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第六.五曲


 ――ある日の夜、皆見家にて。

 優一、咲良含む皆見家全員が、居間にあるテレビの前で座っている。奏が出る歌番組を家族総出で見る恒例行事のためだ。

 そしてついにその時がやってきた。

「お次は、現在人気急上昇中! "Maiso"の新曲お披露目だ――っ!」

 MCの言葉に咲良は目を輝かせた。

「あっ! ほらほら来るよ!」

「今回はどんな衣装だったんだろ〜。聞いても教えてくんないし」

「企業秘密だからな。……てか、毎回うちで見なくてもいいだろ!」

 奏がそう叫ぶと、優一は真顔で答えた。

「みんなで見ることに意味がある。そして奏を弄り倒す」

「真剣な表情で馬鹿みたいなこと言うな、馬鹿」

「優くんは馬鹿じゃないよ! お兄ちゃん!」

 奏が一蹴すると、奏の妹の歌音が反論した。

 


 歌音は何故か昔から優一に懐いており、勉強教えて欲しいだの一緒に遊んで欲しいだの、奏でも叶えられることを優一におねだりしている。

 奏も相手にされないことに対して何とも思っていないのだが、優一を頼りにしていることに対して気に食わないらしい。

 奏は内心、「俺だって勉強教えられるぐらいには出来るし」とか思っているのだ。



 そうこうしているうちに、"Maiso"のパフォーマンスが始まろうとしていた。



 画面が一瞬暗くなった後、中央だけにスポットライトが当たった。

 歌い出したのはリーダーの充ではなく、奏だった。

「――……数えきれないくらいの――♪ 大好きを君に――♪」

 マイク越し且つ、テレビで見る奏の姿はこの場にいる奏と違って見える。

 表情も仕草も雰囲気も、その全てがアイドルそのものでキラキラと輝いていた。

 テレビ中の奏がパッと手を差し出した瞬間、ステージの明かりが付き、充と藍の姿が見えた。

 その場にいる人たちはテレビに釘付けで、誰も何も話さなかった。






 Maisoのパフォーマンスが終わると同時に、奏以外の人たちが拍手した。

「すっごいじゃん、奏〜! どこからどう見ても王子様だったよ!」

「……本当、いつになったら俺はこれから解放されるんだよ……」

 奏は恥ずかしさからか、顔を両手で覆って耳まで真っ赤にしていた。

 優一はそんな奏の背中をツンツン突く。

「そんなつれないこと言うなよ、奏く〜ん。みんなで君の勇姿を見てくれるってそうそうないぞ〜」

 優一がそう言うと、奏が少し顔を上げて優一を睨む。

「見るなら勝手に見てくれ。俺のいないとこで」

「それはダメー。奏のこの反応が見たいんだから」

「ふざけんな、この性悪野郎」

 奏はため息をついて部屋を出て行こうとする。

 そんな奏に歌音が声をかける。

「お兄ちゃん、どこ行くの〜? まだ番組終わってないよ〜」

「……部屋にいる。終わったら呼んで」

 その後すぐにバタンと扉が閉まった。

 あまりにも冷たく言い残して部屋を出て行ってしまったためか、少し心配した優一は咲良に耳打ちをする。

「…………あいつ、そろそろ本気で怒ってる? どう思う、咲良ちゃん」

「う〜ん……。今までなんだかんだ言って最後まで見てたし、今更怒るとは思わないけど……」

 咲良と優一は目を合わせて頷いた。そして立ち上がってリビングの扉に手をかける。

「え、優くんとさっちゃん。どうしたの?」

 兄に加えて咲良と優一も出て行こうとしたからか、歌音が少し不安そうに聞いた。

「奏を呼んでくるだけだよ! 歌音ちゃんたちは番組見てて! 私たちは見逃したところは録画で見るからさ」

「そーそー。奏の方は僕たちに任せて〜」

 そう言って二人は、二階にある奏の部屋に向かった。






 優一が奏の部屋の扉をノックする。

「かーなでくんっ、出ておいで〜」

 奏からの返答がなく、その場がシーンとする。

 その瞬間、咲良は顔を真っ青にさせた。

「……えっ、本当に怒ってるんじゃ……」

「んなわけないって! 頼も――!」

 咲良とは対照的に笑顔な優一は、躊躇いもなく部屋の扉を開けた。

 


 部屋の中では、奏はヘッドホンを付けてピアノに向かっていた。

 二人が入ってきたことに気づいた奏は、怪訝な顔をしてため息をついた。

「……俺にプライバシー権は?」

「……ない! 無視する奏くんが悪いのさ!」

 そう言ってふんぞり返る優一を見て、奏はさらに表情を険しくさせる。

「ご、ごめんね奏。……怒ってる?」

 咲良がオロオロしながら聞くと、奏は首を横に振った。

「怒ってない。……ただ、あの番組を見たくなかっただけ」

 奏はヘッドホンをピアノに置いて、咲良と優一の方に向き直った。

「あの時は喉が本調子じゃなくて、上手く声が出てない。それに新曲で歌い慣れていないからこそ、ベストパフォーマンスじゃなかった。……せっかく見せるなら一番良いとこじゃないと……って」

 奏が咲良と優一をチラリと見ると、キョトンとしていた。

「……奏って、割としっかりアイドルやってるんだね」

「……俺のために時間作ってくれるファンのためにも全力で応えなきゃ、だろ」

 そう言って奏は静かに微笑んだ。

 その表情は、暗がりの部屋の中でも輝いて見えるほどに眩しいものだった。




 奏は立ち上がると、二人に近づいた。

「そろそろ戻る。気遣わせて悪かった」

「べっつに〜? そんなのお安い御用ですけど〜。それにこの音声を歌音ちゃんに聞かせるし」

 優一はそう言いながらスマホをタップした。



「……俺のために時間作ってくれるファンのためにも全力で応えなきゃ、だろ」



 その瞬間、先ほどの奏の言葉が流れた。

 奏は一気に顔を赤くして、優一からスマホを奪い取ろうとする。しかし圧倒的な身長差で、上に伸ばした優一の腕には届かなかった。

 奏は優一を睨む。

「おま……っ! ふっざけんな! 消せ! 今すぐ!」

「や〜だよ〜ん! さっさと来ないと本当に聞かせちゃうからね!」

 そう言って優一はニヤニヤしながら部屋を出て行った。奏も優一を追いかけるように素早く部屋を出て行く。

「え、ちょっと! 二人とも待ってってば!」

 咲良も慌てて二人に続いた。

 


この恒例行事は、奏がテレビに出るようになってから始まったそうですよ。

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