報酬
アーレスト王城へと戻った俺は早速と報告を済ませている。
古代遺跡がダンジョン化したこと。そこにダイヤモンドアントという昆虫がいたこと。ダンジョンコアを破壊したことまで。
「むう、凄まじいな。討伐した魔物の量や危険度。よくぞ踏破してくれた……」
既に俺は討伐した魔物の亡骸を全て王国に預けている。ダイヤモンドアントはゴミにしか見えないが、一応は持ち帰っていたのだ。
「本当にダンジョン化していたとは……」
「やはりスタンピードの直前だったかと思います。正直に危うい状態でした」
俺の話は誇張ではないと、居合わせた全員が理解している。何しろ大量の亡骸を見せられたあとだ。全てが一斉に漏れ出したとすれば、被害は甚大であったことだろう。
「クリエスとやら、卿は王国に忠誠を尽くすことができるか?」
ここでアーレスト王が聞く。それは恐らく貴族としてこの地に留まれるかという話じゃないかと思う。
「王様、俺には使命がございます。詳しくはお話しできませんけれど、俺がこの地に留まることは叶いません」
この返答により爵位をもらえなかったとして、俺はその話を受諾するわけにならなかった。
俺は生きてヒナに会うことを、この人生における最大目標としていたのだから。
「俺は王国に留まれません。たとえ爵位という報酬があろうとも。信念というか、俺には旅立つ理由がございます。お気に触ったのなら、報酬は必要ありません。その場合は魔物の素材も他国で売ることにします」
毅然と答える俺に謁見の間はざわついていた。事前に取り決めていた報酬は子爵位という前代未聞の待遇である。それを放棄するなんて居合わせた者たちには理解できなかったことだろう。
「卿は王国の爵位が欲しくないのか?」
「いえ、身分証明として欲しくはあります。けれど、領地運営など考える余裕が俺にはないのです。今はただ北大陸を目指すだけ……」
俺の意思が固いことは全員が理解できたはずだ。このままではスタンピードから救った俺と喧嘩別れになることも。
騒々しい謁見のまであったけれど、大臣らしき老人がここで口を開いた。
「アーレスト王、私めの意見を少しばかり考慮いただければと。クリエス殿は我が国の窮地を救った英雄です。あれだけの魔物をソロで討伐する猛者であります。この地に留まらないからと、軽く扱うべきではございません……」
大臣らしき老人の意見。王様は頷いていた。
提出した魔物の量や質。どうやら大臣は俺の実力を買ってくれているようだ。
俺としては報酬よりも自由が欲しい。彼が俺の意を汲んでくれることを願うしかない。
「クリエス殿はまだ十六歳です。世界を見て回り、見聞を広めるのはとても良いことだと考えます。既に実力は明らかであり、彼と良好な関係を築くことは王国にとって悪いことにはならないでしょう。たとえ他国に仕えることになろうとも、我らは誠意を見せるべき。此度のダンジョン化において損害が少しもなかったのですし、出し惜しみするものではありません。また若き人材をひと所に閉じ込めてしまうのも良いとは思えないのです」
大臣の意見をアーレスト王は聞き入れたかのように、うむっと声を上げた。
俺としては願ったり叶ったりだ。アーレスト王国と敵対するつもりはなかったし、褒美がもらえるならそれに越したことはないのだから。
「バーンズよ、ならば卿に何を与えるべきだ?」
アーレスト王の問いにバーンズという大臣は頷きを返す。彼は既に適切な報酬を考えているのかもしれない。
「やはり予め約束したことは守るべきです。子爵位を用意し、留まるかどうかで所領か金銭かを選んでもらいましょう。名ばかりの子爵など過去に例がありませんけれど、構わないではないですか? 私はそれだけの価値がクリエス殿にあると考えます。金銭を選ぶならば白金貨5枚程度が今回の褒美として適当かと存じます」
俺は息を呑んでいた。所領が与えられたとして辺境の山々に違いない。留まるつもりのない俺には白金貨5枚の方が遥かに魅力的であった。
どうやらアーレスト王も異論はないようだ。バーンズ大臣を信頼しているのか、笑みを浮かべながら頭を上下させた。
「クリエス殿、どうですかな?」
バーンズ大臣は俺にも確認する。もしも俺が同意するのであれば、何の問題も残されていない。俺と敵対しないことを第一として、できれば好感を抱いてもらうことがバーンズ大臣の思惑じゃないかと思う。
「俺は北大陸へ渡るという目的がございます。渡航費の問題もありましたし、所領よりも金銭にて報酬をいただきたいと考えております」
俺の返答にバーンズ大臣だけでなく、アーレスト王もまた頷きを返している。
これにて報酬は決定した。所領を与えないということは一代貴族であり、名ばかりの子爵となる。
まあでも俺は他国の出身者だし、俺に所領を与えたとして不満が噴出するのは明らか。ならば結果として王国にとっても悪くない話であるはずだ。
「ならばクリエス・フォスターに子爵位を授ける。報酬は大臣から受け取るが良い。此度の貢献を儂は評価しておる。フォスター卿、感謝するぞ」
アーレスト王から正式な話があり、謁見の間は万雷の拍手で満たされていた。
俺も満足している。元祖国に貢献できたことだし、報酬も充分だ。これ以上を望んでは罰が当たるってもんだぜ。
「ではクリエス殿、しばしデカルネに滞在して欲しい。報酬が白金貨となれば、流石に即日払いというわけにもならんでな。またフォントーレス公国とは異なり、我が国は卿が王国の貴族を名乗るべく家紋を授けたいと思う。明日の朝には英雄に相応しいものを用意するので、本日は街の散策でもして時間を潰してもらいたい」
最後にバーンズ大臣がいった。やはり彼は俺の好感度を気にしている。公国との差別化はその最たるものじゃないかと思う。
「承知しました。朝一番に王城へ戻ればいいでしょうか?」
「うむ、大急ぎで用意させる。楽しみにしておいてくれ」
再び俺は礼をして、王城を去って行く。
報酬がもらえるまで懐かしさすら覚えるデカルネの街を散策しようと考えていた。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




