第十一話 清音との食事 前編
気持ち、ベッド、身支度をまとめて整えると、僕は部屋のドアを開けて階下の洗面所へと向かった。階段を下りる途中、明らかに自宅の階段であるはずなのに、その踏みしめる感触はまるで異国でなじみのない小道を歩いているようだった。なぜなら、階段を下りる際に目に入る光景が、どこか違和感を感じるからだ……
他人の気持ち、特に女の子の気持ちを推測するよりも、やはり自分の心を探るほうがずっと簡単だ。毎朝部屋を出た後、どんな光景を最も見たいのかを、はっきりと分かっている。
台所で僕の為に忙しく動き回るあの活気あふれる姿、あるいは二階の廊下の奥にある、固く閉ざされた部屋のドア。もちろん、後者は休日にしか現れない。
その理由は実に単純だ。ライブが近づいているとあって、文緋の仕事量も急増し、毎日朝7時前には家を出て事務所へ向かい、そこからエスコートされて上雲居の輝英館でリハーサルに参加するのだ。
文緋がアイドルになって以来、彼女が自分のライブに向けた準備にこれほど没頭して頑張るのを見るのは、初めてのことだろう。早朝に出かけて夜遅くに帰宅するのが日常茶飯事となり、しかも彼女の話によると、毎日のリハーサル時間は少なくとも12時間はかかるという……おそらく「3周年記念日」という特別な意味があるからだろう。そこで、僕は彼女への気遣いと労りの気持ちを伝えつつも、説教したくなる衝動も抑えている。彼女のやる気を維持させることも、ある種の特別な応援方法と言えるだろう。
ここ数日、朝の家の中のこの寂しい雰囲気に、どうしても慣れずにいる。文緋も僕の気持ちを気遣ってくれているのか、どんなに遅くまで忙しくても、毎晩、千キロメートル以上離れた上雲居から必ず帰って来てくれている。
本来ならば、リハーサル期間中は上雲居に滞在することになるはずだし、北崎さんならきっと文緋に最も豪華な宿泊先を手配してあげるだろうに……毎朝、食卓に決まって並べられている朝食こそが、この疑問への答えなのかもしれない。
どうやら僕はますます文緋に依存して来ているらしい。これは「文緋の料理がなければ餓死してしまう」というような、生存の基礎的な欲求を満たすための依存ではない。いつからこうなったのだろう? それは、僕の体内に起きた「まったく新しい変化」が原因なのだろうか?
文緋が作ってくれた美味しい朝食を味わいながら、今日の日程とは全く関係のない複雑な問題について考えを巡らせていた。この瞬間だけ、脳内には限られたスペースが一時的に空き、僕と文緋の間の様々なつながりを分析することができる。まともな結論が出るかどうかは定かではないけれど。
満腹になった後、今日の仕事が本格的に始まった。最初の任務は、文緋の親友である長実清音に連絡を取ることだ。
スマホのチャットアプリを開き、清音にメッセージを送ろうとしたところに、ふと見覚えのあるものが目に入った――「清文池」という名前の3人だけのミニチャットグループだ。グループ内の最後の発言は、会場で騒動が起きた日のままだった。
「このことは文緋に知られてはならない……」
僕は秘密保持の重要性を何度も自分に言い聞かせた。グループ内の雰囲気を盛り上げるようなことは、また次に回すしかない。
連絡先の中で清音を見つけると、普段通りの挨拶のメッセージを送った。
「おはよう、清音! 最近どう? あの件以来、会う機会がなくて……文緋も最近すごく忙しくて……本当にごめん!」
送信ボタンを押して間もなく、清音からの返信が届いた。その速さに驚愕した。
「おはようございます、先輩。ご無沙汰しておりますが、近況は上々ですので、どうかご心配なさらずに。それより、なぜ先輩が私に謝るのですか? 先日の件で先輩に多大なご迷惑をおかけしてしまった上に、先輩を危険な目に遭わせ、すんでのところで投獄させるところでした……謝罪すべきは私の方です。」
「いえいえ、俺が軽率な行動をとったせいで、君をこんな厄介な事に巻き込んでしまったんだ……」
「先輩が無事でいてくださるだけで、私の罪も少しは軽くなります。さもないと、私は一生、文緋に顔向けできません……」
さすが清音の話し方だ。日常的な挨拶をあっという間に双方の懺悔大会に変えてしまった。あとは神父が来て私たちの懺悔を聞いてくれれば完璧だ……このままではきりがなくなる。早く本題に入らなければならない。
「丸く収まってよかった。それが一番大事だ! だから自責はやめて、過去のことなんて水に流そう! もし清音、本当に『謝罪』したいなら、ご馳走してくれるのも悪くないけど~」
今度は清音から即座の返信はなかった。雰囲気も少しドン引きのようだ。僕のくだらない冗談に呆れたのかな?
少し時間が経ってから、やっと清音から返信が来た。
「でも、たった一回の食事だけでは、先輩の苦労やご尽力を埋め合わせるには到底足りません……」
「俺だって気にしてないんだから、そんなに悩まなくていいよ~今こそチャンスってことで、今日のお昼、一緒にランチでもどう? 空いてる?」
「先輩のお誘いですから、断る筋合いはございません。今日の午前中の授業は11時までで、その後はいつでも空いています。先輩の御都合に合わせますので。」
「よし! ちょうど行ってみたいお店があるんだ。後で住所と位置情報を送るから、そこで合流しよう!」
「畏まりました。それでは、お昼にお伺いします。」
レストランの住所を送り終え、準備は万端だ。あとは適当に時間を潰し、ちょうどいい頃に出発すればいい。
どういうわけか、心は突然少し不安になった。それは、会場での騒動の中で感じた罪悪感と似たようなものだった。
「また清音を利用しているんじゃないか……?」
自分の動機に疑念を抱いた。
誰かに助けを求めることと、他人を利用することは、全く別の概念だ。しかも、文緋のためなら、清音は自分の身の安全さえ顧みない。人混みの中で身を挺して文緋を守った姿や、傷だらけの足こそが、その何よりの証拠だ。
しかし、これこそが矛盾の根源だった――「文緋のため」という点も、やはり清音には内緒にしておかなければならない。
10時50分頃、僕は約束の場所、横海大通り沿いに位置する「沖合の幸」という大人気の海鮮料理店に先着した。
京空市の食文化といえば、やはり海の恵み、つまり様々な新鮮な海鮮が欠かせない。魚、エビ、カニ、貝類など、あらゆる種類が揃っている。
したがって、京空市では、こうした海鮮レストランが至る所に見られる。特に横海大通りには、一区間が海鮮グルメの街として再開発され、今や京空市のランドマークの一つとなっている。
ネットで調べた情報によると、この店は僕が隔離されていた間に新規オープンしたもので、1ヶ月も経たないうちにこの通りで最も人気のあるレストランになったそうだ。清音をここに食事に誘ったのは、この店の人気ゆえではなく、僕なりの理由があったからだ。
1、この店は文緋の「グルメ巡りのリスト」でトップにランクインしていたが、仕事が忙しくてなかなか行く機会がなかった。今日はちょうどこの機会を利用し、文緋の先遣隊として、名高い「月隠の顔」が足を運ぶ価値があるかどうか確かめてみたい。
2、この店が人気を博した秘訣を清音に聞いてみたい……何しろ彼女は、こうした業界の現象や暗黙のルールについて独自の見解を持っているからだ。
11時ちょうど、「沖合の幸」の開店時間となり、店頭で待っていた僕を含む客たちは一番乗りで入店した。
早めに来る大きなメリットは、選べる席の種類がより豊富になることだ。店に入った瞬間、海を一望できる窓際の席を二つ発見し、店員から許可を得るなり即座に占拠した。店内で約30分待っていると、淡い青色のワンピースを着た、やけに慌てた様子の若い女の子が入り口に現れ、迎えの店員に何度も深々とお辞儀をした 。
見ただけで分かる。この食事の主役である清音が到着したということが。
「長実さん―――! こっちだよ!」
「は、はい!」
小走りで駆け寄ってきた清音は、僕をはじめとする店内のほぼ全て男性客の視線を惹きつけた。身だしなみに無頓着な文緋に比べ、清音のファッションセンスには本当に驚かされる。ワンピースの色合いは紺碧の海と見事に調和し、白いベストは果てしなく続く砂浜のようである。このコーディネートをした清音は、まさしく京空市のイメージキャラクターそのものだ。
「先輩、お待たせ、お待たせしてしまって、本当に、本当に罪深いです!」
「またそんな言い方~ そんなに長く待ったわけでもないのに、『罪深い』なんて大げさじゃない。さあ、座って座って!」
「は、はい……承知いたしました……」
清音はほっと一息つくと、僕の向かい合わせの席に座り、肩から下ろしたショルダーバッグを床の収納バスケットにしまった。このショルダーバッグ、なんだか見覚えがあるような気がする……
「そのショルダーバッグ、もしかしてあの日、会場であなたが背負っていたものじゃない?」
清音は僕の質問を聞くと、ジタバタさっき置いたばかりのショルダーバッグを持ち上げながら、頭を下げて、まるで古代の使者が他国の君主に貢ぎ物を献上するような姿勢で、両手でショルダーバッグを僕に差し出した。ストラップの一本は、新しく取り替えたばかりなのが明らかだった。
「先輩、先輩のその抜群の記憶力には、本当に、本当に感服いたします!正直に申し上げますと、これは確かに、確かにあの日、あの日に私が使っていたショルダーバッグです。高価な、高価な品物ではありませんので、お恥ずかしい限りです!」
「わざわざ見せてくれる必要はなかったのに……それに、何が恥ずかしいの? 俺も高級ブランド品ばかり身に着けている御曹司じゃないしね~とにかく、まずは注文しよう!ここの看板メニューである海鮮丼が超有名だと聞いたんで、試してみない?」
「先輩がオススメしてくれるなら、絶品に、絶品に違いありません。私も先輩と同じ、同じ料理でお願いします。」
「それじゃあ決まりだ! 並盛りの海鮮丼セットを2つ……」
僕が注文用のタブレットで注文しようとする前に、清音が指を伸ばしてきて、 「特盛り」の選択肢を指さした。
「先輩、値段のことは……気にしないでください。今日の私の使命は、先輩の、先輩のお腹をいっぱいにすることですから、どうぞ、特盛りを心ゆくまでご堪能ください!」
堅苦しい口調で、そんな豪快で気前の良い言葉を口にするとは……清音の面白くて矛盾した話し方には、ついツッコミを入れたくなってしまった。
「そう言われると、まるで俺が食いしん坊みたいだ……」
「いえいえいえ! そんな、そんなつもりじゃありません! 私の言い方が、不明確で、うっかり、うっかり先輩を不快にさせてしまいまして、申し訳ありません!」
首と両手を振り続ける清音は、またしても周囲の客たちの注目を集めてしまった。彼らもきっと、僕がこの女の子をいじめていると思っているに違いない…… 子供の頃、両親に誤解された経験から得た教訓を、全く肝に銘じていないな。
「真に受けないで~冗談だから。落ち着いて。ほら、周りの人たちがみんなこっちを見てるよ……」
「私が取り乱してしまって……また先輩に、先輩にご迷惑をおかけして、本当に、本当に申し訳ありません!」
「大、大丈夫。落ち着いてくれればそれでいいから……」
将来、僕が父親になったら、子供をなだめることに関してはかなり経験豊富になるだろうな。
ともかく無事に注文は済んだ。特盛りの看板メニュー「海鮮丼」を2つ、それに清音が僕がお腹いっぱいにならないかと心配して追加注文してくれた「海鮮と野菜の天ぷら」の盛り合わせ。
料理が来るまで待つ間も、雑談をする絶好の機会だ。
「久しぶりだね。最近、試験の時期かな?」
「先輩、ご存じの通り、この一週間でまだ二科目、二科目の試験があって、それが終われば、休みになります。」
「まあ、一年生は割りと楽だし、単位も卒業時の最終成績には算入されないけど、油断は禁物だよ。これからの学年に備えて基礎を固めておかないと。でも、清音のことなら自信がある~」
「先輩、先輩のご指導を賜り、私は、私はもっと一生懸命頑張ります―――!」
清音は顔面が真っ赤になり、宣誓の時のような口調で意気揚々と答えた。
「その調子だ!その意気込みこそが何より大切なんだ!」
「ただ、ただこのところ試験勉強で忙しくて、ずっと、ずっと文緋とお出かけする暇がなくて、彼女に、彼女に嫌われてないか心配で……」
「その点は安心していいよ。彼女も最近、天手古舞の忙しさなんだから……」
「あの、文緋は最近、最近アルバイトも忙しいのですか? 彼女の話では、どうやら、どうやら複数のアルバイトを掛け持ちしているみたいですが……」
アルバイト。それは文緋が自分の本当の仕事を伏せるためにずっと使い続けてきた口実だった。文緋がどうやって清音の「アルバイトの場所はどこ?」という風な質問を誤魔化しているのかは分からないが、少なくとも今に至るまで、彼女の言い訳に矛盾は一度もなかった。
「ええ、たぶん来週の13日までは忙しいと思います。」
あえてこの特別な日付を清音にほのめかした。
「13日以降ですか……それは、それは本当に残念ですね……」
がっかりした清音は空気が抜けた風船のように萎えた。さっき僕の励ましで湧き上がった闘志は、海風に乗って目の前のきらめく波間に消えていった。
「どうしたの?その日、何か特別な予定でもあるの?」
「じ、実は、その日、文緋を誘って、上雲居で『月隠の顔』のライブを見に行こうと思っていたんです。ちょうど試験が12日に終わって、休み初日なので、最近文緋と過ごす時間が少なかった分を、しっかり埋め合わせたいと思いまして……」
案の定、熱狂的なファンであり名誉会員でもある清音は、この盛大なイベントを見逃すはずがない。
清音のような友人に出会えたことは、文緋にとって実にこの上ない幸運だ。しかし、友人として完璧すぎる清音に対して自ら「文緋を助けてほしい」と頼むことは、かえって口に出しにくい話題となってしまった。どんなに純粋で汚れのない友情であっても、ほんの少しの利害関係が絡むだけで、その性質は全く異なるものになってしまうからだ。
例えるなら、友情は清らかな水の入った鉢であり、利害関係はその水に滴り落ちる一滴の墨のようなものだ。たった一滴でも、その水は本来の輝きと澄み切った透明さを失ってしまう。
こう考えると、本来の動機を隠しておくことは、これ以上ないほど正当なやり方だ。「月隠の顔」という正体を守るためだけでなく、清音が何も知らないまま文緋の幸せに貢献できるようにすれば、いわゆる利害関係や恩義といった問題も生じないだろう。
「その気持ちがあれば十分よ~文緋が知ったら、きっと以前と同じように嬉しくて、君を抱きしめて離さなくなると思う~」
「そんな文緋は、とても、とても可愛いですけれども、やっぱり、ちょっと困ってしまいます……」
「妹の不適切な振る舞いについて、お詫び申し上げます……」
「いえいえ、先輩、そこまで、そこまでおっしゃる必要はありません。大変、大変恐縮です!」
「お待たせしました。ご注文の特盛り『海鮮丼』2つと『天ぷら盛り合わせ』1つです。ご注文の品はお揃いです。どうぞごゆっくりお召し上がりください。」
いつの間にか現れた店員は、料理を運んでくる際、常に警戒心あふれる目で僕を睨んでいた。まさか店員まで、僕がこの女の子をいじめているのではないかと疑っているのだろうか……
ここで、「存在感が薄い」というマイナス属性が再び役立った。なぜなら、女性を嫌がらせする疑いのある不良と、いわゆる「史上最年少の宇宙飛行士」とを結びつける人は誰もいないからだ。
ある意味、僕も文緋も、完全に切り離された二つの身分で、ひいては全くつながりのない二つの人格でこの世に生きている。このままでは、僕たち兄妹は本当に解離性同一症にならないのだろうか?
「あの店員さん、どうやら、どうやら先輩のことを気にかけているみたいです……」
店員の不自然な視線は、当然ながら鋭い洞察力を持つ清音の目からも逃れることはできなかった。こんな調子では、清音の心の中で「先輩」である僕のイメージが崩れてしまうだろう……死ぬほど気まずくなった僕は、仕方なくテーブルの上の料理を話題に持ち出し、気まずさを紛らわせた。
「そ、そうなの? 気づかなかった。この料理ばかり見てたから……この海鮮丼、見た目もすごく美味しそうね! さて、早く食べよう!」
「先輩、お先に、お先にお召し、お召し上がりください。」
もし僕が清音の礼儀正しい遠慮を受け入れなければ、きっと二人が互いに譲り合う膠着状態に陥ってしまうだろう。そうなると、まるで初対面で外食を約束したお見合い相手のように、互いに遠慮し合っておざなりな関係になってしまう。
もちろん、清音が本心で礼儀正しく接してくれていること自体が疑いようのない事実だ。僕に至っては……まあいいや、とりあえず箸を付けることにしよう。
「ならばお言葉に甘えさせてもらうよ~いただきます!」
僕が食べ始めてからようやく箸を手に取った清音は、僕が豪快に頬張る姿を見て、思わず笑みをこぼした。
「先輩の食べっぷり、やっぱり、相変わらずワイルドですね!」
「ごめんごめん、ちょっと急いじゃった……子供の頃、君がうちへ遊びに来た時、よくそう言われてたな……思い出すとなんだか懐かしいな~」
「わかります。あの頃の先輩は、勉強に、勉強に費やすお時間を出来るだけ多く確保するために、最速、最速で食事を済ませなければならなかったんです。その一分一秒を争う精神は、私も、私も見習うべきです!」
「見当違いだよ。小さい頃の俺は、君が思っているほど立派じゃなかったから……」
清音の想像に引き替え、当時の僕はただ、出来るだけ多くの休憩時間を作りたかっただけだ。食事後、次の勉強が始まるまでの隙間は、僕の一日の中で数少ない自由時間の一つだった。
「あの頃の文緋は、食べるのが、ちょっと、ゆったりしていたんですよね。それに、時々、食事を拒んで、ご両親に叱られたりして……」
「俺が買ってあげたケーキを食べすぎたせいだ!あの頃のアイツがどんだけ食い意地が張ってたか、君には分かるまい......」
「その点については、確かに、確かにあまり詳しくないんです。」
「え? 清音、文緋が小さい頃からケーキが大好きだってこと、ずっと知ってたんじゃないの?」
「先輩、そ、そうじゃなくて……」
せっかく少し喋れるようになった清音が、突然言葉に詰まってしまった。
「と、とにかく、先輩は本当に、立派で、尊敬すべきお兄さんですよ!」
「なんで急にそんな風に褒めてくれるんだ?それに、それはお買い被りだよ……」
「こ、これは私の、私の心の底からの賛美です!私、私は心の底から先輩を尊敬、尊敬しています!」
正直、清音からの称賛を受け止めることができない。兄である僕よりも、清音の方が文緋のためにずっと多くのことをしてあげている。この言葉は決して謙遜ではない。
だからこそ、今回の機会を利用し、文緋のために少しでも役に立ちたい。少なくとも、文緋と血のつながりがない清音には負けてはいけない。特に、彼女が文緋をライブに連れて行くつもりだと知ってからというもの、僕の心の中で密かに繰り広げられるこの競争はすでに始まっているのだ。
もう迷うのはやめよう。思い切って清音を「利用」してみよう。




