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煩悩まみれの聖職者と女子高生(悪役令嬢)だけで世界を救うって本気ですか? 〜終末世界は残念な二人に託されました〜  作者: さかもり
第二章 各々が歩む道

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旅立ちの日

 わたくしの旅立ちの日がやって来ました。

こんなにも時間がかかったのには理由がございます。お父様がどうしても最高の盾と最強の剣を用意すると言って聞かなかったからですわ。


「ヒナ、どうだこの長刀は? 大金を積んで手に入れた偉大なる刀匠ナマクラ氏による業物だぞ?」


 わたくしは目を丸くしていました。なぜならお父様が手渡してくれたものは、よく見る長剣ではなく、明確に刀であったからです。受け取ったわたくしはその金額よりも、アストラル世界に刀が存在するのだと知って驚いています。


 しかし、ナマクラ氏と聞けば期待できませんわね。それは前世の単語を連想したからでありますが、同じ意味合いであれば名匠でも業物でもないことでしょう。


「公爵様、せっかくご用意いただいたのですが、お嬢様は刀の振り方を覚えておりません。従ってお嬢様には難しいかと……」


「エルサ、わたくしはこれを使います!」


 戸惑うエルサとは異なり、わたくしは目を輝かせていました。

 なぜなら、読み漁った漫画の主人公は押し並べて刀を使っていたのです。だとすれば、わたくしも同じように刀で戦ってみたいではありませんか。


「しかし、お嬢様……」


「わたくしはこれが気に入りました! お父様が買ってくださったものですし、今までの愛剣はアイテムボックスに入れて持っていきますから!」


 懇願するような目にエルサは弱い。わたくしが強くお願いすれば、きっと認めてくれるはずですわ。


「しょうがないですね……。毎日素振り千回ですよ?」


「ありがとう、エルサ!」


 やはり、エルサは優しいです。もう十年は一緒にいるでしょうか。当時、十代にして、異例のAランク冒険者となったエルサ。最強の冒険者になるという夢を捨てて、彼女はテオドール公爵家に仕えてくれたのです。以来、ずっとわたくしの専属メイドをしてくれていますの。


「ヒナ、刀の銘はクサカリマルという。何でも異世界に伝わる言葉を引用したらしい。なかなか格好いい響きだろ?」


 どうやら異世界転生を果たしたお方はそれなりの人数がいるのかもしれないですわね。

 刀の銘もまた転生者が面白がって教えたとしか思えないものです。ナマクラも草刈りも明らかに間違った選択であるのですし。


「それで盾なんだがな。こちらが苦労したのだ。数多ある武具工房でも誉れ高いベリルマッド工房の盾だぞ!」


 その工房はわたくしも聞いたことがありました。何代にも亘って名匠を生み、この世に幾つもの国宝級武具を排出している工房であると。


「お父様、どうして結界が張られているのでしょう?」


 お父様の指示で運ばれてきた盾はなぜかガラスケースに入っておりまして、厳重な結界が張られている感じです。


「それだけ業物なのだろう。私には解除できないが、ヒナならできるだろう? よってこのまま運んできたのだ。まあしかし、苦労したぞ。現在の親方は金貨を何枚積もうと首を縦に振らなくてな。頭にきたから工房ごと買い取ってやったわ!」


 まあ、お父様ったら。せっかちにも感じますけれど、良いお買い物ができたみたいですわ。自慢げなお父様を見る限りは満足されたみたいですけれど、どうしてかエルサは眉を引きつらせています。


「公爵様、工房ごと買収するなど幾らかかったのです?」

「うむ、白金貨二千枚だな!」


 エルサは目が点になっております。どうしたのかしらね? 白金貨二千枚ならお買い得でしょうに。盾だけでなく、お店までついてくるのですから。 


「お父様、それは良いお買い物でしたね?」

「実にお買い得だろう? ヒナのためなら一万枚でも支払ったというのに……」


「ちょっと待ってください! 小国なら数年分の国家予算ですよ!? どんな金銭感覚をしているのですか!?」


 エルサの話に、今度はわたくしとお父様の目が点になっております。まあでも、エルサが一国の財政状況を知るはずもないですし、きっと彼女の冗談に違いありませんわ。


 白金貨は万能ですの。前世から通して初めてお小遣いをもらったときのことです。わたくしはお父様から何でも購入できる引換券のようなものだと聞かされていました。現にお父様は盾を買うだけでなく、工房まで買ってしまいましたし、やはり白金貨は生活必需品ですわね。


「エルサ、我ら上位貴族は私腹を肥やすだけでは駄目なのだぞ? 世に還元していくことで経済は回るのだ。ヒナにもそういった教育をしている」


「いや、それは理解しますけれど、流石に規模が……」


 エルサは何とか反駁を唱えるも、お父様の勝ちですわね。万能引換券をお父様が独り占めしてしまえば、他の方々が何も交換できなくなってしまいますし。


「お嬢様、とにかく道中では無闇に白金貨を取り出さないでくださいよ? 一般市民は白金貨どころか、金貨ですら見たことがない者も大勢いるのですから。お嬢様が考えるより、世界には悪が蔓延っております。天然ぶりを発揮するのは私の前だけでお願いしますね」


「分かってるわよ、エルサ。わたくしは端銭になど興味ありませんし」

「金貨は端銭ではございませんから!!」


 わたくしは怒られているのでしょうか? エルサが何に苛立っているのか、全く理解できませんわ。まあでも、彼女は本気でわたくしを怒ることがありませんので、悩むだけ無駄ですの。


「エルサよ、そこもヒナの可愛いところだ。道中は必ずヒナを守ってやるのだぞ?」


 お父様の話に、エルサは素直に頷いています。

 本当に頼りになりますわ。メイドとしても優秀でしたけれど、旅に出るのならエルサの腕前に頼る場面が多くなることでしょう。


「ヒナお嬢様はアストラル世界の光です。彼女より優先すべきものなど、この世界にはございません。お嬢様の重要性については、よく理解しておるつもりです。アストラル世界がお嬢様を失うなど、あってはならないことですから」


 頭を下げてエルサ。わたくしの重要性って何かしらね? エルサには悪いのだけど、わたくしはクリエス様のオマケで転生したようなもの。もしも世界が救世主を求めているのなら、それはクリエス様に他ならないのです。


「とりあえず、結界を解除してみましょうか」


 神聖魔法【解錠】は物理的な鍵だけでなく、結界にも有効な魔法ですの。見た感じは大した結界でもなさそうですので、充分に対応できるはずですわ。


「解錠!」


 即座にガラスケースを覆っていた結界が解かれています。わたくしはそっとガラスケースを開き、ベリルマッド工房製の盾を手に取っていました。


 すると、なぜか脳裏に声が届いております。


『ふはは! あーしは遂に依代を手に入れたし!』


 何が何だか分かりません。しかし、エルサやお父様にはその声が聞こえないようで、わたくしの心に何者かが直接声を発しているのでしょう。


『貴方は誰?』


 心の内に念じてみます。応答があればいいのですけれど。


『あーしはサラ・マン・ダァァよ! かつて大精霊と呼ばれていたし。あーしが封印された盾を手に取った君はこれより身体の自由を失うし!」


 まるで意味が分かりませんわ。こんな今もわたくしは五体満足ですの。失うどころか、自由すぎる感覚しかありません。


『えっと、普通に身体は動くのですけど……』


『ムキー! どうして!? 封印は完全に解けてはいないけど、あーしの強制力が効かないなんておかしいし!?』


 サラと名乗った大精霊は、わたくしの身体を乗っ取ることができないようです。彼女は乗っ取れるものと疑っていなかったというのに。


 ふと、わたくしは思い出しています。


『しばらくは悪しき存在から身を守れることでしょう――――』


 それはディーテ様の言葉でした。彼女がわたくしを心配し、一万という神力を使ってまで祝福を与えてくれたこと。


 ということは、サラは悪い子でしょうか? わたくしでも悪に染まりきれていないというのに、サラは悪だと認識されているのですか?


 身体の自由が奪われない事実は、わたくしに妙な嫉妬を覚えさせております。


「お父様、この盾は邪悪なものに取り憑かれているようです」


『あーしは大精霊って言ったっしょ!? 邪悪じゃないし!』


 脳裏のサラは否定しますけれど、現状で身体を乗っ取られていないのは祝福のおかげだとしか考えられません。つまりは悪しきものであるはずですの。


「なんと! ヒナは大丈夫なのか?」


「ええまあ、何とか。どうやら封印に綻びがあるようです。補助的な封印を施しましょう」


『やめてぇぇ! あーしはもう暗くて狭いところが嫌だし!』


 封印式の修復はできそうにありませんが、補修的な二重封印ならはわたくしにも可能ですの。けれど、大精霊サラは自身の悲痛な立場を訴えて、再封印しないようにと願っております。


「どうしましょうかね。悪しきものは狭くて暗い盾に再封印されることを望んでいないようです」


「お嬢様、悪しきものにまで慈悲をかける必要などございません。このようなときまで聖女っぷりを発揮しないでくださいまし。さっさと封印術式をお願いします!」


 エルサは反対であるみたいね。わたくしが聖女かどうかは兎も角として、人に取り憑こうという邪悪にまで優しくする必要はないとのこと。


「エルサ、わたくしの部屋にある魔道書を取ってきてくれない? 一冊だけ残ってるはず」


 ここでエルサに指示を出します。出立の時だというのに、まるで忘れ物でもしたかのように。


 直ぐさまエルサは行動してくれます。彼女は数分も要せず、自室に残されていた魔道書を手に戻って来ました。


「これでしょうか?」

「そうそう、これですわ。必要ないかと思ったのだけど、使うべきは今なのでしょうね」


 魔道書には主従契約魔法と記されております。何となく嫌な予感がしていたのか、エルサは問いを返していました。


「お嬢様、もしかして悪しきものと契約するつもりでしょうか?」


「悪しきものと言っても、少し拗らせただけよ。ずっと狭くて暗い場所に封印されていたのよ? だったら契約をして封印が解けたとしても、悪さをしないようにすればいいだけですわ」


「しかし、闇属性でも付与されてしまえば、聖女として認められませんよ!?」


 契約は魂の共有ですの。よって、悪しき属性が付与される可能性を否定できません。


「大丈夫です。彼女は大精霊サラ・マン・ダァァと名乗っておりますし、火属性はわたくしの基本属性の一つですから」


「でも、嘘を言っているやもしれませんよ!?」


 必死に諭すようなエルサですが、生憎とわたくしはもう決めたのです。


 決断は割と早いほうですし、一度決めたことは最後まで頑張る。転生をしたわたくしは、ずっと心に言いきかせておりました。ここも直感を信じて、わたくしはサラと契約しようと思いますの。


「始めます。大精霊サラ、わたくしに仕える気があるのなら、自由を与えます。綻びを帯びた封印を解除してあげましょう」


『本当!? でも、あーしは大精霊! 人なんかに仕えるような小物じゃないし!』


 話し方は子共っぽいのですけれど、やはりプライドがあるのでしょう。わたくしは小首を傾げたあと、願うように続けました。


「美味しいクッキーをあげるわよ?」


 仲良くなるには食べ物が一番です。教会にいる孤児たちはお菓子をあげると大喜びしますの。きっとサラも心を開いてくれるはず。


 サラとの遣り取りが分からぬエルサとお父様はまたもや目が点になっております。悪しきものを子供のように扱うわたくしが信じられないのかもしれませんね。


 ところが、サラは何も答えてくれません。どうしてかしらね? クッキーでは流石に子供っぽいと拗ねているのかしら?


 思案した結果、わたくしは閃きましたの。


「飴玉もありますけれど?」


 エルサとお父様はポカンとしております。さりとて、サラの声が聞こえない二人には仕方のないことでしょう。


 やはり飴玉ですわ。何度考えても正解だと思いますの。クッキーでは手が汚れてしまいますし、きっとサラはお洋服に食べかすが付いてしまうことを気にしているのですわ。


 しばらくして、サラの声が心に響きます。


『契約するし!!――――』


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