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俺とあいつの共同生活 14

 まるで有名な某入れ替わり系アニメ映画のシーンみたいに、俺達はそう叫んだ。



「瑛太さん、やんな?」


「お、おう。お前は……景だよな?」


「は、はい」



 未だ混乱した頭のまま互いにそう確認し、そして同時に思い付き、二人して洗面台の鏡の前へと走って向かった。

 驚いた顔をした俺達の姿が映る。



「ちょっ二人で並んだら分かんね―だろっ! 一旦どけって!」


「あっすいません!」



 景が慌てて退く。鏡の前にある顔はやはり本来の俺──吉田瑛太の姿だった。頬を軽く叩いたりつねったりしてみる。


 鏡の中の俺もこちらを見つめたまま全く同じ動きをし、そしてつねった頬も痛んだ。



「やっぱり……本当に元に戻ってる」


「瑛太さん」



 声に振り向く。そこには酷く動揺した様子の景が立っていた。

 突然過ぎて、俺も呆然と立ち尽くし見つめ合う。



「と、とりあえず、歯磨きするか」


「……はい」



 動揺したまま歯ブラシを各々取る。歯磨き粉をつけて口に入れようとしたところでハッとした。



「ちょっと待てよ。身体元に戻ったんなら歯ブラシこっち……だよな?」


「あっそうか……」



 今まで使っていた歯ブラシは、身体が入れ替わる前に使っていた物だ。ややこしいな。



 つーか元の身体に戻ったということは、景との生活が終わる日が来たってこと、なのか?



 ぼんやりしながら朝食の準備をしている景の背を眺めていると、景の動きがぎこちない事に気付いた。



「どした? 景」


「いや、なんか、いつもより台所が高く感じて」


「あー……背が縮んだみてえなもんだしな」


「縮んでへんっ! 僕はこれからまだまだ伸びるんやっ! 成長期なんや!」


「いや、お前の背が縮んだって話じゃなくて……だーもう、ややこしいな!」



「瑛太さんツッコミが弱すぎや。そんなんじゃ関西人の僕のボケに太刀打ちできへんですよ?」


「はいはいもうええわ」


「わぁ~瑛太さんの関西弁やぁ~めっちゃレアやぁ~。でもちょっとイントネーション違う」


「あんま調子乗ってると、お前の分の朝飯も全部俺が食うからな」


「ええ~嫌やぁ! 僕もお腹ぺこぺこなんやっ! 成長期なんやからっ!」



 慌てたように謝罪してくる本来の姿をした景に、思わず笑みが溢れる。この漫才みたいなやり取りももう終わりか。



 自分から切り出そうか、それとも景が切り出してくるのを待つか。俺は結局、後者を選ぶんだろうな。



「いただきます」と手を合わせ、向かい合って朝食を食べる。

 一ヶ月くらい身体が入れ替わってたからだろう。まるで自分が目の前にいるみたいで落ち着かない。



 景もそうみたいだ。こちらをチラチラと何度も見て、箸で掴もうとしただし巻きをぽろりと零したりしている。



 朝食を食べ終えて、景の淹れた緑茶を飲んでいると、景がついに切り出してきた。



「身体元に戻ったし、これからどうしましょう」


「え……あ、ああ。そうだな」



 それだけ言って、互いに沈黙する。あ、そうだ。もうすぐ始業時間だ。



「とりあえずさ。俺今から仕事だから、それ終わってからでもいい?」


「あっそうか……そうやんな。そうしましょう。僕もいつもみたいに、勉強しときます」



 いつも通りPCを立ち上げ、仕事に取り掛かる。景も参考書を開き、勉強を始める。

 身体が入れ替わった事以外、いつも通りの日常が始まった。



 昼休憩になり、昼飯を食べる時もテレビを見ながら天気がどうとか、このレストラン美味しそうとか、どうでもいい雑談をお互い積極的にしていた。



 考えたくなかったのだ。この生活が突然終わりへと収束しそうな事を。

 今の状況が居心地よくなりすぎていて、元の生活に戻るのが怖くなっているという事実を。



 終業時間はあっという間に来てしまった。残業が必要じゃないかと上司に確認してみたが、定時で大丈夫だと言われてしまった。



「……瑛太さん。仕事、終わりましたか?」


「え、ああ、いや。ちょっと今日中に資料纏めろって頼まれてさ……晩飯、作っといてくれないか?」



 そう声を掛けると、景は酷く安堵したように笑顔を見せた。



「分かりましたっ晩御飯、何がええですか?」


「んん、そうだな。じゃあ、ハンバーグ」


「ハンバーグかぁ。玉ねぎはあるけど、ひき肉が無いんやっけ? ちょっと買ってきますね」



 そう言って上着を着て財布を手に外に出ようとする景を、「ちょっ待て!」慌てて引き止めた。



「どうしたんですか瑛太さんっ」


「お前、元の身体に戻ってんだぞ!? 外出てもし警察に見られたら一発アウトだろうがっ!」


「……あっ! そうやった!?」



 どうやら本当に気付いて無かったようだ。危ない。俺が引き止めなかったらマジで終わってた。

 ……でも待てよ。どうせこれから自首するなら、別にそれでも──。



「買い物は俺が行く。久々に外出たいしさ」


「仕事はええんですか?」


「大丈夫だ。明日に回すから」


「じゃあ、気を付けて……いってらっしゃい」


「うん……行ってきます」



 景に見送られて玄関から外に出る。真冬の風がむき出しの顔と首筋をびゅうと冷やした。

 こないだ景を探すときに出た時も寒かったけど、今日は特に冷えるな……もう夜だし、クッソ寒いし、景の今後の話し合いだって必要だ。


 どう考えたって、こんな日に自首しになんて行かねえよな。



 この後は景の作った飯を食って、風呂入って寝る。今日もいつもと同じ、そういう感じで一日が終わるんだ。


 そう思うと急に胸が軽くなり、ほっとため息が口から漏れる。



 俺には景を引き止める権利なんて無い。むしろ法律上は、自首を促さなければいけない立場なのだ。


 だけどさ……別にいいじゃねえか。俺と景が一緒にいることなんて、誰も知らないんだ。


 罪悪感だとか倫理観だとか、そういうのは今は後回しだ。



 あいつがここにいたいと思ってる間くらいは、家に居させてやりたんだ。



 景から渡されたメモを手に、俺は約一ヶ月ぶりのスーパーへと足を踏み入れた。




「「いただきます」」



 向かい合って手を合わせて晩飯を食べる。景の作った、目玉焼きの乗っかったハンバーグを口に運ぶ。



「うん。うまい」


「ほんまですか?」


「いつだって美味いよ。景のメシは」


「えへへ、なんか……照れるなぁ~」



 素直に褒めたからか、景が顔を赤らめ、照れ笑いを浮かべる。

 こんなに喜んでくれるなら、今までももっと褒めてやれば良かった。


 これからは変な意地を張らず、褒めるところはしっかりと褒めてやろう。



 食器を片付け、風呂に入る。脱いでみて、自分の身体が綺麗で驚いた。


 いや、別にナルシスト的な意味ではない。

 この一ヶ月、景の傷跡だらけの身体を見慣れていたから、何の傷跡も無いことに違和感があったのだ。



 景はまだ風呂に入ってない。久々に見る自分の身体を、景はどう思うんだろう。

 過去に自分がされた虐待を思い出して、辛い思いをするかもしれないな……そうだ。冷凍庫にまだ景の好きなアイスがあったはず、今日は風呂上がりにそれを二人で食おう。



 そうすればきっと、景の気持ちも少しは晴れるはずだ。



 風呂を出ると、景は相変わらず参考書の続きをしていた。髪を拭きながら、真剣な横顔に声を掛ける。



「風呂空いたぞ」


「あ、はい」



 景は参考書を切り上げ、風呂に向かった。それを見届け、台所で水を飲んでいるとスマホが着信を知らせる。見ると、相手は母さんだった。


 メッセージのやり取りはたまにしているが、月に一、二回は電話が掛かってくるのだ。

 景は今風呂だし、最近あいつは結構長風呂するから、出ても大丈夫そうだな。



 景がまだ風呂から出てきそうにないか耳をそばだてて確認し、応答ボタンを押した。




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