覚悟
僧兵たちを一掃したわたくしは、クサカリマルを鞘に収めてエルサと視線を合わせました。
人を斬ったのです。覚悟はしていたけれど、流石に気分の良いものではありません。恐らく、今のわたくしは曇った表情をしていたことでしょう。
「お嬢様、おみそれしました。貴方様の覚悟を私は誤解していたようです」
エルサは頭を下げていました。
どうやら、わたくしを虫も殺せぬ聖女と考えていたのでしょうね。とはいえ、自分でも驚いていました。問答無用で悪漢様を斬り捨てられるなんて。特に慈悲を求められた場面は心が揺らいだものですけれど、わたくしが斬らねばならないと感じました。わたくしは女神様の使徒であり、彼らは明らかに悪。女神様たちが守護するアストラル世界の敵であったのですから。
「エルサ、わたくしは我儘なのです。いつも自分中心に生きてきました。結果として聖女と呼ばれたりもしていますが、本質は自分勝手でしかないのです」
エルサはわたくしの話に顔を振っています。どうしても、聖女とのイメージが頭から離れないのかもしれません。
「こんな今もレベルが10も上がったと喜んでいるのよ?」
本心をいうと罪悪感はありました。それこそ冗談を口にして誤魔化さねばならないくらいに。
でも、エルサを不安にさせてはならないのです。わたくしは戦えるということを示していかなければ、これまで剣術の稽古に付き合ってくれたエルサに申し訳が立ちませんもの。
「わたくしは我を通します。18歳以降も生を続け、自由で素晴らしい人生を送るつもりです」
わたくしの話にエルサは目尻の涙を拭っています。どうしてか彼女は涙していました。
「なぜ泣いているの?」
「いえ、お嬢様は幸せになるべきです。貴方様が背負ってきたものは重すぎますよ……」
どうやらエルサはわたくしの制約 を案じているみたい。
確かに何事もなければ、わたくしは自由でした。公爵令嬢であったわたくしは素晴らしい人生を歩んだことでしょう。しかし、何事もないわたくしなど存在し得ない。制約を課せられない世界線は、わたくしが転生できなかった未来にしかありません。
「お嬢様、きっと楽しく美しい未来が待っていますよ。お嬢様の人生に平穏が訪れるまで、私は微力ながらお手伝いさせていただきます」
公爵令嬢の護衛兼メイドだなんて、最初は気乗りがしなかったでしょう。一介の冒険者であったエルサはその報酬に惹かれただけだと思います。
しかし、今やわたくしの良き理解者です。一人でお買い物すらできないわたくしに寄り添ってくれる大切な人ですわ。もし仮に姉がいるとするならば、エルサのような人が良い。尊敬と親愛を込めて、わたくしはエルサの存在に感謝しなければなりません。
「ありがとうエルサ。もう少し歩きましょう。わたくしには時間がないのですから」
もしも幼い子供が自分の人生に残された期間を十八歳までと告げられたとしたら。子供たちは一体どんな反応をするでしょう。
わたくしは意味のないことを考えてしまう。恐らくは泣き喚き、真摯に受け止めきれないはず。残された時間を無下に過ごし、そのときを迎えてしまうに違いありません。間違っても一人で背負っていくなんてできなかったことでしょう。
しかし、わたくしは転生者。予め決められた枠の中でしか生きられない。それを知って転生したのです。不平不満があるわけでもなく、悲嘆に暮れる要素にはなり得ない。
全ては、わたくしが選んだ人生なのです……。
「お嬢様、私は聖女の守り人です。世界の光である貴方様を守護し、この世界が闇に染まらぬよう行動するだけですから……」
エルサもまた決意を口にしています。世界の光だなんて大仰な評価ですけれど、わたくしは彼女の期待に応えられるよう、これからも精進していくつもりですわ。たとえ強大な存在が行く手に立ち塞がっていようとも。
互いに頷き合ったあと、わたくしたちは歩き始めています。
地平の楽園という邪教の僧兵に襲われた事実。魔王候補や邪竜という災禍だけでなく、世界を破滅へと向かわせる邪神の復活がにわかに近づいているのだと感じさせます。
更なる脅威が混沌へと世界を誘っているのだと……。
本作はネット小説大賞に応募中です!
気に入ってもらえましたら、ブックマークと★評価いただけますと嬉しいです!
どうぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m




