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エピローグ 2

あの日、冬の寒い日。僕は瑛太さんの家を出た後、まっすぐ交番に向かった。


 地面を踏みしめるたびに心臓が口から飛び出しそうなほどドキドキして、足が震える。


 怖い。怖いよ。もう引き返そう。瑛太さんだってきっと、僕のことを歓迎してくれるはずだ。


 たった100メートル程度歩く間に、十回くらいそんな事を考えては歩みを止めた。

 でも僕はその度に瑛太さんと交わした約束を思い出し、自分を奮い立たせながらなんとか交番へ向かい、自首した。



 それから「今までどこにいた」とか「どうして東京にいるんだ」とか、警察の人に代わる代わる聞かれたけど、ずっと頭の中でシミュレーションしてきた回答を繰り返したら、瑛太さんの家に居たことは何とかバレずに済んだ。



 その後裁判に掛けられて、大勢の人の前で、僕がしたことを話して、結果は懲役は二年半。

 瑛太さんの言っていた通り、僕の生育環境がかなり影響したらしく、いわゆる「温情判決」ってやつだったらしかった。



 警察の人も、裁判長も、僕に関わった大人達は、みんな優しい言葉を掛けてくれた。いっぱい厳しい言葉を掛けられるものとばかり思っていたから、すごく驚いた。



 少年院での生活は、想像していたよりもずっと穏やかだった。

 言われたことを言われた通りにしていたら、誰も僕を怒らないしぶたないし、ご飯だって毎日朝昼晩の三回食べられる。家にいたときのことを考えると、天国みたいな生活だ。



 図書館もあったので、時間の許す限り僕はそこに籠もり、本を読んだり勉強していた。

 夢中だった。必死だった。刑務官の人も僕を褒めてくれて、たくさん勉強を教えてくれた。僕はそれが嬉しくて、もっとたくさん勉強した。



 そうこうしている間に、あっという間に二年半の月日が過ぎた。

 遠い親戚のおじさんが僕を引き取ってくれるらしくて、出所したら僕はその家へと電車で向かう段取りになっていた。



 色んな手続きを終えて、僕はボストンバッグ一つを抱えて、お世話になった刑務官と一緒に少年院の門へと向かう。


 この門を出たら僕は、社会に放り出される。

 今までは僕を理解してくれる人達ばかりだったけど。ここからはそうじゃない。


 自分ひとりの力で生き抜いていかなくちゃいけないんだ。



「お世話になりました」



 門の前に立ち、見送りに来てくれた刑務官の人達に今までの感謝を込めて深々と頭を下げて、僕は少年院に背を向けて、歩き出した。



 外はすっかり春になっていて、暖気を含んだ風が僕の頬を優しく撫でた。

 駅へと続く並木道の桜は満開で、ひらひらと花びらが舞っていた。


 ずっとグレーの景色を眺めてばかりいたから、目が痛くなるくらい鮮やかで、僕は思わず立ち止まり、目を細めて見上げた。



 わあ、綺麗やなぁ。瑛太さんもどこかでこんな景色を眺めて、同じことを思ってるんだろうか……会いたいな。早く会いたい。僕の人生を変えてくれた人。僕を救ってくれた人。


 そのためにも僕は、早く真っ当な人間になりたい。

 いや、なるんだ。そして、一人前の大人になったその時には──。



 ……瑛太さん。僕、あんな大口叩いて部屋を出たけど、ほんまはまだ、この先の事が全然怖い。だって、僕の本当の地獄は『ここから』やろうから。


 誰も守ってくれる人なんかおらん。そんな中で僕は、生きていくんや。それが僕の犯した、罪の代償やから。



 歩きながら、どんどん自信がなくなってくる。重い足取りはどんどんと速度を失い、そして完全に止まってしまった。

 俯くと、ずっと履き続けたせいですっかりヘタって薄汚れてしまったスニーカーが見えた。



 本当に僕は、瑛太さんの隣に立てるような立派な人間に、なれるんやろうか? いや、ならんとあかん。そうじゃないと僕は、また瑛太さんに会うなんて──。



 じわりと視界が歪んでいき、涙が溢れそうになる。

 泣いちゃ駄目だ。零れそうになった涙と一緒に、弱気になりそうな自分を拭い去った。



 あかん。僕はもう決めたんや。どんだけ辛くても、どんだけ理不尽な目にあっても、前に進むって。その先に、瑛太さんと一緒にいられる未来が、あるはずなんやから。



 再び決心し直して、僕は顔をぐっと上げて前を見た。そして、驚きに目を見開く。



 真っ直ぐに続く歩道の先に、ここに居るはずのない人が、いた。

 何やらスマホを見ながら頭を掻き、こちらに向かって歩いてきている。


 僕はそれを、信じられないものを見るような目で見て、一歩も動けなくなった。



 もしかして僕は、夢を見ているんだろうか? こんな所におるわけがない。だってここは大阪で、観光名所なんかなくて、だから──。



「……瑛太さん、なんで、」



 思わず僕がそう声を漏らすと、その人は気付いたのかスマホから顔を上げて、「よお」と片手を上げて挨拶してきた。


 ゴールデンレトリバーみたいな色の癖っ毛。垂れ目だけど、僕と違ってカッコイイ感じの鋭い瞳。僕を見下ろすくらいの身長。


 この2年半ずっと想い続けてた相手──瑛太さんが、そこにいた。

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