものです。先輩は中の複雑な音階の変化をしっかりと記憶しているだけでなく、これほどの水準で歌いこなしているのですから、本当に……本当に感服しました!」
まるで真理を見出したかのような彼女の確固たる表情から、心から僕を称賛してくれていることが分かった。
まあ、それも不思議ではない。何しろ、僕が『月隠の顔』の歌に触れてきた総時間は、清音と比べてもさほど遜色ないのだから。
清音には、僕の歌声に込められた真意までは聞き取れないだろうが、それでも彼女が与えてくれた評価に、心が通う相手を見つけた時の安らぎを感じた。
「そんなに褒めないでよ、本気になっちゃうから……」
「全部、私の本、本音です! こうしたこだわりからして、先輩の『月隠の顔』への愛は、名誉会員の称号にふさわしいと断言できます!」
清音はまだ僕を過小評価している。僕が「名誉会員」というランクに満足するわけがないだろう?
「じゃあ、次に会員募集が始まったら、俺も便乗させてもらうぜ~そうすれば、これからチケット代がずいぶん節約できるし~」
清音は日差しのような温かい笑みを見せた。僕の冗談に笑ったのか、それとも将来また僕と一緒にコンサートを観られるかもしれないことに喜びを感じたのかは分からない。
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清音との短い会話が終わると、僕は再び心の中に潜む「猛獣」を解き放ち、音楽という名の原野を駆け巡らせた。
そして今回は、歌声のボリュームがピークに達した後は、一度も下がったことはない。
ステージ上のオリジナル歌手の声に合わせて、共に時間を過ごしていった。まるで「月隠の顔」の人生の最初の15年間、僕が彼女と共に歩んできた日々のようだった。
歌声という形に変わっても、決して離れたことはなかった。
あまりに夢中になりすぎたせいか、自分が「月隠の顔」に合わせて何曲歌ったのかさえ覚えていない。
オープニングメドレーの最後の曲になるまで、僕はようやくその全く不協和な男性のハーモニーを止めた。
「『暗夜と朝焼け』か……この曲を聴くのは久しぶりだな。」




