↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
煩悩まみれの聖職者と女子高生(悪役令嬢)だけで世界を救うって本気ですか? 〜終末世界は残念な二人に託されました〜  作者: さかもり
第二章 各々が歩む道

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/190

宿場町ココナ

 聖都ネオシュバルツを発ってから一ヶ月が過ぎていました。


 わたくしたちはアルテシオ帝国へと入っています。帝都ラベンズリはまだ先でありましたけれど、街道沿いにあるココナという宿場町で一泊することに決めました。


「お嬢様、宿が取れました。あまり良い宿ではありませんけれど……」

「エルサ、何も問題ございませんわ。それよりお腹が空きました……」


 疲れよりも空腹を気にするわたくしをおかしく思ったのか、エルサは笑みを浮かべています。


 この一ヶ月は歩き通しでした。時にトレーニングと走ったりもしたというのに、わたくしは疲れを感じておりません。やはり幼い頃から鍛え上げている成果が出ているのでしょうかね。


 到着した宿の一階はどうやら酒場となっているようです。皆さん、楽しげに大騒ぎしていますね。


「エルサ、これが噂に聞く場末の酒場なのね!?」

「お嬢様、声が大きいです……」


 ココナの宿はどこも満員でした。従って、わたくしたちはスラム的なストリートにあるお宿に決めたのです。エルサ曰く公爵令嬢に相応しくないみたいですけれど。


「わぁ、とても賑やかですわ!」

「お嬢様、コレは騒がしいというのです。あまりキョロキョロとして絡まれないように……」


 酒場は飲めや歌えやの大騒ぎでした。あちらでは何かの試合なのでしょうか。空き瓶を振り回して戦われている人たちの姿もありますね。


「エルサ、わたくしたちもここで食事にしましょう!」

「本気ですか? 部屋で食べた方が安全ですよ?」


「郷に入っては郷に従えと言うではありませんか? わたくし、このような食事処は初めてです。白金貨で足りるでしょうかね?」


「銀貨でも余ります! お願いですから、迂闊に白金貨を取り出さないでくださいよ?」


 生憎とわたくし、白金貨しか持っておりませんの。どうやら足りないみたいですわね。

 基本的にエルサが全て支払いをしてくれることになっておりますので、恐らくお父様に白金貨を何万枚もいただいているのでしょうね。


 エルサがお料理を注文してくれたので、わたくしたちは席に着くことに。


「皆さん、何かいいことでもあったのでしょうか? とても楽しそうです!」

「酒を飲んで浮かれているだけですよ。視線を合わせないよう願います」


「あっ! あそこの方、樽を抱えてお酒を飲んでいますよ!」


 エルサはどうしてか頭を抱えています。

 きっと大道芸人とかいうお方ですわ。あのような飲み方ができるなんて、そうだとしか思えません。ならば、わたくしは拍手をして応えなければなりませんね。チップは白金貨で足りるのかしら?


「おうおう、嬢ちゃんよ。ワシらを見て笑っていただろ?」


 樽を抱えてお酒を飲んでいたグループのお一人がわたくしたちの元へと。まあでも、わたくしは樽を抱えた方が飲み干せるのか見届けなければなりません。大道芸人様への賛辞は盛大な拍手が必須なのですから。


 ドワーフ様と思しき方の声にはエルサが対応してくれます。わたくしは拍手で忙しいのでお願いしますね?


「何か問題でも? 馬鹿にしているというより、我が主人は樽酒の一気飲みを応援しているだけだぞ? それにこの方を怒らせるのは貴殿のためにならない。見ての通り無害なお方。喧嘩を売ったわけではなく、純粋に楽しんでおられるだけだ……」


「知ったこっちゃねぇ! お前たちには夜の相手をしてもらうからな!」


 わたくしは熱中していたので事の顛末を知りません。ドワーフ様が大声を上げるや否に、エルサの剣が彼の喉元を捉えていたなんてことは……。


「ま、待て。ちょっとした冗談だ……」


「ほう、貴様は刺し殺されても文句は言えんのだぞ? 我らに夜の相手を強要しようとしたのだからな?」


「悪い。許してくれ。身の程知らずな女だと勘違いした……」

「私に許しを乞うな。我が主人に聞けばいい」


 エルサがそう言うと、ドワーフ様は視線だけをわたくしに向けました。しかし、わたくしは忙しいのです。話しかけられないのであれば、拍手をしていないと。


「嬢ちゃん、こっちを見てくれ! 素直に謝るから……」


 んん? 良いところなのに。嬢ちゃんとはわたくしのことですよね? エルサは妙齢ですし。


 振り返ると、エルサは剣先をドワーフ様の首筋に突き立てていました。何が何だか分かりませんでしたけれど、エルサが意味もなく武器を取り出すとは思えません。


 きっと、彼は悪漢様ですわね? 冒険に出た主人公たちが意味もなく絡まれてしまうというイベントですわ。


 であるのなら、話は早いです。わたくしは毅然と悪を裁かねばなりません。


「オジ様、わたくしは酒場の雰囲気を楽しんでいるのです。わたくしが楽しんではならない決まりごとでもあるのでしょうか?」


 ドワーフ様は眉根を寄せておられます。わたくしの返答が理解できないのでしょうかね。


「いや酒場は楽しむべきだ。誰であろうと金さえ払えばその権利がある。それよりこの状況を見て、何か思わんのか!?」


「貴方様がわたくしの従者に剣を突き立てられている理由でしょうか? わたくしたちの権利を奪おうとしたからでしょう? エルサは意味もなく剣を抜きませんわよ?」


「だから謝っている。ワシを許してくれ!」


 少しずつ押し込まれる剣先。ドワーフ様の首筋からは血が流れていました。

 でも、わたくしは動じませんの。既にわたくしは何人も斬った経験があるのですから。


「それは剣を突きつけられたからでしょう? もし仮に、わたくしたちが無抵抗なら貴方様はどうされましたか?」


 ドワーフ様は息を呑んでおられます。小娘からこのような返しがあるとは考えていなかったのかもしれませんね。


「すまん……。弱者ならば今晩の相手を願おうと考えていた……」


「素直なことは美徳であります。けれど、貴方様の目的は条理の埒外です。魂を浄化するためにも、相応の報いが必要かと存じます……」


 柔らかい口調で告げました。

 わたくしは悪役令嬢ですの。無慈悲な命令でも余裕ですわ。まして彼は弱者と強者に対して立場を変えるような悪党です。見逃したとして、世界にとって良いことかどうかは明らかでした。


「お嬢様、この不埒ものを処分しても?」


「待ってくれ! 謝る! ワシは反省してるんだ!」


「本当にそうでしょうか? ココナに到着する道中で悪漢様と遭遇しましたけれど、わたくしを前にして悪漢様は同じように懇願していました。どうか助けてくれと……」


 わたくしたちの会話に全員が聞き入っているようです。酒場は静まり返り、固唾を呑んで誰もが見守っています。


 ここは悪役令嬢の見せ所ですわ。わたくしの悪評がこの酒場から世界中に拡がっていくことでしょう。


「わたくしはその悪漢を斬りました――――」


 わたくしの話に見守る者たちはオッと声を上げています。

 どうやら理解してくれたみたいですわ。場末の酒場に現れたわたくしたち。身の程知らずどころか、この場で誰よりも強者であることを。


「や、やめてくれ……。ワシには妻も子供もいるんだ……」


 最後の懇願にもわたくしは首を振る。相手のことなど考えず、最後まで自分勝手な彼に対して。


「ならば、わたくしに想い人がいないとでも?」

「そんな意味じゃない! どうか助けてくれ!」


「貴方様は同じような状況で弱者を助けた経験がおありで?」


 何を願っても無駄ですの。相手が弱者と知れば、徹底的に貪り尽くす。こういったイベントに現れた彼の素性など分かりきっているのですわ。


「であれば、ご自身も殺されて然るべきではないでしょうか? 何か弁解することはございますか?」


「ワ、ワシは……」


 わたくしは思案していました。ここで見逃したとして、恐らく彼は同じ過ちを繰り返すでしょう。

 かといって、輪廻へと還すほどの重罪かどうか。生きて罪を反省させなければ、魂の浄化にならないのではないかと。


「お嬢様、足か腕で勘弁してやりますか?」


「やめてくれ! ワシは鍛治師なんだ! 働けなくなってしまう!」


 せっかくエルサがフォローしてくれたというのに台無しだわ。

 罪を認め、罰を受け入れるなら見逃すことも考えられたというのに。しかし、ドワーフ様は最後まで自分のことしか考えておられません。


「エルサ、命まで奪う必要はありませんわ。右腕を罰とします。反省と後悔。生きている限り思い出し、魂を浄化できるように……」


「だそうだぞ? 良かったな。貴様は明日を迎えられるらしい」


「いや、腕を切られたら失血死するだろ!?」


「お嬢様は神聖魔法の使い手でな。ヒールにて止血するので死にはせん……」

「せめてハイヒールだろうがよ!? ヒールじゃ死んじまうって!?」


 ヒールは基本的に細かな傷しか治療できません。深い傷の止血はハイヒールの使用が適切です。けれども、わたくしの信仰値は高く、ディーテ様に祝福をもらってからは神聖魔法の効果が大幅に増強されていたのです。


「し、死にたくねぇ……」


 ドワーフ様は声を絞り出しますが、エルサは剣を振り下ろす。彼女は躊躇いなくドワーフ様の右腕を切断してしまう。


「ヒール!」


 即座にわたくしの神聖魔法が酒場を照らす。血飛沫が飛び散ることなく傷口を塞いだ。予想通り、肩の断面くらいであれば問題ありませんでした。神秘的な輝きによって、少しの血も流れなかったのですから。


 刹那にゴトンとドワーフ様の腕が落下する。わたくしが唱えたヒールは斬り落とした腕の傷さえも癒やしていました。


「ワワ、ワシの腕が……」


「はん、貴様は救済されたのだ! このお方は聖女様である! 本来なら斬り捨てられるところを反省し、真面目に生きる機会を与えられたのだ!」


 エルサの口上に酒場がどっと湧く。どうやら聖女が現れたとの話は既に知れ渡っているみたい。


 困惑するわたくしを余所に、全員が信じてしまったようです。まあ確かに、今し方のヒールは魔法の基礎効果を遥かに超えていましたし、異質な輝きを放っていましたから。


「お客さん、すまないね。こいつはいつも女性客に難癖をつけるんだ。斬り殺しても良かったんだがな……」


 ここで店主様らしき男性がわたくしたちに近寄ってきました。注文した覚えのないお肉の炒め物をテーブルに置きつつ、地面に這いつくばるドワーフ様を睨みつけている。


「店主よ、ならば衛兵に突き出せばいいじゃないか? 放置するから問題が先送りされるのだ」


「衛兵とか誰よりも信用できん。地方の役人は袖の下次第なんだよ。貧乏人の要望を聞き入れてくれるような役人などいない。ココナは表向き賑わっているけれど、それは富裕層だけの話。政治は腐敗して、改善する見込みもないんだ。低所得者は高額の税金を払うために、寝る間を惜しんで働くしかない」


 どうやら宿場町ココナは法が遵守されていないようですの。安い宿しか空いていなかったのは、恐らく安全が保証されていないからでしょう。


「ならば他に斬るべき客はいるか?」


「ああいや、今は問題ないよ! まあでも、このストリートには善人の方が少ないかもな。正直に住人は危険と背中合わせで暮らしている。用心棒を雇う余裕など、このストリートの住人にはないのだから……」


 店主様はココナの情勢を色々と教えてくれました。商人たちの往来で賑わっている傍ら、犯罪が横行しているようです。しかも大金を支払わねば、犯罪であったとして役人を動かせないのだと。


「それは許せません。エルサ、役人と会えますか?」


「お嬢様、聖王国内ではないのですよ? お嬢様であれば面会くらいは可能でしょうけれど、明らかに内政干渉です」


 エルサは首を振っています。他国の政治に首を突っ込むのはタブーなのだと。聖王国の公爵令嬢といえども、それは変わらないようです。


「テオドール公爵家の名を出してもでしょうか?」


「それこそ問題になります。お嬢様がココナの現状を肯定できないのは分かりますけれど、身にふりかかった火の粉以外を払うなどあってはなりません」


 公爵家の名を出せば解決する問題かもしれない。聖王国に逆らえる国があるはずもなく、甘んじて受け入れることでしょう。しかし、公爵家に対する不満が利権者から噴出するはずで、お父様に対して抗議の声が上がるかもしれません。


「だったら、わたくしが火の粉を被れば問題ないですね?」

「お嬢様ぁぁっ! そういった話ではありません! 越権行為だと申しているのです!」


 エルサは訴えるも、わたくしは首を振る。せっかく縁あって泊まることになったのです。自身にできることで改善を図れるというのなら、是非とも何とかしたいですわ。


「エルサ、わたくしの旅は成長だけでなく、悪評を覆すという目的もあるのです。どん底に落ちた世間の評判を改め、わたくしは正しき道を歩むのですよ」


「覆す悪評などありませんけどね!?」


 評価がいつどん底に落ちたのかとエルサ。しかし、わたくしの中では追放された体で話が進んでいるのですわ。


「とにかく世直しは旅の醍醐味ですよ? わたくしたちにその力があり、愛すべき民が困っているのなら、手を貸すべきです。わたくしたちは世のため人のために立ち上がりましょう!」


「お嬢様はどこまで聖女なのですかぁ?」


 嘆息するエルサですが、もう決めました。先を急ぐ旅でもないのですし、ここはわたくしの悪評を覆すイベントにさせていただきましょう。


「しかし、火の粉を被るといって、どうするのです? スラムを歩いたとして悪漢に絡まれるだけで、根本の問題は残ってしまいますよ?」


「わたくしに考えがございます。まずは明日の朝一番に教会へとまいりましょう」


 わたくしの返答にエルサも頷いております。

 ディーテ教会であれば、助力を得られる可能性は高いのです。何しろディーテ教団は北大陸の全域に支部を持っております。ディーテ教団であれば国は関係なく、公認聖女であるわたくしは彼らの助力を得られることでしょう。


 朝食後に教会へと行く約束をして、わたくしたちは眠りにつくのでした。

本作はネット小説大賞に応募中です!

気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!

どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
当方ランキングサイトに参加しております。
↓(灬ºωº灬)ポチッとな↓
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。