思わぬ変化
ベルカさんと支配契約を果たしたミア。ようやく満足したのか身体の支配権を俺へと戻している。
鼻血を出して突っ伏したはずの俺だったが、事の顛末は理解できていた。身体の支配権がなかっただけで、暴走するミアが経験したことは俺の記憶として残っている。
「おいミア、お前は何てことをしてくれたんだ?」
流石に文句も言いたくなる。俺は巨乳の仲間が増えるたびに弱体化していくのだ。移動手段が手に入ったのは有り難いけれど、今以上のステータスダウンなんて望むはずもない。まあ、パイナップルは好物だけどな。テラなパイがプルンプルンって最高……じゃなくて、実にけしからん。
『旦那様、不必要になれば殺せば良いだけですよ。今は利用できるだけ利用しましょう』
本当に悪魔的な思考である。俺を騙そうとしていたのは理解したけれど、奴隷以下の存在に落としてしまうなんて俺には考えられなかった。
「クリエス様、あたしのことはゴミ以下の扱いで構いません。お金も身体も好きにしていただいて結構ですので」
流石に奴隷落ちした女性を好きにしたいとは思えない。俺は巨乳好きであったけれど、一方的な恋愛を望んでいるわけではなかった。
「こうも従順になるものか?」
『そりゃそうですよ。支配権は私にあり、身体を有する旦那様にもあるのですから。このハーフは既に死んでいるようなものです。生物としての扱いすら必要ありません』
罰としては殺されるよりも酷いように感じる。もうベルカさんには何の決定権も残っていないなんて。
契約前は悪霊の存在に気付かなかったベルカさん。支配契約をして俺の魂とも接続した彼女は今やイーサをも認識できるようだ。
『ま、妾も珍しく駄肉と同意見じゃの。この娘を男どもに貸し出して、旅の路銀とすれば助かるのじゃ』
「本物の悪魔であるチチクリの方が、お前たちよりもずっと聖人だったよ……」
流石は悪霊である。その分類に相応しい邪悪な思考。二人はベルカさんを壊れるまでこき使うことで、意見が一致していた。
『旦那様を殺そうと考えていたのです。生温い死を与えてはなりません。徹底的に精神を削り取り、廃人となるまで使い倒すべきですから』
もう俺にはどうしようもなかった。俺まで騙そうとしたのはベルカさんの失態である。俺には強大な悪霊が憑いているのだ。ベルカさんは、その彼女たちを怒らせてしまったのだから。
「まぁたレベル上げしなきゃいけねぇな。とりあえずベルカさんを売るのはなしだ。俺はこれでも聖職者だし、売るのも買うのも御法度なんでな……」
『旦那様がそう仰るなら……』
一応はミアも溜飲を下げている。怒り狂っていた彼女ではなくなっていた。
「あとイーサとミア、もう二度と俺の身体を乗っ取るなよ。同意なく身体の支配権を奪った場合……」
俺は考えていた。罰則くらいでこの二人は抑え込めない。だとすれば俺が取るべき対応は一つしかなかった。
「俺は自害して輪廻に還るからな?」
衝撃的な話だったのか、二人は取り乱す。流石に考えていなかったらしい。自ら命を絶ち、天に召されるなんてことは。
『婿殿、妾はずっと一緒にいたいのじゃよ! この先を一人で過ごすなんて考えられんのじゃ!』
『旦那様、この私めに罰をお与えください! 旦那様のいない世界など考えられません! どうかご再考願います!』
彼女たちの返答に俺は眉根を寄せている。
確か憑依した霊体は魂を共有しているのだ。もし仮に依代が失われたのなら、霊体は同時に消失してしまうはず。なのに彼女たちは、まるで俺だけが天に還るような口ぶりである。
「まさかと思うが、お前ら俺が死んでもこの世に留まるつもりか?」
ジト目をして聞く。彼女たちは俺共々失われるつもりがないとしか考えられない。また裏を返せば、再び身体の支配権を奪うつもりだとも受け取れた。
『わ、妾は婿殿の言うことを聞くぞ! ただ危なくなれば別のものに憑依する……』
『旦那様の如何なる要望にも、私はお応えする所存です! ただ最後の時はお見送りさせて頂きます……』
一蓮托生かと思われた悪霊だが、やはり邪悪な思考をしている。俺は軽蔑の眼差しで彼女たちを見ていた。
「お前たちの考えはよく分かった。俺は共に死ぬこともできない存在だったんだな?」
俺の台詞に悪霊の二人は声を詰まらせる。流石に悲しげな表情は見たくないらしい。一応は彼女たちも俺を慕ってついてきたのだから。
『ぐぬぅぅ……。妾に捨てられたと思って不貞腐れる婿殿は萌えなのじゃ。いいぞ、妾はその時、一緒に天へと還ってやろう!』
「いや、だから身体を乗っ取るなという話なんだがな……」
まずはイーサ。彼女は俺と共に天へと還る決意を口にしている。
『私も旦那様と一緒にイキます! 夫婦は永遠なのです! たとえこの世に存在がなくなったとしても!』
「俺が頼んでいるのは一緒に消え去ることじゃねぇよ……」
ミアもまた俺と共にあることを誓う。俺の死が自身の最後であることを。
「なら二人とも女神に誓え。ここに契約を執り行う。もう二度と俺に楯突かないのだと制約を交わすぞ……」
俺は本気だった。契約魔法は得意分野ではなかったが、バナム大司教からもらった魔導書に契約魔法が記されていたのだ。魔導書を片手にだけど、俺はやり遂げてやるぜ。
『けけ、契約じゃと!?』
『そんなご無体な……』
やはり悪霊たちは口約束とするつもりだった。女神様は全ての親とも言える存在。よって世界を震撼させた強者といえども、契約をすれば逆らう術はない。
「嫌ならもう俺に取り憑くな。俺はお前たちに嫌気が差している。契約できないのなら、それまでだ。二度と口を聞きたくないし、姿も見たくねぇよ……」
俺の怒りは悪霊の二人へと明確に伝わっている。絶対に許してもらえないほど怒っているのだと理解できたはず。
『駄肉のせいじゃぞ!?』
『黙りなさい! 私は旦那様に誓います。全て貴方様の仰る通りに。契約が必要であれば契約します。私は従順な妻なのですから』
『ズルいのじゃ! なら妾も契約する! 妾は婿殿だけを愛する。この愛は永遠なのじゃ!』
どういう風の吹き回しか、二人は契約を受け入れている。もしも女神に誓ってしまえば、彼女たちは永遠に逆らえなくなるというのに。
頭を小さく上下させる。予想とは異なったけれど、二人が思いつきで取り憑いたわけではないと知れた。契約は世界において絶対なのだ。ベルカさんがミアに逆らえないように、女神に誓った内容は如何なる強者でも抗えない。
『婿殿、じゃから妾を嫌わんでくれい!』
『旦那様、愛しております! 存在が許される限り、貴方様と共に!』
俺はアイテムボックスから魔導書を取り出し、契約を始めた。
まずは女神に誓うのだ。名前と内容を明らかとする。
「大地を守護する女神に誓う。クリエス・フォスターに対し、イーサ・メイテル及びミア・グランティスは主従の関係を結ぶ。主たる者はクリエス・フォスターであり、従たる者はイーサ・メイテル並びにミア・グランティス。如何なる場合も主の命令を遵守し、従は全てを聞き入れるものとする」
述べられる文言は契約の内容である。魔道書にある契約は俺が知るものと少しばかり異なっていたけれど、この機を逃して二人に服従させる機会はない。今はバナム大司教に貰った魔道書を信じるだけだ。
「主たるクリエス・フォスターは誓う。従たるイーサ・メイテルは誓うか?」
ここでイーサが誓う番。同意すれば彼女は俺の従者となってしまう。
『妾は誓うぞ。この愛こそは本物なのじゃ。妾は存在の全てをクリエス・フォスターに捧げよう』
イーサが誓った。契約以上のことを彼女は言ってのける。存在の全てを俺に捧げるのだと。
「従たるミア・グランティスは誓うか?」
『私はいつ何時もクリエス・フォスターと共に歩みます。主人たるクリエス・フォスターの意を汲み、常に寄り添うと誓います』
ミアもまた同意していた。これにより悪霊の二人は行動を制限される。世界を治める女神にその名と制約を誓ったのだから。
「ここに契約を成す。大いなる世界と守護者たる女神の下に制約は結ばれた……」
俺の手から輝きが放たれる。それは瞬く間に悪霊の二人へと降り注いだ。神を保証人とする契約がこれにて完了となる。
『ぐぁぁあああっ!?』
『きゃぁあぁあっ!?』
流石に神聖魔法による契約は悪霊の二人にはキツかったらしい。身体を焼かれるような感覚が二人にはあったはずだ。
しかし、程なく絶叫は収まり、契約は問題なく成されている。
「よし、お前たちはもう俺の従者だからな?」
『婿殿、少しくらい優しくしてくれなのじゃ』
『旦那様、これで名実ともに夫婦となれましたね……』
疲労困憊の二人。しかし、契約は成立している。俺はステータスの弱体化を被ったものの、結果として信頼できる戦力を手に入れていた。
刹那に脳裏へと響く通知。何故だか分からないがステータスに変化が起きたらしい。
『女神の加護が昇格できます。昇格しますか?』
通知内容は何故かシルアンナの加護であった。アイテムボックスから各種通知までを行う便利なものなのだが、それが昇格できるらしい。恐らくは何らかの通知が発生し、先にシルアンナの加護が昇格要件を満たしたのだろう。
「マジか。まあシルアンナの加護は昇格しておくべきだ。昇格するぞ!」
即座に了承する。どうなるのかまるで分からなかったけれど、女神の加護をアップデートしていた。
『シルアンナの加護はシルアンナの寵愛へと昇格しました。以降はいつ何時も交信することが可能です』
どうやら昇格した[シルアンナの寵愛]はいつでも彼女と通話できるスキルのよう。教会に駆け込まずとも報告できるようになるようだ。
「おお、なかなか使い勝手が良さそうな昇格じゃねぇか。ちょうど報告したいことがあるし!」
俺は早速とシルアンナの寵愛を実行する。悪霊の二人を遂に従順な配下としたことを伝えようと考えた。とても便利で有能なスキルに昇格したと思う。
有能スキルを実行し、待つこと数秒。
『はい、シルアンナです。只今留守にしております。ピーッと鳴りましたら、ご用件をお話しください……』
「まるで使えねぇな、コレ!!」
思わず声を荒らげてしまう。話したいことがあったというのに、留守だなんてと。
「ちくしょう……」
俺が溜め息を吐いていると、再び脳裏に通知音が響く。
困惑するしかない。なぜならその通知は脳裏に延々と鳴り響いていたからだ。
『サブジョブ[ネクロマンサー]を獲得しました』
『サブジョブ[魔王候補]を獲得しました』
『スキル【催淫】を獲得しました』
『スキル【死霊術】を獲得しました』
『スキル【腐食術】を獲得しました』
『火属性を獲得しました』
『風属性を獲得しました』
『ファイアーアローを習得しました』
『ウインドカッターを習得しました』
『プロージョンを習得しました』
怒濤の通知に息を呑む。加護の昇格にはガッカリさせられたものの、続けられた通知はにわかに信じ難いものであった。
何しろ、俺は普通の契約を結んだだけ。
魂を取り込んだわけではなかったのだ……。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




