俺とあいつの共同生活 7
次の日は日曜日、この日も二人で勉強に没頭した。
景はかなりやる気だったので、俺もそれに応える為に頑張った。
昨日一晩掛けて考えたけど、今の俺に出来ることなんて、こいつに勉強を教えてやることくらいだ。
だったらそれを全力でするしかないだろう。あいにく景もかなりやる気だしな。
昼休憩中、景はベッドに寝転んで漫画を読みながら、俺に聞いてきた。
「瑛太さんって、兄弟おるんですか?」
突然の質問にパソコンから顔を上げる。
急だな。つーかこいつ、最近俺に関しての質問が増えたな。
「いねえよ。一人っ子だし」
「そうなんですね。面倒見がええから、弟か妹がおるんかと思って」
「はぁ……面倒見いいか?」
「はい。お兄ちゃんおったら、こんな感じやったんかな~って思ってます!」
景がにこりと無邪気に笑う。
なんだよそれ、なんか、照れるな。照れ隠しに頬を掻いて、参考書を手に取る。
「ほら、休憩終了だ。そろそろ続きやるぞ」
「はいっ!」
参考書に真剣に向き合っている景の横で、俺もパソコンで仕事のメールを捌いていた。その時、ピコン。とチャットが届く。
確認すると、オンラインゲームの友達、サモからだった。
『エース氏ぃ! しばらくログインしてないようでござるが、ひょっとして彼女でも出来たでござるか!? だとしたら許さないでござるよ! ムキーッ!!』
……うん。いつも通りのノリだ。
つーかここ数年、毎日毎日オンラインゲームにログインしてたのに、一週間くらいログインしてなかったのか。初めてだなこんなの。
スマン。最近リアルが立て込んでてログイン出来なかった。彼女は出来てない。とチャットを返す。すぐに返事がきた。
『そうでござるか! いや~抜け駆けされたかとヒヤヒヤしてたでござるよ~! 独り身で寂しいエース氏よ。今から拙者と一狩り行こうぜっ☆』
ううむ。悩みどころだ。サモはこういうキャラだが、鋭い所がある。断ると怪しまれる気がする……しょうがない。
分かった。通話なしでもいいか? と返すと、『せっかくだから通話もしたいでござるよぉ~ここは一つ、拙者のこと可愛い彼女だと思って……おねがいっ♡』
「……け~い、ちょっといいか?」
「はい?」
「あ……もしもし?」
『エース氏ぃ~! 寂しかったでござるよぉ~! 一体どこの馬の骨と浮気してたでござるかっ! このっこのっ!』
「あ……はは、いつもどおりだなぁ~えっと、サモさん?」
『おやおやぁ? なんだか今日のエース氏、いつもと違う感じがするでござるなぁ?』
「え!? きょ、きょうはちょっと……久し振りだから、どもっちゃっただけです……だよ」
『コミュ障あるある~! しばらく人と喋らないとどもっちゃうっ! ってやつでござるなぁ~』
「え、あ……あはは」
ヘッドセットを着けた景がドン引きしているのが、引きつった表情から伝わってくる。
まあ、サモのこのノリは、慣れてないとそういう反応になるよな。
『じゃあ今日はこの辺のエリアを探索するでござるなっ! ついてこいっ! 我が子分よっ!』
「ひ、久しぶりだってのに相変わらずだなぁ……よぉ~し、行くかぁ」
俺がスマホに入力した台詞を、景がそのまま読む。凄まじいほどの棒読みだ。
だが上機嫌なサモはその違和感に気付いていないようだった。一度スピーカーをミュートにする。
「景、俺はこれからゲームの方に手を取られるから、後はアドリブで頼むぞ」
「ええ!? 無理ですって! 僕、この人と何話したらええんですかっ!」
「普段俺そんなに話さねーから、聞かれたことだけ答えて、サモのノリにてきとーに合わせてりゃ大丈夫だから」
景は慌てて首を横にぶんぶん振った。
「そんなん無理ですって!」
「ま、これも良い社会経験だと思え。じゃあ、ミュート解除するからな」
「ちょっ! 瑛太さんっ!?」
まだ何か言ってる景を他所にミュートを解除する。俺はゲームのコントローラーを握った。
最初はサモの話し方にドン引きしていた景だったが、時間が経つにつれて打ち解けて、普通に楽しく話すようになっていた。
『エース氏ぃ、この間行ってたオフ会の件、そろそろどうでござるか? カラオケで拙者の美声をエース氏の鼓膜に轟かせる日を、待ち遠しく思ってるのでござるが』
「オフ会?」
景が俺の方を見る。どうやらオフ会が何か分かっていないようだ。
一緒に遊ぶって意味だ。小声で言うと、なるほどと頷いた。
「サモさんおもろいし。僕……俺は、行ってみたいと思ってるんだけど」
『けど、なんでござるか?』
「……僕なんかと遊んでも、ガッカリさせるんとちゃうかなって……僕、全然おもろないし」
『そうでござるかぁ? 拙者は今日エース氏と話してて、結構楽しいでござるがなぁ~』
「……ほんまですか?」
『拙者は社交辞令など使わんでござるよ~。なんせ一生働かずとも親の資産で生きていける、ネオニートでござるからなっ。キリッ!』
しばらくしても景が答えないので顔を見て、ギョッとした。
こいつ、泣きそうになってやがる。
「ほんまですかぁ? ほんまに僕で……ええんですかぁ?」
『しつこいでござるよ! エース氏! 拙者が友と認めたのは、エース氏だけでござる! もっと自信を持つがよい!』
「うっ……うう~……っ」
ついに景の涙腺が決壊する。これ以上はまずいな。
『しかし珍しいでござるなぁ~。エース氏が関西弁ナヨナヨ系僕っ子キャラを演じてるなんて……ヤダっ! 萌えちゃうっ☆』
すまん。腹下しそうだから今日は落ちるわ。
チャットを送り、通話を強制終了する。景を振り返ると、だらだらと涙と鼻水を止めどなく零していた。
「おい、急にどうしたんだよ景っ」
「ごめんなさい。サモさん、めっちゃええ人やからぁ~……っ」
どうやらサモに認められたのが相当嬉しかったようだ。
ティッシュを箱ごと渡すと、景は数枚取ってちーんと鼻をかんだ。
「まあ、あいつは根っからの善人だよ。ちょっとノリがぶっ飛んでるだけで」
「僕もサモさんみたいな友達……欲しかったなぁ」
「これから出来るだろ。それこそいくらでもな」
「出来へんですよ。僕は人殺しやのに」
「……それは」
なんと返そうか悩んでいると、景は目元をゴシゴシと拭って、にこりと微笑んだ。
「瑛太さん、良いお友達がおるんですねっ」
「……まあな」
最近のこいつの明るさは、絶望の裏返しなのだろうか。
景は自分の人生をどうしようもなく諦めている。それはきっと、俺にはどうにも出来ないのだろう。
当たり前だ。人を殺すっていうことは、そういう事なのだから。
おかしいのは、景を何とかしてやろうと足掻いている俺の方なのだろうか?
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