第十話 入場前、「密偵」との待ち合わせ
輝英館――噂によれば100万人の観客を収容できるという超大型多目的ホールであり、その名はとっくに世界中に知れ渡っている。
芸能界の者にとって、国籍やパフォーマンスの形式を問わず、輝英館の舞台に立つ資格を得ること自体が、宇宙開発界の「陽の心勲章」を獲得することに等しく、それぞれの分野において至高の栄誉とされている。
今、妹が僕に先駆けて、彼女にふさわしい最高の賞を受賞しようとしている。
文緋の誇らしい功績に喜びと誇りを感じる一方で、心の片隅にはほんの少しの嫉妬が潜んでいる。
そう、僕は文緋を少しばかり嫉妬している。それも、このネガティブな感情を隠すつもりはない。
かつて、文緋は兄の影に隠れた「劣等生」と見なされ、僕の後ろで、僕が歩んできた足跡を辿りながら、一歩一歩、よちよちと進んでいた。
しかし今や、あの頃の「付き従う子」は全速力で走り出し、僕の目には届かないほど遠くへと突き進んでいった。
それに対して僕は、事故に遭ったその瞬間から、まるで底なしの沼に両足をはまらせてしまったみたいに、少しでも動けばさらに深く沈み込み、いずれ完全に呑み込まれてしまうだろう。
こんな僕には、文緋に追いつくどころか、踏みとどまることさえできない。
僕の栄誉の壁に飾られているのは、恐らく永遠に、口止め料の一部として与えられたあの勲章だけだろう。
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考えは消極的だが、行動は積極的。残りの300メートル余りの距離を、残りの体力を惜しむことなく、一気呵成に生涯最速のスピードで駆け抜け、ついに真のゴールに無事到着した―――
輝英館正門前の広場、そこは僕と両親が待ち合わせを約束していた場所でもある。
広場の盛況ぶりは、画面越しに生中継をご覧になっている視聴者の皆さんが僕よりもよくご存知だろう。
輝英館の上空にほぼ網の目のように張り巡らされ、目測で数が4桁にも及ぶドローンの視点から会場全体を見渡せるので、視覚的な体験は間違いなく最も直感的だ。
前回、清音のスマホで見たアルバム発売会と同様に、深く震撼させられた。
あえて発売会との違いを挙げるとすれば、会館の外周に大規模な報道陣が加わっていることだろう。彼らは獲物を狙う野獣のように、現場のニュース素材を嗅ぎ回っている。
さらに、発売会の時の数十倍もの機動隊が、視界に入る隅々まで配置されている。
様々な形の暴動鎮圧用ロボットも機動隊と共に、会場の外をパトロールしており、少しでも異変があれば即座に戦闘態勢に入り、人間の警察官を補佐して、いかなる騒動のリスクも未然に防ぐ。
人生で初めてコンサートを体験する素人である僕は、この壮大な光景をむしろ当然のことと感じていた。
少なくとも反応の面では、「百戦錬磨」のベテランである両親よりも落ち着いていた。ある意味、自慢の種とも言えるだろう。
「ちょっと失礼、ご主人様~~~ あそこが妹さんのコンサート会場なんですか? 本当に壮観ですね~~~ こんなに綺麗な建物を見るのは初めてです!」
またしても目からの感嘆の声だったが、僕の個人的な感想と驚くほど一致していた。
「お前たちの『初めて』が多すぎない? まあ、俺も初めてだけどね。以前はいろんなライブ動画で見ただけだったし、今日は文緋のおかげでここに来る機会が得られたんだ。しかも一番いい席に座れるなんて~」
「わぁ~~~楽しみ~~~中はきっともっと綺麗でしょう?それに、ご主人様の妹さんも、どれほど美しいのかしら~」
「ふふ、存分に期待していいよ~。特にうちの妹の美貌は、絶対にお前たちを大いに楽しませてくれるはずだ!」
「ご主人様―――! 早く入場してください!!! 私たちもその美貌を一目見たいんです!!!」
他の細胞たちは、文緋の容姿についての後半の言葉を聞いて、一斉に熱狂し、兄である僕よりももどかしがっていた。
どうやら、美しい女性を見るのが好きなのは雄の人間だけではないようだ。
だが問題は、こいつらには視覚能力すらないということだ……目からの情報伝達だけでは、人間が挿絵のない小説を読むようなもので、視覚的な効果がなければ、美しさをどれほど深く感じ取れるというのか?
「はいはい、みんなが焦っているのは分かってるけど、まずは親の居場所を確認しなきゃ。」
長距離走の疲れから回復すると、急いで母に電話をかけた。
「もしもし? 母さん! もう輝英館前の広場に着いたよ! 今どこにいるの? もう入場した?」
「池、待たせすぎ!パパとあたしは、もう先に入ろうと思うとこだったわよ!」
「ごめんごめん、今日は特別な日だし、移動も確かに不便で……」
「冗談よ~あなたが無事に到着してくれたことが一番大事~まだ広場前のカフェにいるんだけど、こっちに来てもらう?それとも迎えに行こうか?」
「俺がそっちに行く。どこのカフェ?この辺にはいくつも店があるし。」
「『オアシス』とかいう名前だったっけ? 入り口に超大きな茶色の看板があるわ。」
「OK、すぐ行く!」
「じゃあ、店の前で待ってるね。私たちを見間違えることなんてないよね~?」
「そんなことないよ、息子が自分の親を見間違えるなんてありえないだろ?」
「それはどうかしら~~とにかく、こっちに来ればいいのよ!」
「わかった!」
おふくろの最後の言葉には、なんだか深い意味が込められているような気がした……
おふくろは、簡単明瞭なことを遠回しに表現するのが大好きな「なぞなぞの達人」のような性格なので、僕はそれを単なる気まぐれだと思い、あまり気に留めずに、すぐに待ち合わせ場所へ向かった。
――――――――
コンサートの影響で、広場前の商店街も人波でごった返し、その賑わいは大晦日をたやすく凌駕している。特に軽食を売る屋台の前では、どこも客でいっぱいという繁盛ぶり。
列に並んでいる客たちは、皆、入場前に夕食を済ませようとしているファンたちであることは一目瞭然だ。
屋台の主たちはいずれも大忙しだったが、満面の笑みで浮かれ、顔に「笑」という文字を貼り付けて客を持て成しているかのように見えた。
こう見ると、「月隠の顔」が人々に笑ってもらう手段は、歌声だけではないらしい。
もし今夜、僕もここで屋台を出せば、大儲けできるかもしれない……
ほどなくして、目的地を見つけた ―――「オアシス」という名のカフェ。
しかし、店の入り口には両親の姿は見当たらず、背の高い者と低い者の二人。
つばの広い帽子をかぶり、黒いサングラスをかけ、灰色のスタンドカラーのロングコートを羽織った怪しい人物がドアの横に立ったまま、出入りする客を一人漏らさず睨みつけている。
ただでさえ機動隊が配置されているのに、わざわざ私服刑事を周辺に張り込ませる必要などないはずだ。
「おかしいな……もしかして、親はまだ店の中にいるのか?」
僕は人混みをかき分けて進み、入り口の二人の正体不明の人物を無視し、店に入って両親を探そうとしたところに、突然右肩に手がかけられた。
手を伸ばしてきたのは、まさにその二人のうちの一人、背の高い男だった。
ぶっちゃけ、一瞬、本当に逮捕されるかと思った。どの弁護士に頼むかまで考えていたほどだ。
「おい、池、どこに行くんだ? 私たちはここにいるじゃないか?」
耳慣れた声色、親父とそっくりな体型と身長、しかも僕の下名前まで知っている。あらゆる条件を総合すると、もしかしてこの二人の正体は本当に……
「あの……どちら様ですか……」
「コラ、自分の父親の声すら聞き分けられないのか!」
「やっぱり池はあたしたちを見分けられないって言ったでしょ~? お父さんが『絶対に見分けられる』って賭けを吹っかけてきて、ほら、大負けしたね、このジジ~」
二人の「私服刑事さん」はそう言いながら帽子とサングラスを外し、正体を現した。すると、僕の推測も的中した。
「親父、母さん――!? どうしてそんな格好をしてるの??? どこからの密偵が犯人を待ち伏せしてるのかと思った!」
「うーん……私と十香子がこんな格好をしているのには理由があって……」
「全部お父さんの馬鹿なアイデアのせいだよ!文緋に見られないように、自分を鉄火巻みたいに包み込んで、あたしも同じ格好をさせられたんだ。こんなに暑い日なのに、こんな格好なんて…」
「はぁ……やっぱり十香子、口が軽いから私の面目を立ててくれないって分かっていたよ。」
だからさっき、母が電話であんなことを言ったわけか……客観的な事情もあったとはいえ、自分の両親だと気づかなかった理由にはならない。
急に、自分を平手打ちしたい気分。これからは軽々しく大口を叩かないようにしよう。
でもさ、こんな格好で両親が文緋と清音に見つかる心配はなくなって、別にいいじゃん。
「なるほど…もっと早く言ってくれればよかったのに。弁護士に電話するところだった……」
「え? 誰に電話するって?」
「かっ、母さんにだ! だってなかなか二人とも見つからなかったから! ところで、この格好、お二人に結構似合いだね~夫婦のペアルックって感じ?」
目の前で、50代に差し掛かる二人の歳相応の顔に、ほのかな赤みが差した。
カフェの看板の下から届く照明が、あたかも舞台のスポットライトのように、二人のいる場所を巧みに照らし出していた。
「こ、これってペアルックなんかじゃないわよ! それに、こんな老いぼれと誰がペアルックなんて着るもんですか!」
「おいおい、自分がまだ若いみたいに言うな。君だってもうすぐ50歳だろ?」
「母さんは口では嫌々言ってるけど、結局親父の言う通りにこんな格好してるじゃない~?」
そばにいた親父がプッと笑いをこぼすと、おふくろの頬の赤みがさらに深まり、アルデヒド脱水素酵素が欠乏している人がお酒を飲んだ後の顔のように見えた。
普段母にからかわれてきたお返しをするまたとないチャンスを、しっかり掴まなくちゃ。
「この子、今日はうるさいわね! さっさと会館に入りなさい!」
「はいはい~じゃあ俺が案内する。チケットは忘れずに。」
――――――――
数歩歩いたところで、後ろから親父に呼び止められ、とっくに覚悟していた質問をされた。
「あの、池…君が手に持っているバラは、文緋に贈るつもりなのか?」
「うん。ライブの終わり頃に、ファンがステージに上がって参加するコーナーがあるって聞いて、文緋が俺をその参加者に指名してくれたんだ……だから何かプレゼントをあげようと思ってたんだけど、花屋をぶらついてたら店員にしつこくバラを勧められて、断りきれなくて買っちゃったんだ……」
あらかじめ用意しておいた定型回答が、まるで台本を暗唱するごとく口をついて出た。
「嘘も百回言われれば真実になる」という名言がある。僕が「真実」を生み出す日も、そう遠くないだろう。
もしどうしても自分を弁明するならば、詐欺師になって以来、僕が作り上げた嘘は善意からか、あるいはやむを得ない事情からか、いずれにせよ今のところ、僕の嘘によって誰かが傷ついたという事例は見つかっていない。
むしろ、本音を率直に口にすることの方が、たとえ一時的であっても、人を悲しませたり苦しませたりすることになるのだ。
両親と文緋の膠着した関係に打開の兆しが見えたのは、まさにこれを代償にして得られたものだ。
結果だけを見れば確かに僕の望み通りだが、もし欺瞞によって同等の効果が得られるのなら、迷わずそれを選ぶだろう。
しかし、この花束に関して、僕が嘘をついた動機は何だったのか? 両親に「そう」思わせないためか?そもそも僕自身がそんなことを考えていたわけでもないのに?
もしくは、自分でもそう考えていたのかどうかさえ、はっきり分からないということなのか?
思考の混乱ぶりは、舌を噛みそうな早口言葉並みで、どうやっても整理がつかず、望む答えなど導き出せない。
とにかく、まずは親父を何とかごまかそう。
「ふむ、そうなのか。」
ほんの一瞬、親父が僕に向けた視線が、いつになくなった。幸い、それは束の間のことだった。
その後、親父の目はまた、僕が見慣れた様子に戻った。
「バラなんて、女の子にむやみに贈っちゃダメだぞ、分かってるか?」
「分かってるよ親父! そんなつもりはないんだ!」
「まあまあ~、ただ池のちょっとした気遣いじゃないの? だって池も、花屋の店員に強引に買わされたって言ったじゃない。お父さん、なんでそんなに疑り深いんだ? ところで池、まだ夕食食べてないでしょ? じゃあ、この辺でちょっと腹ごしらえしない?」
話題をそらすテクニックにかけては、やっぱりおふくろは腕が立つ。
とはいえ、おふくろが助け舟を出してくれたことには少し驚いた。何しろこの件に関しては、両親が同じ陣営にいると見込んでいたからだ。
「いえ、結構だ。全然腹が空いていないし。親父と母さんこそ、もうご飯は食べた? 親父が空腹のままじゃ体調に悪いぞ!」
これは決して建前ではないと断言できる。なぜなら、僕には食欲がこれっぽっちもないだけでなく、さらに大げさに言えば、20キロも走ったばかりなのに。
たとえそのうちの「自動運転」区間を除いたとしても、最後の5分の1の距離では思い切り汗を流したはずなのに、母に指摘されるまで、自分が喉の渇きすら感じていなかったことにも気づかなかった……
どうやら僕の砂漠での生存能力は、ラクダよりも強いようだ。
この耐乾性がどこから来ているのかという疑問については、ある程度の見当はついているが、深く追求するつもりはない。
「政とカフェで軽く食べたから、心配しなくていいよ。彼のお腹を空かせることはないから~」
「ならよかった。じゃあ早く会場に入ろう!」
「池、本当に何も食べないの?このライブは夜遅くまで続くんだから!」
「本当に腹減ってないって。それに、一食抜いたところで減るもんじゃないし~さあ、行くぞ、行くぞ!」
「はぁ……今の若者はみんなこうなんだな。若い時に体を大切にしなきゃ、将来、私と同じ目にあうことになるぞ!」
「将来のことなんて、将来になってから考えよう~」
――――――――
僕は両親を連れて、急ぎ足で会館の入り口へと向かった。その途中、目の声が精神空間に届いた。
正直なところ、まるで近所の玄関先で他人の噂話に花を咲かせているおばさんたちっぽく聞こえて、しかも何時間も話し続けるような感じだった。
幸い、目の声はかなり聞き心地が良く、退屈な話題に少しばかり面白みを添えてくれた。
「ご報告~~~あのお二人がご主人様のお父様とお母様でいらっしゃいますか?」
「そうよ。ほかの細胞の仲間たちにも伝えといて。」
「了解です~ところで、ご両親は本当に気品のあふれるお顔立ちですね! 私たち『目』にとっても、なんて贅沢な眺めでしょう! これで、ご主人様の妹さんに会うのがますます楽しみになりました~~~」
「そう? お世辞は嬉しいけど、うちの優れた遺伝子はどうやら俺のところで突然変異してしまったみたいだ。そうじゃなきゃ、鏡を見るたびにお前たちに存分に『いい眺めを楽しんでもらえる』のに。たぶん、俺は生まれつき遺伝子変異を起こしやすい体質なんだろな……」
そう言うのには根拠がある。だって放射線を一発浴びただけで、こんな超能力細胞が生まれてくるんだから。他の人ならとっくに死んでたはずだ。
「あら~そんなこと心配する必要なんてないわよ~ご主人様の一声で、世界一のイケメンになるなんて朝飯前でしょ~」
「その通り! ご主人様、劣等感なんていりませんよ。顔立ちなら、どんなイケメンにも負けないようにして見せます!」
顔の他の細胞たちもこぞって煽り始めた。彼らの好意は、心には感謝している。
「なんでこれを聞いても全然嬉しくなれないんだろう……じゃあ、話しはこれくらいにしておこう。両親を会場の中に連れて行くから、中に入ったらみんな静かにしててくれないか? 全身の細胞全員でな!」
「了解しました―――!」
広場に到着してからというもの、入場待ちの行列は依然として増える一方だった。
前方の通行効率は悪くないものの、 列も止まらずに進んでいくものの、列の最後尾が伸びる速さは、成長ホルモンを注射された竹よりも驚異的だった。
最前端の節がどれだけ切られても、後方から次々と新しい節が補充され、地表を突き破って必死に上へ伸び、高空に浮かぶ月との距離を縮めようとしているかのようだった。
もちろん、入場方法は大人しく列に並ぶだけではない。
混雑と喧騒に包まれた広場に、一般の入場通路とは隔てられた、完全に空いている細長い通路がある。
そこでは時折、派手な服装で気品あふれる高貴な人々が、多くの従者を伴って入場していく。
通路の前にある案内板を見なくても、そこが伝説の、身分や地位を余すところなく誇示し、特権待遇を満喫できるVIP通路であることは明らかだった。
階級的には一介の平民である僕と、この通路を利用する貴賓との間には大きな隔たりがあるが、僕がこの場の数十万人もの観客を圧倒する最高の「特権」を握っていること、それは世の中の金や権勢を尽くしても手に入れられない無価の宝であることは、誰にも知られていない。
実のところ、外見だけ見れば、僕も見劣りしない。
服装と言ったら、今日のために、思い切ってクローゼットの中から最も高価でおしゃれなブランド服を引っ張り出した。
この服が僕の所有物になって以来、肌に触れたことは一度もなかった。だから、今日が人生初の体験というのはコンサートだけにとどまらず、この服の視点から見ても、今日は記念すべき日なのだ。
同時に、この服装は一つの問題も引き起こした――僕の定まったイメージと合わないということだ。
僕の金銭感覚やファッションセンスを少しでも知っている人なら誰でも、この手の服が僕の身にまとうことは絶対にないと知っているはずだ。
価格はさておき、宇宙の酸素よりも存在感が薄く、街を歩いても振り返られることなど一切なく、ただの通行人並みである僕にとって、たとえ子供を惹きつけるための特大サイズのキャラクターコスチュームを着て道端に立っていたとしても、子供たちは僕を単なるキャラクター型のゴミ箱としか見なさず、飲み終わったペットボトルやキャンディの包み紙といったゴミを僕の口に突っ込むだけだろう。
「板につかない」という慣用句は、まさに僕のために作られたようなものだ。
では、丹念に身だしなみを整えた意味は、果たして「今日の特別な場面に対応するため」だけに限られるのだろうか?
その答えを知っているのは、僕と文緋だけだ。
おそらく存在感の低いせいかもしれないし、あるいは両親も僕と同じように高級品に関する知識に乏しいから、彼らは僕の服装の違和感に全く気づかず、ただの普通の服だと思っていたのだ。
衣装とは別に、VIP通路を歩く際に外見上それほど場違いに見えないもう一つ、かなり重要な要素があった。それは、僕の後ろに控える二人の「従者」だ。
上層階級の人々だけが従者を連れているものだろう? でも、彼らの身なりを見る限り、むしろ私設ボディーガードのようにも見える。
というのも、彼らのトレンチコートの内側は、何かしらの護身用武器を隠すのにうってつけだから……
以上のことから、僕はVIP通路を利用するための諸条件を満たしている。
そこで、両親と入り口で入場券の確認を済ませると、彼らを率いて堂々とした足取りでこの通路を歩み始めた。
両側から注がれる羨望の眼差しを浴びながら、まるで要人の歓迎式や映画祭でのレッドカーペットを歩いているような気分になった。
もしこの通路がもう少し長ければいいのに……
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こうして僕たち3人は何の支障もなく、輝英館の正門に設けられた保安検査ゲートにたどり着いた。
もちろん、検査場も一般通路のとは別になっている。無事に検査を通過し、VIP対応担当のスタッフの親切な案内のもと、両親と共にVIPエリアへ向かおうとした途端、特殊な制服を着た数名の女性に道を塞がれてしまった。
「安達池様、お待たせいたしました。」




