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煩悩まみれの聖職者と女子高生(悪役令嬢)だけで世界を救うって本気ですか? 〜終末世界は残念な二人に託されました〜  作者: さかもり
第二章 各々が歩む道

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ハイエルフたち

 しばらくしてマールというハイエルフが戻り、深く礼をしている。大扉の向こう側に現れたのは威厳のある格好をした若々しい男性だった。


『お久しぶりでございます。お父様……』


 お父様ということは現れたハイエルフはミアの父であり、ライオネッティ皇国の皇様ということになる。


 皇様は小さく息を吐いてから、ミアに話しかけた。


「生きておったのか、ミア……」

『いえ、見ての通り死んでおります』


 二人共が黙り込む。感動の再会であったというのに、会話が繋がらない。


 下手に見えていることが原因だろう。ひょっとすると俺が見るよりもハッキリと皇様には見えているのかもしれない。


「ゴホン、まあなんだ。ミアも元気そうじゃないか?」

『だから死んでおります』


 再び嫌な沈黙があった。眉をピクつかせる皇様をミアはただ薄い視線をして眺めている。


「ええい、まどろっこしい! ぶっ殺してやろうか!?」

『死んでいると言っているでしょう!? 脳みそ腐ってんじゃないですか!?』


 どうしてか喧嘩に発展してしまう。千年ぶりの再会だというのに、この親子は最低な結末を迎えている。


「ミア、かかってこい! 再教育してやる! まあ半殺しで勘弁してやろう!」

『半分どころか全死だと何度言えば分かるんです!?』


 狂気のハイエルフとその父親による戦闘。今にもアストラル世界に終焉が訪れようかというとき、


「やぁめぇぇなぁぁさぁぁい! 二人とも仲良くしなさい!」


 この世のものとは思えない美しいエルフが大木の奥から現れた。

 はだけた胸元には丸々とした巨乳。今にも零れ落ちそうな胸をした超美人が登場している。


「貴方、せっかくミアが戻って来たのよ? 喧嘩してどうするのです?」

「ううむ、マイアすまん……」


 どうやら現れたのはライオネッティ皇国のマイア皇妃様であるらしい。つまるところミアの母親であるようだ。


『お母様! お会いしとうございました……』

「ええ、本当に。しかし、死んでしまったのね? 殺しても死なない子だと思ってましたけれど……」


 マイア皇妃はちゃんと理解している。ミアが既に霊体となってしまったことを。


『実は魔王候補という馬鹿げた無き者に謀られまして……』

『誰が馬鹿げた無き者じゃ! 駄肉風情が大口を叩くな!』


 せっかく災禍が過ぎ去ろうとしていたのに、どうしてかイーサまで会話に加わってしまう。これは明確に終末の予感。俺はアストラル世界の終焉を垣間見ていた。


「あら、貴方は北大陸を壊滅に追い込んだ魔王候補だったかしら?」


『むぅ? 妾を知っておるのか?』


 三つ巴の喧嘩に発展するかと思いきや、皇妃様はイニシアチブを握ったままだ。上手くイーサの気を引いている。


「ワタクシは残念な皇に代わって実権を持っておりますので。確かイーサ・メイテルさんでしたね?」


『その通りじゃ! 妾は世界中の男を虜にしようと考えておったのじゃ!』


 頷きを返す皇妃様。ちゃんと話を聞くところは流石である。実権を持っていたとの話は完全な嘘ではないのだと思われる。


「貴方様も随分と長く消息不明でしたわね? どうされていたの?」


『むむぅ、語るほどでもないのじゃがな。妾は勇者タイラーに負けたのじゃ』


「まあ、勇者タイラーですか! あの者には直にお会いしましたが、無愛想な方でしたわね」


 ツッコミどころが多かったのだが、俺は沈黙を続ける。タイラー・スティルハートは間違いなく皇妃様の爆乳に嫌悪感さえ抱いていたのだと容易に察知できたからだ。


『そうか、あのあとタイラーは大深林まで来よったのか。どこへ行くつもりだったのか気になっておったのじゃ』


「ええまあ。あまりに強者でしたので好きにさせました。彼はエルフの娘を一人連れて行きましたね」


 ここでタイラーの情報が飛び出している。思わぬ話に俺も頷きを返してしまう。


「エルフの娘って、彼女は胸のない人でしたか?」


 人族である俺が発言して良いものか分からなかったが、疑問の回答を知りたいと思う。


「貴方はどなた? ミアの奴隷かしら?」


『お母様、失礼ですよ!? この方はクリエス・フォスター様です。私の依り代であり、旦那様なんです!』


「まあ、ミアは結婚していたのね!?」

「違います! ただ取り憑かれているだけですから!」


 全力で否定しておかねば、外堀を埋められてしまいそうだ。ただし、俺の話など誰も聞いちゃいない。


『旦那様は尊い方。この世界が向かう終末を阻止しようとする救世主なのです! 私はそんな彼に一目惚れしました。一生涯この方についていこうと……』


「もうその生涯は終わってんだろ。それに危機が迫れば逃げるつもりだっただろうがよ?」


 事実を歪曲して伝えるミアにはツッコミを入れるしかない。一目惚れは間違いないかもしれないが、俺と共に輪廻へ還る気はさらさらなかったはずだ。


「結婚式は済んだの!? 子供はどうなのよ!?」

『お母様、まだ新婚なのですから焦らないでくださいまし!』


「いや、霊体には触れられないし!」


 俺は完全に蚊帳の外であり、何を言っても無視されてしまう。もっとも皇様でさえも二人の会話に入っていける感じはなかったのだが。


「クリエス君、ミアをよろしく頼むわね?」

「いや、死んでるんですよ、彼女……」


「頼むわね!」

「は、はい……」


 どうにも押しが強い。ここは肯定の返事をするまで永遠に続きそうだったので、俺は不本意ながら同意している。


「それでタイラーが連れ去った女性について聞かせてください。彼女が貧乳であったことは分かっていますけど……」


「あらよく分かったわね? ハイエルフは基本的に胸が大きいのだけど、エルフは駄目ね。総じてスタイルが悪いの。タイラーが連れ去ったのは男の子かと間違うような板胸……いえ痛胸のリルという女性でしたね」


「なぜ言い直した!?」


 マイア皇妃の性格が掴みきれない。まあしかし、予想通りだ。タイラーは地平の楽園だなんて名の宗教団体に崇められる男である。生粋の板胸好きであったのは間違いない事実だ。


「それで彼はどこへ行ったのです?」


 女を一人攫っただけだとは思えない。彼は目的があって大深林まで来たはずだ。


「ああ、精霊の森について聞いていましたから、精霊の森へと向かったのでしょう。連れ去ったリルは案内役であったはず」


「精霊の森?」


 初めて聞く地名である。俺は質問せずにはいられなかった。


「この大森林を北に向かった場所にあります。アル・デス山脈の山麓です」

「そこには何があるのでしょう?」


「別に特別なものはありませんよ? ただ大精霊たちが好んで住まう場所ってだけですから」


 俺は考える。千年前といえば世界がバランスを崩したとき。ベリルマッド六世が大精霊を武具の材料とした頃である。


「その頃は全ての大精霊がいたのでしょうか?」


 返答は分かっている。何しろタイラーが召喚されたのは世界がバランスを失ったあとだ。従って三体の大精霊が消息不明であったはず。


「いいえ、大精霊は四体とも消息を絶ちました。直ぐさま新しい大精霊がその地位に就きましたけれど……」


 聞いていたように世界は消息不明となった大精霊たちの代わりを選定し、新たな大精霊たちがその座へと収まったらしい。


「四体? 土の大精霊ノア・オムだけが残ったのではないですか?」


 俺の予想では最後に飴玉をもらったノア・オムは初代のままであるはず。なぜならベリルマッド六世は既にシルフを封印しており、土の大精霊を封印する手段がなかったからだ。


「四体とも一新されましたね。この森を管理する我らは大精霊の動向に注視しております。全て事実です」


 精霊信仰が根強いハイエルフの皇妃が四体とも一新されたというのだから、それは真実なのだろう。しかし、土の大精霊ノア・オムまで失われた理由がよく分からない。


「とりあえず精霊の森へ向かってみます。何か分かるかもしれませんし」


 かつてタイラーが目指した精霊の森。アル・デス山脈の麓であるのなら特に遠回りでもない。俺はタイラーの目的を確認してみようと思う。


「それならばこれを持って行きなさい」


 マイア皇妃は懐から小袋を取り出していた。それは金貨でも詰め込まれたかのようにゴツゴツとしている。


「これは何でしょう?」

「それはハチミツ玉という結晶体です。大精霊たちの好物なんですよ。仄かに甘いらしいので……」


 甘味であるのなら納得である。異様に感じるほどシルフが飴玉に固執していたのは彼女たちがハチミツ玉を好物としていたからだろう。


「へぇ、ハチミツの飴玉って感じですかね?」

「ああいえ、それは別に甘味ではありませんよ? 粘液を特殊な製法で固めたものですからね」


 予想と異なる返答に俺は小首を傾げている。


 エルフの秘法なのだろうか。ハチミツ玉は何かしらから抽出された粘液を固めたもの。名前の通りにハチミツが原料ではないらしい。


「特別なものなのですね? 貴重なものをありがとうございます」


「幾らでもございますから気にしなくても構いません。何しろハイエルフは濡れ事で大いに興奮した際に……」


 マイア皇妃の説明に俺は眉根を寄せる。今はハチミツ玉について話しているというのに、なぜか夜の営みについて聞かされていた。


「局部からハ(イエルフの)恥蜜ちみつを分泌しますから」

「汚ええぇぇっ!!」


 絶叫する俺。ハ恥蜜だなんて最悪だ。しかし、投げ捨てるわけにはならない。大精霊との会話を上手く進めるにはハチミツ玉は必須アイテムなのだから。


 滅茶苦茶不快だけど、一応は礼を言っておくか。これでも相手は皇妃様であるのだし。


「まあ、ありがとうございます。俺は先を急ぎますので」


「あらまあ、次に会ったときには子供の顔を見せてちょうだいね?」

「だからミアは死んでいるので不可能です!」


 言って俺は手を挙げる。次なる目的地は精霊の森。エルフの国に長居する用事などなかった。


 俺たちの馬車がコロポルックをあとにしていく……。

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