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第七曲


 ――季節は流れて、少し暑くなってきたある日。

 奏たち三人は昼食を食べるため、屋上にレジャーシートを敷いていた。

 衣替えも始まったこともあり、暑がりな咲良と優一はすでに半袖。

 奏は日焼け対策用の薄手のパーカーを羽織っていた。


 そんな奏を優一はジトっと見る。

 あまりにも視線が痛かった奏は、引き気味に優一を見た。

「………………なんだよ」

「こんな暑いのにさ、なんでそれ着てられるわけ? 奏の体温調節機能バグってんじゃない?」

「日焼け対策だよ。あとまだそんな暑くねーだろ」

 奏は優一の言葉にため息をつく。

 奏の言葉に、レジャーシートを敷き終わって小型の扇風機で涼んでいた咲良が叫ぶ。

「いや暑いよ!? 私と優一が暑がりなだけかもしれないけど!」

「少なくとも俺はまだ大丈夫」

「あのさー、やっぱバグってんでしょ。半袖な上に髪の毛まで上げてる僕たちがおかしいみたいじゃん」

 そう言って優一は自分の結っている髪と、咲良のポニーテールを指さす。

「お前らが暑がりなんだろ」

 奏はそう言いながらため息をついて、レジャーシートの上に座った。

「自覚してるさ。してる上でさすがに奏の格好暑すぎない?って話」

 優一も同じようにレジャーシートに座る。そして奏の方を向きながら、顰めっ面で団扇で仰ぐ。

 続いて咲良も座り、三人は昼食を食べ始めた。





 昼食を食べながら、ふと思い出したかのように優一が定期試験について話す。

「夏といえば、定期試験か〜。めんどくさ〜」

 そう言って、優一は紙パックのジュースを飲む。

「どの口が言ってんだよ」

 奏は優一を怪訝な目で見る。そんな表情をされても優一はお構いなしだ。

 


 それもそうで、優一は学校の定期試験で一位以外を取ったことがない。当の本人はそれを自覚しているからこそ、試験なんてただの遊び程度にしか思っていないのだ。

 全国模試も本気を出せば一位を狙えるのだが、「めんどくさい」の一点張りで、常時テキトーに書いた解答用紙を提出している。

 テキトーに書いたものでも全国二桁の順位を出している。



 怪訝そうに見ている奏に気づいた優一は、ニヤニヤしながら昼食を食べる。

「どうせ奏くんは僕に勝てないんだから諦めな〜? 万年学年一桁の皆見奏くん?」

「しばいていい?」

「やーだよーん……って、咲良ちゃんどうしたの?」

 奏と優一が言い合いをしていると、ダラダラと冷や汗をかいて明後日の方向を向いている咲良がいた。

「え? いや……、二人とも、すっ……すごいな〜……って思っただけだよ? 決してそんな悪いことは……」

 普段のハキハキ話す咲良とは違って、しどろもどろしていた。

 その様子を見た奏が、顔色を変えずにゼリー飲料を飲みながら話す。

「咲良、勉強苦手だもんな。中学の時も赤点ギリギリだっただろ」

 奏の言葉に咲良は肩をビクリとさせる。

「あれ、そうだっけ? でも確かに毎回の試験で顔死んでるよね、咲良ちゃん」

「そんなこと言わないでよぉー……」

 咲良はあからさまに肩を落とし、落ち込んだ。

 そんな咲良に優一は何気なく今回の試験について話す。

「でもさ、今回の試験は大丈夫でしょ? 高一の一学期なんて基礎中の基礎しかやってないし、難しいのは出ないし!」

「そうそう。授業聞いてたら出来るから……って咲良?」

 二人の話を目を逸らして、苦笑いしながら咲良は聞いていた。

 その様子を見た二人は怪訝そうな顔で咲良を見る。

「まさか咲良ちゃん……」

「言わないで!! 今回の試験もやばいなんて自覚してるし!! だから二人ともその目やめて!?」

 咲良は持っていた紙パックを握りつぶしながら涙目で言った。

 咲良が半ベソをかいている横で、奏がふとあることを口にした。

「…………勉強、教えようか?」

 奏の言葉に咲良はパァっと顔を明るくさせた。

「本当に!? いいの!?」

 咲良は驚きの余り、奏にズイッと詰め寄った。

 予想以上の距離感に驚いた奏は少し身をのけぞらせながら言った。

「い、いいよ。ただ仕事もあるしそんな頻繁には無理だけど……」

「それでも嬉しいよ! ありがとう、奏」

 そう言って、咲良は嬉しそうに笑った。

 そこで優一が手を挙げた。

「じゃあじゃあ、奏が無理な時は僕が教えてあげよう〜。奏より教えるの上手いからさ」

「お前一言余計」

「優一も!? 本当にありがとう! 二人とも――!」

 咲良は嬉しくなって二人の手を握ってブンブン振り回した。その間「命の恩人!」「ありがとう!」などと何回も連呼していた。

 そんな咲良の様子を見た、奏と優一は顔を見合わせた。そして、可笑しくなったのか同時に吹き出した。

「えっ。なんで二人笑ってるの?」

「なんでもないよ。……ただ咲良ちゃんが面白いなーって思っただけ」

「そうそう。やっぱ見てて飽きない」

「もー、何それ。馬鹿にしてるでしょ?」

「してないしてない。優一はしてるかもだけど」

「冤罪でーす。僕そんなこと思ってません。ほんとひっどいな〜、奏」

 そこで三人は同時に笑い出した。

 


 笑いが落ち着いた頃、優一がある提案をした。

「あのさ――」






 

 * * *

 






「勉強会〜?」

 教室で咲良の話を聞いていた夏紀が、驚きながら聞き返した。

 咲良は慌てながら人差し指を口元に当てて、静かにのジェスチャーをした。

「ごめんごめん、ビックリして。咲良って勉強苦手なのね。意外〜」

「どうにも頭がこんがらがっちゃって……」

 夏紀は「そっか〜」と言いながら持っていたジュースを一口飲む。

「それにさ二人とも酷いんだよ!? 私のこと馬鹿にするし白い目で見るし!」

 咲良が必死になって先程の屋上での話をすると、夏紀はケラケラと笑い出した。

 それに咲良は余計に拗ねる。

「笑い事じゃないよ!」

「いや〜、ごめんて。……てかさ、あの皆見奏とそんな話できるの咲良ぐらいよ。いつから知り合いなの?」

 夏紀の質問に咲良は考え、記憶を辿る。

「……えっと、確か最初に出会ったのは……」







 

 * * *







 

 ――8年前。

 引越し作業も一通り落ち着き、休憩がてら、咲良は母の佳野と一緒に街を散歩していた。

 川の近くには綺麗な桜並木があった。

 咲良はあまりに綺麗だったため、思わず桜の木の方に向かって駆け出した。

「咲良〜。いきなり走ったら危ないわよ〜」

「わかってるよー! うわぁ……! すっごいきれいだな〜」

 咲良は桜並木を夢中で歩く。そのまま進んでいくと小さな公園が見えた。

 砂遊びが好きだった咲良は砂場があることに嬉しくなり、佳野の方を振り返る。

「お母さん! お砂場がある! 行ってもいい?」

「いいけどそんなに長くはいられないからね〜」

「は〜い!」

 咲良は笑顔で公園に行って砂場で遊び始めた。

 


 鼻歌混じりに砂で山を作っていると、咲良の頭に突然ボールがぶつかった。

「いたっ……くない……。これやわらかいボールだ。どこから……」

 咲良はボールを持って振り返ると、こちらに走ってきている男の子がいた。

「……ごめん! いたくなかった? 大丈夫?」

 風が吹き、男の子の前髪が横に流れる。その時に見えた彼の瞳は、綺麗な青色だった。


 咲良はその瞳に呆気に取られていると、男の子は心配そうな表情をした。

「……ケガ、してない?」

「……えっ!? あっ、だ、大丈夫! やわらかいボールだったし!」

 咲良は慌ててボールを男の子に返すと、男の子は笑顔で「ありがとう」と言った。

 そんな男の子の笑顔に思わず、咲良は心の声が漏れた。

「……きれいな青色……」

「え?」

 男の子は驚いて思わず聞き返す。

 口に出ていたことに気づいた咲良は口を押さえて、恥ずかしそうに目を逸らした。

 男の子は目をパチクリさせた後、悪戯っ子みたいな表情をして笑った。

「俺の目だろ、青色。俺も気に入ってんだ」

「い、いいと思う! すごくすてき!」

「ありがとう。……見ない顔だけど、引っこしてきた人?」

「うん。ついさっき引っこしが終わったの」

「ふーん。……じゃあ俺が、引っこして来ての友だち第一号だな」

 そう言って、男の子は笑った。

 男の子の言葉に驚く咲良。

「え? お友だち……?」

「うん。俺、この辺に住んでんだ。それにもうこんなに話してるし、友だちだろ?」

「うん、友だち! わたしは咲良! 相川咲良!」

 咲良は男の子の言葉を聞いて、全力で首を縦に振った。

 その様子をおかしいと思ったのか、男の子はクスクス笑った。

「……あははっ、首取れるぞ。俺は皆見奏。よろしく、咲良」

 奏は咲良に手を差し出した。

 咲良はその手を握り、二人は笑顔で握手をした。






 数日後――。

 咲良はいつものように奏と公園で遊ぶ約束をしていた。そのため公園のベンチに座って奏が来るのを待っていた。

「咲良〜、お待たせ」

 足音と共に奏の声が聞こえてきた咲良は、顔を明るくさせた。

 奏の方を向くと、そこには知らない男の子が一人立っていた。

「……えと、奏くん。その子は……?」

 奏はため息をつきながら話す。

「こいつは氷山優一。俺の従兄弟。咲良の話したらついてくるって聞かなくて……」

 奏が申し訳なさそうにしている横で、優一は悪びれもなくニコニコその場に立っていた。

「だってさ、あの奏に女の子の友だちができたって聞いたからそりゃ来るでしょ! むしろ来ない方がおかしくない?」

「来る方がおかしいだろ。……ごめん、咲良。いきなり知らないやつ連れてきて……」

 奏は咲良に両手を合わせて謝った。

 そんな奏の姿に咲良はベンチから慌てて立ち上がる。

「奏くん、気にしないで! むしろ新しいお友だちができるのはうれしいから!」

「……本当?」

 咲良は全力で首を縦に振った。

「ほら! 咲良ちゃんもいいよって言ってくれてるし、これからは僕を仲間はずれにしないでね!」

 そう言って、優一は咲良に近づいて微笑んだ。

「僕、氷山優一。よろしくね! 相川咲良ちゃん」

「よ、よろしく……。優一くん」







 

 * * *







 

「――みたいな感じで、気づいたら三人でずっと遊んでたんだ〜」

 三人の馴れ初めを咲良は夏紀に軽く話した。

 夏紀は目を丸くして驚いていた。

「へ〜、そんな奇跡みたいな出会いあるのね! でも話聞いてる感じ、皆見くんのイメージ違うかも」

「え、そう?」

 咲良の言葉に夏紀は頷いた。

「昔の方がめちゃくちゃ王子様じゃない? それこそアイドルしてる時の雰囲気と一緒。今は何だか……クール?」

 夏紀はチラッと奏の方を見る。

 奏は席に座って静かに本を読んでいた。そこに優一が絡みに行く姿も見える。

「仲良いよね〜、二人。皆見くんも氷山くんにちょっかいかけられても満更でもなさそうだし!」

「それ、奏の前で言わない方がいいよ。すごく嫌な顔すると思うから」

 咲良がそう言うと、夏紀は吹き出して「確かに」と笑った。

 


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