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第十九話 父から最初の一歩

 僕の手から箸がテーブルに落ちた。


 一瞬、家の中は針の落ちる音も聞こえるほどの静寂に包まれ、私たち3人の息遣いさえ数秒間止まった。両親は目を丸くして驚きの眼差しで僕を見つめ、僕もあごが外れそうなほど大げさな表情で応じた。そのとてつもなく気まずい場面は、いつの間にか激しい睨み合い対決に変わっていた。

 えっ? ちょっと待って、何か変な気がする……

 一体何て言ったんだ!!!!!!父にそんな口調で話す人間がいるか!!!!!!

 前置きも一切なしに自分の企みをバラすのはさておき、父の名前を直接に呼ぶ度胸がある上に、命令口調で話し、さらに父の前で「俺様」と自称しやがるなんて…

 この「変な声」は、基本的な礼儀とは何かを全く知らないのか?親を敬うという概念が分からないのか?結局、あいつはこんなふうに「助けて」くれるつもりだったのか?明らかに僕と親父の親子関係をぶち壊そうとしているじゃないか!


「てめえ、脳足りんなのか!!!誰が親父の前でそんな横柄な口をきけって許可したんだ!!!!!!」


 怒りに任せて叫んだ声が頭の中で反響したが、何の返事もなかった。


「この畜生め、隠れてやがって……出てこい!!!」


「奇声くん」は返事しないままで、まるで幻聴の症状など最初から存在せず、単なる僕自身の妄想に過ぎなかったような感じだ。


「クソッ……俺の大事な計画を台無しにして逃げようってのか!!!」


 この最後の不満の言葉は、現実の世界で、口から無意識に漏れたものであり、しかも「安達池」本人自身の制御下で、小声で呟かれたものだった。

 僕はまた普通に話せるようになったのだ。

 ごく短い時間のうちに、僕は発声器官全体に対する支配権を取り戻し、身体的症状も精神状態も、いつもの通りになった。


 いや、今は体の異常に構っている暇なんてない!問題はどうやって言い訳するかってことだ!親の目には、僕はいつも親孝行で礼儀正しい「模範的な良い子」というイメージで映っている。そんな僕が、目上の人を軽んじるようなまねをするはずがない。

 それなのに、今や揺るぎない事実が親の目の前に突きつけられている。彼らは僕をどう見るだろう?「完璧な息子」というイメージは、これで崩れ去ってしまうのだろうか?

 何より、母が僕をよそ者みたいに見るあの目つきを、もう二度と見たくない……

 しかし、願いとは裏腹に、助けを求めて震えながら母ちゃんの方へ顔を向けた瞬間、僕の心は一気に冷たくなった――母ちゃんは、「安達池」という外見をまとった正体不明の生物を、疑い深い目で見つめていたのだ。

 文緋に続き、「安達池」もこの家族から消えてしまうのだろうか?

 何かをしなきゃ、何かを言わなきゃ……たとえ最も拙い言い訳でも、全く説得力のない弁明でも、せめて先に口に出せ!また話せるようになったじゃないか?なぜ口を開く勇気がないんだ!自分の両親に変わり者扱いされても構わないというのか!

 どんなに自分を奮い立たせても、得られる答えはいつもただ一つ――無理だ。もし誰かが僕の代わりに両親に、いきなりなぜこれほど大きな性格の変化が起きたのか、なぜ突然別人のようになってしまったのかを説明できるとしたら、それはきっと、僕の人生と運命を設計してくれた神様のみができることだろう。


「今日、お前が帰ってきたのは……この件のためだろう?」


 父の詰め寄りが真っ先に襲ってきた。しかし、問題の焦点は僕の無礼な振る舞いではなく、「僕」が父に対して露骨に下した「命令」にあった。どうせ目的は露見してしまったのだから、これ以上この問題を避ける意味はない。


「わざと隠そうとしたわけじゃない! でも親父、俺はただ……」

「池、答えろ。父である私を憎んでいるのか?」


 僕と母は、目の前のこの面子を極度に気にする男が、こんな質問を投げかけてくるとは信じられなかった。

 どうやら性格に突然激しい変化が見られるのは、僕だけではないようだ。ひとまず少し安心した……いや、この人は本当に僕の親父、安達政なのか? 僕の「症状」は、本来なら感染性はないはずだが?


「何……だって?」

「あなたたち、一体どうしたんだ!!! なんで二人とも変なことばかり言ってるんだ!!!」

「ごめん、十香子。最後まで話を聞かせてくれないか? 池、正直に答えてくれ。文緋の件で……お父さんを憎んでるのか?」


 親父は箸と茶碗を置き、両手の指を組み合わせて鼻先に当てた。まるで会議で報告を聞いているような様子。


「わ、わからない……どうして急にそんな風に思うの? 」

「さっきの言葉、きっと前からずっと胸に秘めていたんだろう?分かるよ。その憤りのこもった口調は、三年前のあの夜、文緋が怪我をしているのを見て、私に叫んだ時と全く同じだ……」


 これで百パーセント確信した。この人は間違いなく僕が敬愛する父だ。なぜなら、生まれつき持つこの並外れた記憶力は、まさに父からの遺伝的な賜物だからだ。


「まさかそこまではっきり覚えていたとは……」

「忘れるわけがないだろう……君の本音を聞かせてくれ。さっきのように、形式ばったことは抜きにして、遠慮せずに、本当の気持ちを話してくれないか?」


 父の問いかけは、この3年間、僕が自ら足を踏み入れたことのない領域だった。文緋なら、もちろん父に対して恨みを抱く十分な理由があるだろう。

 だが、僕は?

 家庭や血の絆を自分の命よりも大切にする愚か者であり、家族の間には嫌悪などあってはならないと固く信じている原理主義者である僕にとって、心の中の「幸せな家庭」という理想像を危うく台無しにしかけた父――この「不幸な事故」を引き起こした張本人に対して、一体どのような感情を抱いているのだろうか?

 底知れぬ敬愛の情の中に、僕自身も言葉にできないような否定的な感情が潜んでいるのだろうか?

 助けが必要だ。慌てふためく中、僕は再び母ちゃんに視線を向けた。たとえ彼女の疑いの眼差しを直視することになっても構わない。


「話してごらん。何かあれば何でも言って。お母さんもあなたの答えを聞きたい。」


 幸いなことに、母ちゃんはいつもの僕に対する態度を取り戻していた。もしかすると、普段とは異なる親父の振る舞いの方が、僕よりも不審に思われているのかもしれない。

 いずれにせよ、この問題に関して母ちゃんが僕の味方になってくれることはあり得ない。自分自身の内面と向き合い、答えを見出すしかないのだ。


「俺は……俺は……」


 歯がガタガタと震え、もう少しで舌を噛み切りそうになった。しかし、ある言葉は、たとえ舌を噛み切っても、血が尽きる前に、必ず自分の口から言い出さなければならない。


「ああ……そうだ……俺は確かに……親父が文緋にしちまったことを許すことはできない!」


 単なる冒頭の言葉に過ぎないが、胸にはかつてないほどの爽快感と解放感が広がった。


「でも、これが『憎しみ』と呼べるものなのかどうかは分からない……仮にそうだったとしても、それで何が変わるというのか?文緋という『憎しみ』の権化を、俺はこの三年もの間、ずっと見続けてきた。それでも何が変わったというのか? 憎しみでは現状を全く変えられないと痛感しているからこそ、常に自分に言い聞かせている。決して彼女の二の舞にはなってはならないって……」

「だから、君が帰ってくるたびに、あの上機嫌そうな顔は、お芝居だと受け取っていいのか?」


 父はいつも、僕が見落としている盲点を指摘してくれる。


「その言い方を否定はしない。」


 横目で見たところ、僕の言葉を聞いた母は、誰にも見えない方向へ顔を背け、こっそりと涙をぬぐっていた。


「わかった。それが君の本心なのか?」

「まだ話は終わっていない! 正直、もうこんな生活には飽き飽きしているんだ!なぜ、親父が負うべき責任を俺に押し付けるのか?ついさっき、文緋に伝言を頼まれた時も、俺は愛想よく引き受けなきゃならなかった。家に帰るたびにそうなんだ……俺の気持ちが分かるか? 分かってくれるはずがない。だって、俺自身でさえ、なぜ喜んで親父の言う通りにしているのか分からないんだから……」


 三年もの間、胸に秘めてきた本音は、一度口を開いてしまえば立て続けに出てくる。まるで押し寄せる大波のように、食い止めることなどできなかった。


「しかし、一つだけ命をかけて保証できることがある。本当の家族の間には、決して永遠の『憎しみ』など存在しない!親父と文緋は、ただ憎しみを口実に、互いに逃げ合っているだけなんだ!」


 父はゆっくりと両手を下ろし、顔を上げ、何かを必死にこらえているようだった。

 今度は僕が、父が見落としていた盲点に気づいた。


「もしどちらかが先に一歩を踏み出さなければならないのなら、その人が親父であってほしい……だからこそ、俺は……」


 僕はスマホを持ち出し、駅の前で録画したあの動画を再生して父の前に差し出した。


「これは『月隠の顔』のデビュー記念ライブの宣伝映像。ここには、彼女がこの3年間歩んできた足跡が記録されている。」


 父がこの映像を見たことがあるかどうかは定かではなかったが、彼はまばたきをするのを忘れるほど、夢中で見入っていた。母ちゃんも振り返り、かつて父が「三流」と批判した、今やステージ上で元気いっぱいに躍動する自分の娘を、父と共に見直している。


「文緋がなぜ正体を明かさないのか、親父なら分かってるはずだ。それでも、彼女はこれだけ多くの人々に愛され、支えられている。親父の彼女への愛は、ファン全員の愛を合わせたものよりもずっと深いはずだ……文緋の夢に対する偏見をすぐに捨ててほしいとは求めない。ただ、一度だけでも彼女のライブを生で見てほしいだけなんだ!彼女もずっと親父を待っているんだ!!!」


 この最後の言葉には、またしても無意識に嘘をついてしまった。文緋の本当の気持ちについて、僕が3年の歳月をかけて知り得たのは、氷山の一角に過ぎないのだ。


「俺はまだ子育てをする人生の段階には至ってないし、親の立場や気持ちを理解できるはずがない…… でも、親父と母さんも子供だった時期を経験してたんだ。子供として、親から何か欲しいっていう気持ちくらいは、きっと共感できるはずだ。以上が俺の本音だ。」


 しばしの沈黙の後、父親は目を閉じ、軽くため息をついた。


「十香子の言う通りだ。君は確かにずいぶん変わったね。」


 確かそうだ。昔なら、両親に対してこれほど率直に接することなど、ガンマ線バーストを浴びて生き延びることよりもよほど困難だっただろう。物心ついた頃から、親の教えを絶対的な信条としてきたからだ。両親が「東へ行きなさい」と言い付ければ、決して西へ行くなどとは考えもしなかった。

 今の僕が、あえてこんな反逆的な行動に出るなんて、母が僕を疑うのは言うまでもなく、自分でも自分自身が分からなくなってしまった……一体誰、あるいは何という存在が、僕にこれほどの勇気を与えてくれたのだろうか?


「それでも私は嬉しい。今日、君が自分の心に従い、やりたいことをやる姿を初めて見せてもらえたからだ。この3年間、自分の教育方法を何度も反省してきた。そこには不適切な点もあったかもしれないし、あるいは君が言うように、文緋と向き合う決心がつかなかったのかも…… しかし、一つだけ紛れものない事実がある。それは、私と君のお母さんが共に、歴史に名を残すほど素晴らしい子供を育て上げたということだ。だから、私は自分の教育理念を否定したりはしない。」


 父の弁明にも筋の通ったところがある。僕の存在こそが、かえって父のこの教育方針の正しさを証拠づけてしまっているのだ。全てがまた原点に戻ったように見える。結局、僕の告白と引き換えに父の譲歩を得ることはできないのだろうか?


「あなた!いつまで頑固でいるつもりなの!池がようやく心を開いてくれたのよ。池が言った通り、子供たちの立場になって考えてみてほしい。私たちから何を求めているって。文緋が一度も手にしたことがないけれど、ずっと憧れてきたもの、それは私たちの認めと支持なんだ!この広告も見たでしょ?彼女の成し遂げたことって、みんなが認めるほど素晴らしいものじゃない!たった一言の称賛の言葉さえ、自分の娘に言うのがそんなに嫌なの!」


 心の中では母の協力に感謝してはいたが、正直、効果をあまり期待していない。


「せめて私の話を最後まで聞かせてくれよ、十香子……私は自分の理念を否定しないと言っただけで、文緋の夢や、彼女が成し遂げた成功まで否定し続けるとは言っていないだろう?」

「親父!!!それって……というと?まさか……まさか!」


 僕は興奮して両手でテーブルを叩いたが、不思議なことに、骨とテーブルの激しいぶつかり合いに、全く痛みを感じなかった。


「落ち着けよ、池! うーん……先に言っておくけど、私はアイドルとかの職業に対して、ちっとも良い印象を持っていないんだ。けど、ステージ下のファンたちが幸せな笑顔で文緋の歌声を聴いているのを見て、私も考えを改め始めたんだ。もしかすると、私は物質世界の実用性を重視しすぎて、精神世界の欲求を軽視していたのかもしれない……この偏見も、私の職業病のせいなんだろう。他人に笑顔を届ける志なら、そんなに悪いものじゃないはずだ、そうだろう?」

「この頑固親父、ようやく目が覚めたのか!じゃあ、池が言ってた、文緋の来週の水曜日のライブって……」

「もちろん見に行くよ~チケットの手配は池に任せるよ!」


 父のこの言葉を、何千日もの間待ち続けていた。

 なぜ突然、また口が利けなくなってしまったのだろう……それに僕の目も、なぜ急に熱くなってきたのだろう……くそっ、何も見えなくなってきた……


「え~~~?池、なんで泣いてるの?男たるもの、ちょっとしたことで泣くなんて!子供みたい……」

「でも……親父……俺……我慢……できないもん……」

「一度くらい子供でいさせてあげてもいいじゃない、政……」


 母が僕のそばに来て、僕の頭を胸に抱き寄せ、優しく髪を撫でてくれた。でも、僕の目にこみ上げる涙は止まるどころか、かえって抑えきれなくなってしまった。僕にできるたった一つのことといえば、本当に子供みたいに泣き声を上げるのをできるだけ抑えることだけだった。


「君と文緋に、この日をこんなに長く待たせてしまって……これからは、文緋の音楽事業を、私と十香子も一緒に応援していく。」

「その言葉、文緋に直接言ったら?また池に伝言を頼むつもり?」

「何事も、段階を踏むものじゃないか? いきなり文緋に頭を下げてそんなことを言うなんて……父親としてのプライドを少し配慮してくれないか?」

「またその話か、このジジイ!自分の娘と比べたら、そのプライドなんて何の価値があるっていうの?」

「それに、たとえ私が直接彼女に伝えたとしても、私を許してくれるとは限らないだろう。」


 確かにそれは問題だ。憎しみを解消するには、どちらか一方の努力だけでは不十分で、当事者双方が共に努力しなければ達成できない目標だ。ようやく父に一歩譲ってもらえたのに、もし文緋がどうしても受け入れないとなれば、これまでの努力はすべて水の泡になってしまう。

 しかし、親父以上に意地っ張りな文緋を説得するなんて、そう簡単にはいかない。前回実家に帰った時の出来事はともかく、今日、文緋が家にいないのをいいことに、こっそりここにやって来たことだって忘れてはいけない。もし彼女にバレたらどうなるか、想像するだけで鳥肌が立つ。

 いわゆる「恐怖感」はあくまで二の次だ。何より、あの焦げた目玉焼きの苦い味を二度と味わいたくないのだ。もし文緋に、彼女の顔と心の奥底に同時に残されたこの傷跡を無理やり直視させたら、将来、我が家の食卓に並ぶ料理には、他の風味は一切なくなり、あの苦味だけが残ってしまうだろう。文緋の顔に浮かぶ表情も、もう幸せな笑顔は見られなくなるに違いない。

 逃げているのは、果たして文緋なのか、それとも僕なのか?

 話は実に単純だ。「安達池」がこの問題の正解ではないことを証明するには、何らかの行動を起こさなければならない。

 そう悟った瞬間、僕の涙腺の過剰反応は止まった。母の腕の中から顔を上げ、顔の涙を拭う暇もなく、自信満々に父に誓った――


「文緋のことは俺に任せて!必ずお父さんの気持ちを彼女に伝える!たとえ俺の全てを賭けることになっても、アイツを親父と仲直りさせてみせる!」


 大言壮語に聞こえるかもしれないが、実のところ、母から託されたまだ終わっていない任務を父に繰り返しただけだ。しかし、父の力強い後押しがあれば、任務の達成は時間の問題だと確信している。

 父の優しい微笑みには、僕への信頼が込められていた。


「その日が来るのを待っているぞ。」


 どうやら「代理の父親」というアルバイトは、当分辞めるわけにはいかないようだ。


 1時間半以上もかかったこの昼食が終わると、定刻通りに休むため、親父は薬を飲んだ後、2階の部屋へと戻っていった。一方、僕はこの貴重な合間を縫って、母ちゃんと一緒に台所で食器を洗っている。


「今日は本当に、母さんの大いなるサポートに感謝するよ! そうでなかったら、親父を説得できたとは思えない……」

「バカね、家族同士で感謝なんて言うことないわよ。それに、あたしはただのアシスタントに過ぎないじゃない~あなたが自分でやり遂げたことなんだから!」

「 いえいえ、ただ本音を言っただけだ。親父のあの質問というきっかけがなければ、俺にはきっと一生、あの答えを口にする勇気がないだろうし……」

「逆じゃない?お父さんに勇気を出してもらって、あの質問をさせたのは、あなたの方でしょ?正直なところ、あの瞬間、自分の耳を疑ったわ……まるで、別人の口から出た言葉のようだった……」


 やっぱりそうだった。あの時、僕は母の表情を100%正しく読み取っていたのだ。しかし、母の口から直接聞くと、やはり胸がざわつき、手元の洗いかけの皿を床に落としそうになった。


「でもその後気づいたんだ。ママがまだ昔の目であなたを見ていたんだって……変わったというより、この3年間で池が成長したってことね~。立派なお兄さんであり、勇敢な男になったわ!」

「母さん、ありがとう……でも、本当に勇敢な『人』は、俺じゃないんだ。」


 自分だけに聞こえるほどの小さな声で呟いた。母の言葉は、この勇気がどこから来ているのかを思い出させてくれたが、それを誰にも口に出すことはできなかった。そうすれば、他人からは戯言としか思われず、家族も例外ではないからだ。

 3年前の安達池と比べれば、僕のいわゆる「成長」とは、頭の中に第二の人格のような存在が一つ増えたことでしかない。さらに恥ずかしいことに、結局のところ、僕は頭の中の「奇声くん」よりも勇気がないのだ……

 どういうわけか、この現れたり消えたりする奴に何か言わなきゃいけないような気がした。確かなのは、今回は絶対に叱り飛ばすことにはしないということだ。


「あの……おい―――! いるか―――?いたら返事してくれ!」


 精神空間は相変わらず、明鏡止水のように静まり返っていた。


「まあ、いいや。もう二度と現れないでほしい……」

ご感想とご評価を頂けましたら、幸甚の至りでございます。何卒ご協力をお願い致します。

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