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第三話 初の定例身体検査 権力者たちに囲まれた円卓(1)

 金属製のドアが完全に開いた。僕の記憶通り、この広大な研究室は機能に応じて、いくつかのエリアに細分化されていた。例えば、サンプル検査エリアには様々な分析装置が並び、生化学エリアには微かな冷気を放つサンプル保管用のコンテナがずらりと並び、そこには大小様々な形をした試験管が収められていた。一般健康診断エリアには、病院にいるかと錯覚させる雰囲気が立ち込める。

 各エリアには待機状態の検査員が多数おり、一望すれば世界中のあらゆる人種が集まっている様子だった。見渡す限り、見知らぬ顔ばかりであるからして、かつて僕の定期健診を担当してくれた検査科の顔見知りや、以前僕の体内で「まったく新しい変化」を発見した関係者たちは、今日、僕をモルモットとして好き勝手に弄ぶという貴重な機会を得られなかったと断定できる。


「下田と、あの『合同チーム』はどこにいますか?せっかく来たのですから、彼らに挨拶くらいはすべきでしょう?さもないと、中のとあるお偉方のご機嫌を損ねたら、大変な目に遭うことになりますから。」


 僕は振り返り、あからさまに軽蔑した口調で羽杉に尋ねた。


「代表の方々と下田長官は、研究室の中央にある円卓の周りにいらっしゃいます。私が案内いたします。警備員たちはドアの外で警戒してください。」


 逃げ場のない僕は、羽杉秘書と先生に付き従い、各界の権力者たちが集うこの研究室の中に足を踏み入れた。意外にも、僕のごく平凡な足音は、どこからともなく凄まじい威厳と共に広がり、場内の検査員全員が次々と立ち止まり、上司の視察を迎えるような姿勢で、恭しく僕に視線を向けてきた。


「あの若者が安達池って人? 21歳で宇宙飛行士になったあの神童?」

「間違いないはずだ。リチャード教授の教え子だと聞いている。」

「こんなに若くして宇宙飛行士になるなんて、確かにすごいけど、見た目はごく普通だね……私たちが研究する対象は彼なの?」

「よく分からないな。このごく普通の若者に、一体何の研究価値があるんだ? 頭がいいだけじゃないか。身体能力に関しては、虎視島の関連報告書を読んだけど、特に際立った点は見当たらないし。」

「しょうがない、今回の研究の核心部分は上層部によって機密情報に指定されているんだ……この安達池の検査が終われば分かるだろう。」

 

 百人余りの検査チームの中には、囁き声が所々に響いていた。研究室の中央にある円卓へと向かう途中、僕はそれらの断片的な言葉を馬耳東風のように聞き流すと同時に、ある事実を確認した。

 それは、このチーム全体が確かに虎視島以外の人員で構成されているということだ。それゆえ、彼らが僕の遭遇した事故や、僕自身の「研究価値」について全く知らないのも当然だった。こうした事情を知る元第一研究室検査課のメンバーたちは、今回の研究から完全に排除されていた。彼らの身の安全がどうなっているか……ぶっちゃけ、その問題について考える勇気もなく、時間もない。


 各機能エリア間の細長い通路を抜けると、広々とした研究室の中央エリアにたどり着いた。

 中央エリアには、検査担当者たちが各種会議を行うのに使う大きな円卓が据えてあり、もともと円卓の周囲を囲んでいた普通のオフィスチェアは全部、応接用の高級な革製ハイバック椅子に置き換えられていた。その中の13席は全て、面識のない人影で埋まっていた。

 さすがは重鎮たちの会合だけあって、全体として威圧的な雰囲気をかもし出し、まるで全人類の運命を左右する重大な会談が行われているかのようだった。僕の呼吸も知らず知らずのうちに荒くなり、喉を何度もごくりごくりと動かしながら、今にも胸から飛び出しそうな心臓の鼓動を懸命に抑え込んだ。

 真っ先に視界に飛び込んできたのは、この先一生二度と見たくないあの顔――下田勝聡である。彼は少し焦ったような顔つきで、ある貴賓の席のそばに立っており、私たちを見つけるとすぐに近づいてきた。


「報告します、長官。安達さんを連れて参りました。」

「やっと来たか、よし……ご来賓の皆様、お待たせいたしました。小官からご紹介させていただきます。こちらは、当センター第三編隊に所属する宇宙飛行士の安達池氏です。」

 

 下田が僕の名前、「安達池」という三文字を口にした瞬間、13席の椅子が一斉に僕の方を向いた。そして、ブラックホールよりも深い瞳孔で、彼らは不死の神話を生み出したこの珍禽奇獣を頭からつま先までじろじろと観察している。


 僕が「初めまして」と自己紹介する暇もなく、円卓の周囲からもう一度、囁き声が次々と聞こえてきた――


「おや……彼のことか?」

「うん……体格もたくましく、活気にあふれている。これほどの人材は確かに滅多にいないね。」

「なかなかいいね。さすが史上最年少の宇宙飛行士だ。一目見ただけで、働き盛りで将来有望な若き逸材だと分かる。」

「先日、先遣隊が報告に来た時、私は大げさな話だとばかり思っていたが、本日拝見して、先遣隊の報告が真実だったと確信した!」

「この若者が、人類の健康と福祉に、計り知れない貢献を果たすことは間違いない!」

 

 たった今検査員たちが僕のことをとやかく言っていたのと全く異なり、目の前にいる名も知れぬ重鎮たちは、僕に惜しみない称賛の言葉を続々と捧げ、口を揃えて絶賛の評価を下してくれた。単なる「逸材」から、一躍全人類の救世主級の存在へと格上げされた僕は、すっかり有頂天になってしまい、自分の名前さえ忘れそうになった……

 でも、僕はまだ何もしていないのに? なぜ、ただここに現れただけで、こんなにエリート層の皆様に気に入られるのか?


「えっと……その、恐れ多いお言葉ですが、私はただ、ただの……普通の……」


 まさか自分が緊張のあまり、形式的な挨拶さえ碌に言えなくなるとは。僕より今の長実清音の方がマシかも。ここでこんなみっともない姿を見せたら、僕の第一印象は一気にどん底まで落ちてしまうだろう……


「皆様の温かいご厚意に深く感謝いたします。安達池の指導者である私も、大変光栄に存じます。安達君はまだ若く、あらゆる面で学ぶべき点が多くあります。皆様からご評価とご指導を賜ることができれば、彼にとって一生の宝となるでしょう。」


 先生はまたしても、あたふたして狼狽える僕を窮地から救ってくれた。もし僕の体内に本当に「まったく新しい変化」があるとするならば、大勢の人々にちやほやされたり、お世辞を浴びたりする場面ならではの拙い対応は、その変化には含まれるはずだ。なぜなら、この事故に遭遇するまでの22年間の人生において、そのような場面に直面したことは一度もなかったからだ。


「教授、そんなお言葉はご自身の教え子を過小評価されていますよ。安達君が秘めているものは、人類社会にとって、如何にも無尽蔵な財産であることは、ご存じのはずです。」

「社長のおっしゃる通りです。ですが、これほど秀でた教え子を培ったのは、教授のご指導があってこそです。今日、私たちがこうして一堂に会することができたのも、教授と安達君のおかげです~」

「私はただ、教師としての責務を果たしたに過ぎません。ジル部長にこれほどお褒めに与り、恐れ多い限りです。」

 

 上層階級の者同士によるこの社交辞令のやり取りに、この卑しい身分である僕が口を挟む余地など毛程もなかった。


「リチャード教授のような業界の泰斗とご一緒できることは、私にとっても光栄です。それでは、少しお時間を頂戴し、本日虎視島にお越しいただいたご来賓の皆様を、安達君にご紹介させてください。」


 傍らにいた下田が絶妙なタイミングで会話に割り込み、僕という「希代の逸品」に、この13人の「お得意先」たちを紹介し始めた。


「まず、安達君の左右にお座りになっているご来賓からご紹介いたします。左側の貴賓は、オーロラバイオファーマ(AuroraBioPharma)株式会社の社長、スチュアート・ガビントン様と、パルスファーマ(PulsePharma)株式会社のCEO、クラリス・ ナッシュ様です。右側の二名の貴賓は、Morris Gene-Rationモリス・ジーン・レーション社の取締役会長であるデール・アクレス様、およびWECW(Wellbeing-Energy-Comfort-Worldwide)社の支配株主である航潤博之様です。」


 下田のアナウンスを聞き終えた途端、僕はすぐに自分の耳が幻聴を聞いているのではないかと疑い始めた――


 世界の生物医学界における製薬、遺伝子工学、医療機器という三大分野を独占する四大トップ企業の、それぞれの最高経営陣が多忙な中、はるばる遠くから訪れてくるなんて???何しろこういう階級の人々の交友関係は、基本的に各国の政界関係者や超富裕層などに限定されており、僕のような一介の庶民がどんなに努力しても謁見できるはずのない存在なのだ……

 そして、彼らの席がみな末席にあるという点から分析すると、この数名の企業重役はこの重鎮たちの中でも最下位に位置するということになる。つまり……これから、さらに身分が高く、より高貴なお名前が紹介されるのだろうか???

 交感神経が極度に興奮した影響で、僕の汗腺からは冷たい汗の粒が次々と滲み出してきた。あっという間に、僕はまるで岸に引き上げられた水死体のごとく、全身ずぶ濡れで、体がこわばってしまった。最も絶望的だったのは、この正気を失ったような状態で彼らに挨拶をしなければならないことだったが、先生に何かと頼りきりになるよりは、男らしい振る舞いだと思った。


「ご臨席の、皆様、愚生、は、安達池と申します。この、この度は、拝謁の栄に浴し、浴しまして、光栄に存じます……」


 なんだかこの堅苦しい言葉遣い、どこかで聞いたことがあるような……


「初めまして、安達さん。オーロラ社と、円滑な協力関係を築いていければ幸いです。」

「お会いできて嬉しいです。でも安達さん、ちょっとかしこまりすぎですよ~もっとリラックスしてください。今後、我々のパルスファーマ社は安達さんと長期的にコラボしていくつもりですから。」

「それは我々も実現したいものです。安達さんが、モリスの将来の発展計画において中心的存在になると確信しています。」

「私はここに、WECWの代表として、安達さんのご加入を心よりお願い申し上げます!」

 

 四人もの重役が皆、座ったまま返事をしてくれた。双方の階級差を端的に表している。とは言ったものの、彼らの口調は予想以上に親しみやすいものだった。まるで毎年大学の卒業シーズンに行われる就職説明会で、企業が優秀な新卒を奪い合う光景のようだった。「卒業したばかりなのに、四つの大手多国籍企業から同時に採用される」という、チートみたいな展開は、映画の脚本やライトノベルでさえ、これほどトンデモなストーリーは書けないだろう……

 いや、待て。「21歳で宇宙飛行士になり、ガンマ線バーストさえも俺を殺せない」といった荒唐無稽な人生経験を持つ僕が、そんなことを言う資格はないようだ。それに、この四つの掛け持ちを受けるかどうかは、僕の決断次第ではない。反発したり拒絶したりするより、できるだけこれらの重役たちと良好な関係を築いたほうが、かえって自分にとって有利になるだろう。


「皆様のご厚意により、微力ながら御社にご奉仕できることは、愚生、安達池が幾星霜にわたり積み重ねてきた幸運の賜物でございます!」


 こうした媚びへつらうようなお世辞を交わすうちに、僕は少しずつ目上の人との接し方を身につけてきた。それは、自分が属する階級を常に自覚し、どんな僭越な考えも打ち消し、絶えず自分を卑下することで、お偉方の元より崇高な地位をさらに際立たせるという処世術だ。


「それでは、引き続き、本日ご来賓の皆様を安達君に紹介させていただきます。中央の両側の席には、各国政府の関係部門の代表者がお座りです。左側の3名は、それぞれ万象国国民健康安全部のサンロック・ジルクリスト部長、政前上国衛生保健部の荘其危大臣、そして源文国公共医療福祉保障大臣のハシ様です。」

「安達君、どうぞ右側をご覧ください。右側の御二方のうち、お一人は広界国よりお越しになりました国家生物医学協会の会長、ハティコ・オカフ様です。もうお一人は、安達君もご存知のはずだと思います。現任の陽の国国務大臣であり、当虎視島が所属する人文科学技術省の義堂征剛大臣です。」

 

 予想通り、この偉い人同士の間の階級格差は徐々に拡大している。先ほど会った数名の大手企業の重役たちは、あくまで「前菜」レベルに過ぎない。いわば隔離期間中やっていたあるRPGゲームに登場するエリートモンスターのようなもので、攻略の難易度は普通の敵よりも明らかに高いが、攻撃パターンや弱点を把握さえすれば簡単に倒せる。

 しかし、目の前にいる権力の核心に近い高官たちは、五大国の数十億人の命と健康を掌握しており、僕にとっては既にステージのボス級に等しい存在だ……今までの政府高官と接した唯一の経験は、3年前の虎視島での新人就任式の際、目の前の人文科学技術部のトップである義堂長官が演壇に立ち、私たちに祝辞を述べてくれたことだけだ……

 先ほどの重役たちでさえも丁重に接しなければならないような連中が、いきなり5人も現れた……同時に5体のボスを相手にするなんて、難しすぎるだろう!!!一体どう対応すればいいんだ?地面にひざまずいて土下座の姿勢で彼らに侍らないといけないのか?普段から、下田という、一応「上司」と呼べる程度の奴に、もう少し礼儀正しく接しておけばよかった……そうすれば、上司との会話の経験を少しでも積み重ねておけたのだ……

 しかし、よく考えてみると、自分を貶めてお偉いさんの機嫌を取ろうとするようなやり方には、やはり限界がある。最低限の尊厳と人格を守るため、僕は土下座という極端な方法は諦め、冷静かつ迅速に、入職前に学んだ上司に対する基本的な礼儀を思い出し、各官僚に「標準的」な挨拶をした。


「義堂大臣、および、各国の長官がたにご報告申し上げます!虎視島の第3編隊隊員、番号10510の安達池です。いつでも、長官がたの閲兵を受ける準備ができております!」


 おいおい、お前はどこの国の儀仗兵か……いや、どの国にも、僕ほど不器用な儀仗兵なんていないだろうな。


「君、火星で起きたあの件については私もかねてから聞いていた。かつて、我が万象国宇宙局への入局を考えてくれたことがあるだろう?」


 万象国から来たこの高官は、先生と年齢が同じくらいに見え、僕と同じような薄茶色の短髪に、緑色の瞳を持ち、親しみやすい笑顔を浮かべながら、僕の過去を詮索してきた。


「仰せの通り、その、実は、リチャード教授の推薦があったので……」

「我が国の宇宙開発界と生物学界の第一人者であるリチャード教授に師事していたのなら、なぜその推薦を受け入れなかったの?」

「その、それは……その理由は……」

 

「虎視島の方がお前らよりもずっと良い待遇を用意してくれたし、京空市に住ませてくれるから」なんていう俗っぽくて浅はかな理由を言えるわけねーだろ……


 答えに窮した僕はやきもきして仕方がなく、今まで長官を直視していた目も定まらなくなり、あちこちきょろきょろと見回して助けを求めた。


「この点については私がお答えさせてください、ジル部長。おっしゃった通り、彼が博士号を取得した後、私は万象国国家宇宙局に推薦申請を行い、承認を得ていました。あとは安達君の同意さえあればよいという状況でした。諸般の事情により、安達君はついに母国に奉仕することにしましたが、それも人として当然のことです。これほど有望な人材を得られなかったことは、私としても非常に残念に思っておりますが、教師として、私は教え子の意思を尊重することにいたしました。大体そういう次第です。」

「なるほど……万象国への転職を、もう一度考えてみない? 虎視島よりも良い報酬を出せるし、違約金も問題にならない。安達君が望むなら……」


 その言葉は三年前言ってくれればよかったのに!となると、今こうしてここに立って、お前らの「実験動物」になる羽目に陥ることもなくて済んだはず……

 

「ゴホン!」と、高らかな咳がジル部長の引き抜き工作を強引に遮った。


「あっ、大丈夫ですか、義堂大臣? もしかして風邪をひかれたのですか?」

「ご心配いただきありがとうございます、ジル部長。そもそも本日、皆様がここに集まったのは、各国間の互恵、ウィンウィンの協力の機会を求めるためです。この場での公然とした引き抜き行為は、少し節度を欠いているのではないでしょうか?それに、あなたの管轄範囲には宇宙部門は含まれていないはずですよね?」


 まさか今回、僕をピンチから救い出してくれたのが義堂大臣だとは……僕はもうそこまで引っ張りだこになったのか?それとも、こういう上位に立つ官僚たちも実はかなり人間味があって、自ら部下を庇ってくれるものなのだろうか?


「『引き抜き』といった聞き苦しい言葉はご遠慮ください、義堂大臣。正確に言えば、これは単なる人材誘致の一手段に過ぎません。それに、最終的な決定はやはり本人次第ではありませんか? この点については、リチャード教授とも見解が一致しており、個人の権利を尊重することは、万象国において常に最高の指針となっています。」

「僭越ながら、一言申し上げてもよろしいでしょうか。ジル部長、お含みおきいただきたいのですが、安達君は虎視島と契約を結んでおり、契約違反に関する条項も明記されています。違約金を支払うだけで法的責任を免れるわけではないのです。ご理解いただけますようお願い申し上げます。」


 なんと下田は、歴とした万象国の高官に対して真っ向から反論する度胸を持つとは……彼の目的が何であれ、少なくとも我ら陽の国の尊厳は守られた。この男、意外と愛国心があるじゃないか。


「下田君の言う通りです。契約を必ず厳守するという理念は、貴国においても最高の指針の一つではないでしょうか? ギル部長が、ご自身の理念に反するようなことをなさることはないと思います。」

 

 下田の理路整然とした主張に後押しされ、義堂大臣は勢いに乗じて攻勢を強め、気勢の面でジル部長を完全に圧倒した。これでようやく、下田がなぜ上層部からあれほど重用されているのかが分かった……実に空気を読むのが上手い、機転の利く人物だ。


「さあさあ、お二人とも、少し落ち着いてください。ここは交渉の場ではありませんよ~義堂大臣のご指摘の通り、今日こうして皆で一堂に会するのは貴重な機会です。議論すべきは、各国の医学事業の発展を促進するための協力事項です。このような些細なことでお互いの関係を損ない、今後の交流や協力に支障をきたすようなことは避けるべきです。相互協力こそが何より大切なのです~ご意見は如何ですか?」


 政前上国の荘部長は、両者の間の緊迫した空気を和らげようとしていた。もしそれがうまくいかなければ、深刻な外交問題に発展しなりかねない……例えば、両国の関係が悪化し、相互外交制裁を経て、最終的には全面戦争に至るような事態に? そもそもこの二人の紛争は僕が発端なのだ。このままでは、僕は歴史に悪名を刻むことになる……しかし、僕にこの重鎮同士の口論に介入する資格などあるのだろうか?


「いかにも。これこそが、我々源文国が本日ここを訪れた主な目的でもあります。この安達さんの長所を如何に活用し、各国の社会福祉に貢献させるかが今回の会談の議題なのです。」

「私もハシ様の意見に賛同いたします。我々広界国だけでなく、各代表が所属する国々でも関連分野において多大なニーズがあります。この問題を如何に解決するか、その鍵はこの安達さんに秘められているのです。ですから、お二人にこの議題に再び集中していただきたいと思います。」


 この露骨かつ率直な動機は、国民事務局や大使館が僕に正式に発した「陽の国国籍強制離脱命令」に等しい。おそらく今日から、僕はもうどの国の国民でもなくなるだろう。なぜなら、僕は各国に分割され、全人類に共有される運命に直面しているからだ。

 そうなれば、僕がどの国を代表しようが、どの国のために尽くそうが、何の意味も持たなくなる。これこそが、この外交危機を鎮めるための最良の理由となり得る。


「皆様のご意見はどれも極めて妥当です。安達さんのもつ潜在能力を如何に引き出し、人類の幸福に役立てるかという点において、世界の先進国として、我々は率先垂範し、模範を示すべきです。義堂大臣、両国がこの点で合意に達し、手を携えてこの画期的な戦略目標を達成できることを願っています。」

「それこそが、我々陽の国側の初志でございます。貴国の強力な科学技術力を礎とし、各国からの財務、人的資源による全面的な支援があれば、この素晴らしい構想の実現は時間の問題に過ぎません。」


 他の三カ国の代表の調停により、この摩擦が深刻な結果を招く前に、芽が摘まれた。義堂大臣とジル部長は見合わせながら微笑み合った。共同の利益を前にして、いかなる確執であってもひとまず脇に置くことができるのだ。


「すまん下田君、時間を取らせてしまって。」

「義堂大臣、過分なお心遣いです。むしろ、私たちの方が長官やご来賓の皆様の貴重な時間を頂戴したのです。小官の不注意でジル部長に無礼を働き、どうかご寛恕ください!」


 お辞儀をして謝罪する下田は、こっそりと僕の背中をポンと叩いた。やむなく傍観者としてずっと立たされていた僕は、その意図を瞬時に悟り、慌てて彼に合わせて共に腰をかがめた。


「これは無礼な行為だとは言えません。むしろ、下田君は格別の愛国心と抜群の胆力を示してくれました。義堂大臣には、これほど優秀な部下たちがいることを、正直少し羨ましく思います。陽の国には本当に人材が溢れているのですね!」

「とんでもないです、ジル部長。下田君も自分を責める必要はない。さあ、顔を上げて、紹介を続けてください。最後に紹介するこの方々は、貴賓中の貴賓です。くれぐれも丁重に。」

「承知いたしました。それでは、安達君に最後の数名のご来賓をご紹介させていただきます。」


 ずっと沈黙を守り、最上座の四席に端座しており、トリを飾る特別ゲストたちの正体が、ついに明かされようとする。

ご感想とご評価を頂けましたら、幸甚の至りでございます。よろしくお願い申し上げます。

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