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第七話 ありふれたおじさんでもあり、僕の自由を取り戻してくれた勇者でもある

 監視室では、観察団の皆が相変わらず緊張感を持って作業を続けていたが、多くの成員はやる気を失った様子でいる。28日間にわたる高強度の分析作業にもかかわらず、池の細胞研究には何の進展も見られなかったのだ。細胞に変異が現れて以来、池の各種細胞サンプルには新たな変化が一切出ず、観察団はこの変化がもたらす作用や、池を生き延びさせている原理について、未だに全く見当がついていない。もしかすると、これらの突然変異は、池を生き延びさせる以外に何の役にも立たないのだろうか?そう考えると、意気消沈するのも無理はない。


「もう28日目だ。明後日で1ヶ月の期限が切れるというのに、我々はまだ何も研究できていない。安達氏は相変わらず元気で、不思議ではあるが、彼に何一つ新しい変化も見つかってないんじゃないか?」

「その通りだ。我々に昼夜を問わず研究を強いる一方で、安達氏には美味しい食事や飲み物を与えてばかりいる。恐らく、先に体調を崩すのは安達氏じゃなく、我々の方だろう。」

「上層部の連中はオフィスで悠々と過ごしているし、最後には私たちの研究成果の分け前まで要求してくるかもしれない……」

「それに、安達氏に何事もなければ、放射線障害の治療に関する経験を全く積むことができないのではないだろうか?」


 皆はすでに、この際限のない観察と研究に対して不満を抱き始めていた。教授は、これが上層部に圧力をかける好機になるかもしれないと察した。


「安達池の細胞に見られる変化は、すでに我々の認識を超え……いや、人知の及ばない領域に達している。彼の体内の細胞が、いったいどのような仕組みで彼を生かし続けているのか、たとえあと100年研究したところで、何の成果も得られないだろう。」と、教授は話題を悲観的な方向へと導き始め、同僚らを焚きつけようとした。

「お言葉はごもっともです。それなら、私たちがここで必死に働いている意味はどこにあるのでしょうか?」

「どうせこの研究は、皆さんの論文や個人研究に何の役にも立たないだろうし、このまま続けることに大した意味はない。」と、教授はさらに火に油を注いだ。


 確かに、仮に教授の考えに従うとすると、池は生き延びて自由を取り戻せるだけでなく、あの医師が言っていた「全世界から注目される」という最悪の結末も避けられる。ただし、何も研究結果が出ないという前提での話だが。


「でも、まだ1ヶ月ほどしか経っていませんし、この段階で観察を中止するのは、少し早すぎるような気がしますが……」

「これから安達池を定期的に観察すれば十分だ。突然変異による短期的な変化は予想通りではなかったが、身体への長期的な影響――例えば、最も一般的に言うと、放射線による腫瘍の発症率が著しく上昇するかどうか、などという点については、まだ研究する価値がある。よって、安達池にしろ我々にしろ、これ以上ここに留まる必要はない。そう思いませんか、下田長官?」


 話が終わった途端、教授は振り返ってモニターの画面を見た。なんと下田はとっくに接続していたのだ。しかし、教授以外には誰もそれに気づいていなかった。何せ皆が愚痴をこぼすのに熱狂し、今が毎日下田長官に状況を報告する時間であることさえを忘れてしまっていたからだ――さっきの皆の様々な不満、下田長官には全部聞かれていたのだろうか?


「正直なところ、教授のおっしゃったことは確かに一理あると思います。」と、少し意外だが、下田は教授の意見に賛成する態度を表した。

「あ……長、長官、誤解しないでください。私たちは勤務条件に不満があるわけではありません。ただ、現在の観察や研究が実質的な進展を見せないため、皆少しがっかりしているだけです……」


 成員の一人は下田に責められるのを恐れて、慌てふためいて言い訳しようとしたが、教授だけは堂々と下田に皆の不満をぶつけていた。


「これほど過酷な作業量に、ここの全員がすでに耐え難い思いをしています。しかも、皆さんもご覧の通り、長期間の監禁により、安達池の精神状態は崩壊寸前となっています。自殺念慮と見なされる脳波信号の警告だけでも、実に42回にも上ります。見張りを配置していても、油断する瞬間は必ずあります。となると、安達池が本当に命を絶ってしまったら、この世にただ一人、長期的な医学的観察価値を持つ貴重な被験者を失ってしまい、取り返しのつかない結末になるだけでなく、もし上層部の官僚たちが知れば、下田長官、彼らに説明しづらいのではないでしょうか?」

「説明しづらいって、どういう意味でしょうか?」

「万が一、安達池が本当に自殺を図り、何かあった場合、政府機関、特に虎視島宇宙センター直属の人文科学技術省は、言うまでもなく高官を派遣して、調査を行いに来るでしょう。その際、私たち観察団の全員が事情聴取を受けたりすることになりますが、安達池の人身安全の保障については、指揮官であるあなたが全責任を負っています。もし私たちのうちの誰かが、下田長官の職務上の過失を調査官に報告したとしたら……」

「私を脅迫してるのか———!」


 画面の中で、普段は落ち着いた下田の表情が一瞬曇り、珍しく怒りをにじませながら教授に問いただした。そういえば、この台詞、どこかで聞いたような気がするのだ。


「とんでもありません。私はただ、その利害関係についてご説明させていただいたまでです。どうか私の要請を真剣にご検討ください。そして上層部に承認を求め、観察期間の満了時に安達池を解放し、観察団を解散していただければ、皆にとって良い結果になるわけです。」


 また聞き覚えのある台詞だ。まさに「目には目を、歯には歯を」というところだ。観察団の他のメンバーは、この二人の心理戦に割って入る勇気はなかったが、皆、教授を期待に満ちた眼差しで注視しつつ、教授が自分たちの自由を勝ち取ってくれることを静かに願っていた。


「くそったれな教授め、よくも俺を脅し返そうなんて……」


 下田は内心、歯ぎしりしたくなるほど腹を立てていたが、それでも上級指揮官としての品格を保つように努めていた。


「もし必要であれば、あのベッドの鎮静モードを使って、これから安達氏をずっとベッドに縛り付けておけばいいじゃあない?そうすれば、リスクは一切なくなると思う。」

「あ……失礼ながら、ご説明させてください。長官、この特製ベッドの鎮静モードは、設計上、鎮静モードの乱用を防ぎ、患者の身体の自由を守るため、ベッドが対象の感情が正常な状態に戻ったことを検知すると自動的に解除されるようになっています。そのため、安達様を長時間拘束し続けることはできません。」 と、その年配の医師が口を挟んだ。

「それでも構わない。どうせ部屋の外に24時間体制で警備員を配置しているだろう? あの警備員たちに彼を徹底的に見張らせればいい。」

「これにはかなりのリスクも伴うと存じます、長官。」


 画面の外から聞こえてきた声というのは、大体下田の秘書の声であろう。彼が画面内に現れ、下田の耳元で何かささやきかけているのが見えた。


「長官、率直に申し上げますと、如何にも、リチャード教授のおっしゃることは一理あります。すでに警備員を配置してはいますが、彼らと安達氏の間は壁で隔たっており、万全の備えにも必ず隙が生じます。さらに、こちらはあくまで宇宙センターであり、本格的な刑務所機関ではありませんので、対象者の自殺防止という点において、刑務所のように万全を期すことは到底できません。万が一、安達氏が見えない死角で自傷行為に及んだ場合、その責任を我々の誰一人として負えないのではないしょうか……」


 画面の向こう側の教授たちは、秘書が下田にささやいた言葉は聞こえなかったが、下田の表情がますます険しくなっている様子から見ると、安達池も彼らも助かるようだ。


「どうやらしょうがないようだ。まあいい、どうせこの事故は深刻な結果を招いていないし、俺も責任を負う必要はない。この役立たずどもが何も研究できていないという点から見れば、安達池の現在の研究価値もさほど高くない。せいぜい定期観察の対象に過ぎない。内閣の官僚たちが、そんな人間に長期的な関心を寄せるはずがない…… 安達池のことを私の功績にすることができない以上、彼に時間や人手を費やす必要もないだろう。念のため、保険をかけておけばいい。」


 下田は心の中で一通り損得を天秤にかけた。安達池と観察団を無理に留めておくことは、自分にとって害の方がはるかに重い。それなら、最終的な決断は明らかだった。


「どうやら、私は教授のご意見に賛成せざるを得ないようです。わかりました。こちらでの状況を上司にありのまま報告します。多分明日には命令が下るでしょう。上司が許可するかどうかは私の決定権外ですが、見るところ、却下される可能性はほぼないと思います。これで、あなたの望み通りになりましたね、安達池の良き先生、リチャード教授?」


 下田の話を聞くと、それまで憂鬱な表情でいた観察団の全員は、まるで長い間暗雲が垂れ込めていた空に、ついに大地を照らす陽光が差し込んだかのように、表情が一転して明るくなった。教授でも久々に安堵の顔をして、約一ヶ月間張り詰めていた全員の神経が、ようやくほぐれるようになった。


「私の拙い意見に耳を傾けてくださり、誠にありがとうございます。この間、長官とお仕事をご一緒できて光栄でした。」

「お世辞は結構です、教授。それじゃ、私にはまだ用事がありますから。」


 下田の姿が画面から消えたが、当分消えることのないのは、皆の歓喜に沸く光景だ。ついに家に帰れる!ついに、搾取工場の労働者のようにここに閉じ込められて過酷な労働を強いられることもなくなる!

 皆は歓声を上げながら教授のもとへ駆け寄り、教授を十重二十重にも取り囲んでいた。それは単に教授への感謝を示すためだけでなく、教授への崇高な敬意と賞賛の念を表すためでもあった。なぜなら、教授が自ら身を挺して、下田の権力を恐れず、正面から交渉してこそ、この得難い自由を勝ち取ってくれたのだから。


「教授、本当にすごいです!下田の奴は、完全に教授の手のひらで転がされていましたね!まさかあいつがこんな目に遭うとは思いませんでした!」

「奴のあの横柄な態度は、以前から見ていて腹が立っていました!教授のおかげで、私もすっきりしました!」

「そういえば、私たち十数人のうち、教授のように勇敢に立ち上がって抗議できる者が一人もいなかったなんて、恥ずべきことですね……」

「その通りです。教授と比べれば、我々は引け目を感じるものです。教授を見習わなければならないんだ!」


 皆が次々と言葉を投げかけ、教授を熱烈な賛辞の渦に包み込んだ。しかし、その時の教授は強張った顔をして、モニターに映る池のバイタルサインをじっと見ながら、物思いにふけっていた。


「この朗報を池君にどう伝えようか?彼はあの牢屋から出たいと思うだろうか?本当に自由を取り戻したいと思っているのか?」


 これらすべては明日、つまり隔離観察の29日目に明らかになる。

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