表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/7

売り上げアップ作戦

翌朝。

まだ薄暗い店内で、俺は並べられたパンを見つめていた。

「まずはここからだな」

「並べ方?」

リナが首をかしげる。

「ああ。“どれが一番売りたいか”が分からない並べ方してる」

今の配置は種類ごとに整然としているだけ。

悪くはないが、目を引かない。

俺は手を伸ばし、パンを動かしていく。

「入口側に“看板商品”を固める。色味がいいやつ、焼き色が綺麗なやつだ」

「へぇ……」

「で、奥に定番。あと——高さを出す」

木箱をひっくり返して台にし、段差を作る。

自然と視線が上に流れるように。

「人は“目立つもの”から手に取る。まずは選ばせる前に“選ばせたいものを見せる”」

祖父は腕を組んだまま、黙って見ていた。

「……好きにしろと言ったが、店を壊すなよ」

「壊さない。むしろ売る」

短く返す。

開店。

最初の客が入ってくる。

視線が、入口の棚で止まった。

「あら、このパン美味しそうね」

手に取る。

迷いがない。

(よし、食いついた)

一つ、売れた。

それだけで、流れが変わる。

昼前。

「次は試食だ」

「試食?」

リナが目を丸くする。

「小さく切って、無料で配る」

「えっ、タダで!?」

「その代わり“味を知ってもらう”」

祖父が低く言う。

「原価がかかる」

「回収する」

俺はきっぱりと言い切る。

「一口で“買う理由”を作る」

リナは少し考えてから、にこっと笑った。

「やってみよう!」

小さく切ったパンを皿に並べ、店先へ。

「どうぞ、焼きたてです!」

最初は戸惑い気味だったが、リナの声に釣られて人が足を止める。

一口、口にする。

「……美味しい」

その一言が、連鎖する。

「じゃあ一つ」

「こっちもください」

皿の上が減っていくのと同時に、棚のパンも減っていく。

祖父が、ちらりとこちらを見る。

(回り始めたな)

三日目。

「最後は呼び込みだ」

「まだやるの?」

リナが笑う。

「ああ。“来てくれた客を逃さない”のが前の二つ。これは“客を連れてくる”」

店の前に立つ。

通りを行き交う人の流れを観察する。

「この時間帯は主婦が多い。だから——」

声を張る。

「焼きたて!今なら試食あります!」

間を置かず、具体的に。

「甘いパンもありますよ!お子さんにもおすすめです!」

足が止まる。

視線が向く。

リナも続く。

「こっちどうぞー!今焼きたてです!」

声に明るさが乗る。

人が、一人、また一人と入ってくる。

店内が、少しずつ賑わいを帯びる。

祖父は最初こそ渋い顔をしていたが——

気づけば、焼き台の前で黙々と手を動かしていた。

追いつかない。

焼いても焼いても、減っていく。

「リナ、追加出すぞ!」

「はい!」

息を合わせる。

回る。

回る。

店が、回る。

七日目。

夕方。

棚はほとんど空になっていた。

「……全部、売れた」

リナが呆然と呟く。

その顔が、ゆっくりと笑顔に変わる。

「すごい……!本当に、売り上げ上がってる!」

帳簿を見て、目を輝かせる。

「倍だよ!一週間で、倍!」

「……まあな」

肩の力が抜ける。

だが、内心はかなり安堵していた。

(クビ、回避だな)

祖父が近づいてくる。

いつもの無愛想な顔。

だが——

「……悪くねえ」

ぽつりと呟いた。

それだけで、十分だった。

「約束だ」

祖父が言う。

「これからは給料を出す」

「……いいのか?」

「働いた分は払う。それが商売だ」

短い言葉。

だが、重みがある。

「……ありがとう」

自然と頭が下がる。

リナが満面の笑みで言った。

「これからもっと忙しくなるね!」

「ああ」

俺は頷く。

借金1000万ルピー。

まだ遠い。

だが——

「ようやく、スタートラインだ」

パンの匂いが満ちる店内で、そう実感していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ