故郷を離れて
わたくしたちは聖都ネオシュバルツをあとにしていました。馬車での移動は何度もありましたが、わたくしにとって街の外を歩くのは初めてのことなのです。
「エルサ、道中の魔物は任せて!」
「お嬢様、最初からそんなに張り切らなくても……」
エルサが話す通りでしたが、これから始まる旅路にわたくしは昂ぶっているのです。幾つもの街道を進み、数多ある町に寄っていく。そう考えただけでも、ジッとしていられませんの。
張り切っていたわたくしですけれど、やはり聖都に近い街道には魔物など現れません。警備兵様や冒険者様たちによる駆除がなされており、安全な旅が約束されているみたいですわ。
「エルサ、走って行きましょう! 鍛錬です!」
何もすることがありませんでしたので、わたくしは走り出します。正直にエルサは急ぐ必要もないと考えていたでしょうけれど、ここは強制ロードワークですわ。
「お嬢様、なかなか体力がついてきましたね?」
自分でも驚いています。前世では二百メートルしか歩けなかったわたくしが、一時間も走り続けていたのです。エルサも目を細めるほど、体力が付いてきたみたいね。
「当たり前よ! わたくしは旅立つ時のために身体を鍛え上げていたのよ?」
まだ余裕がありました。本当に前世とは大違いですわね。
恐らく、これから先にある旅路も問題ないでしょう。出来る限り魔物と戦う目的で徒歩を選択しているのですから、疲れ果ててエルサが全て倒すという事態は避けなければなりません。
日が傾き、西日がキツくなった頃。街道脇には岩山が多くなっていました。
「お嬢様、何者かが尾行しています……」
エルサが小声で語りかけます。振り返ることなく、エルサは気配を感じ取ったみたい。
「魔物じゃないのね?」
「恐らく盗賊かと。相手はお任せください」
エルサは盗賊を引き受けてくれるという。それはそのはず、わたくしは人を斬った経験がありません。旅の初日からトラウマを抱える必要はないといった配慮でしょうか。
「いいえ、わたくしは躊躇いたしません。相手が悪であれば、人を斬る覚悟も済ませておりますから」
初っ端から対人戦だとはついていないのかもしれません。まあしかし、わたくしの覚悟は既に決まっているのです。全てはディーテ様に誓ったままですの。
「分かりました。二人して対処しましょう」
しばらくは尾行されているだけ。でも、街道の両側が切り立った崖になったところで、状況が一変します。
「挟み撃ちでしょうか……」
前方に人影が現れていました。街から離れたこの場所に都合よく旅人がいるとは思えません。
「ふはは! 女の二人旅とか正気じゃねぇな!」
前方には四人。しかし、盗賊ではないように感じますの。何しろ四人は法衣のようなものを着込んでいるのですから。
「貴方様たちはどういった方々なのでしょうか? わたくしたちの後をつけている人たちと関係がおありでしょうか?」
わたくしが問うも、エルサは呆れていました。明らかに悪漢である彼らに対して、礼儀正しく問い質すなんてと。
「お嬢様、待ち伏せをする男どもが善人であるはずがありません。叩き斬って然るべき相手です。まともに名乗れる身分を持っているはずもありませんし」
「そうだせ、ピンク髪のお嬢ちゃん。お前が聖女と呼ばれているんだろ?」
ますます怪しい発言ですわね? どうやら、わたくしが聖女と呼ばれていると知って尾行していた模様です。でも失礼しちゃいますの。わたくしは聖女ではなく悪役令嬢ですわ。
「それで貴方様は何者でしょうか?」
マイペースに問い続ける。エルサも慌てた様子がありませんし、恐らく彼女には余裕がありそうです。どうして、わたくしたちを襲うのか、それを先に聞いておきましょうか。
「俺たちは地平の楽園。全員が僧兵だ。聖女の抹殺を仰せつかっている」
そういえばディーテ様から聞いていましたわ。地平の楽園という邪教の話を。ならば彼らは全員が敵なのでしょうか。
「地平の楽園様であれば、魂の浄化を。申し訳ございませんが、我が主神様より貴方様方の穢れた魂を解放するよう仰せつかっております。よって、わたくしは手加減できません……」
淡々と告げる。多勢に無勢であるのは明らかであったというのに、わたくしは強気で言い放っていました。
「笑わせるなよ? お前たちは十五人に囲まれているんだ。世間知らずなお嬢ちゃんだとは聞いていたけどな!」
代表して喋る男性はわたくしの話を笑い飛ばしています。女性二人が男性十五人を相手にどうやって抗うのか分からなかったようです。
「お嬢様、後方はお任せを……」
エルサはそう言いますけれど、わたくしは首を振る。ディーテ様から言付かった通りに、わたくしは彼らを殲滅して、レベルアップするつもりですの。なぜなら、わたくしは悪役令嬢。わたくしを殺そうとするのなら、それ相応の報いを与えなければならないのですわ。冷酷無慈悲な一撃を……。
「ハイプロージョン!!」
無詠唱で後方へと爆裂魔法を撃ち放つ。更には愛刀クサカリマルを抜き、わたくしは前方の男性たちに斬りかかっております。
この行動には流石にエルサも仰天していました。躊躇いなく殺傷力のある魔法を撃ったこと。加えて素早く斬りつけたわたくしに彼女は決意を感じ取っていたことでしょう。
「後方の残党は私が斬ります!」
「お願いね!」
瞬く間に僧兵様たちは数を減らしていきます。もっとも最初の爆裂魔法の時点で生き残りは僅かでしたけれど。
「お、お助けを……」
最後の一人は腰を抜かしていましたが、わたくしは容赦しません。
左手で空に十字を切ってから、クサカリマルを振り下ろすだけですの。
「弁明は天界にてお願い致しますわ――――」
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