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煩悩まみれの聖職者と女子高生(悪役令嬢)だけで世界を救うって本気ですか? 〜終末世界は残念な二人に託されました〜  作者: さかもり
第二章 各々が歩む道

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悪霊たち

 俺は頭を抱えていた。ミアもまた死んでいるのだ。男女交際なんて望みは今さら叶うはずがない。


「ああ、分かった。お前たちの望みはもう叶わん。よってお前たちはこの場で除霊する。悪く思うなよ?」


『ま、待つのじゃ! 妾のナイスバディを好きにして良いぞ!?』

『待ってください! 私と交際していただければ、成仏できるかもしれません!』


 ここにきて地縛霊二人の意見が一致。除霊は待ってくれと頼み込んでいる。


「悪霊の都合など知らん! 成仏せよ!」


 俺は問答無用で浄化魔法を実行する。

 レベルアップにて大幅なステータスアップがあったのだ。浄化魔法はまだ熟練度が低かったけれど、祓うくらいはわけないだろう。


 刹那に俺の手の平から目映い光が現れ、地縛霊二人を包み込んでいく。ロッドを携帯していない現状では充分な効果が見込めないけれど、俺はリトルドラゴンの魂強度を奪っているのだ。ショック死したり、泉で溺死したりするような霊くらい余裕で祓えるだろう。


『ぐあああ! 妾はまだ爆乳を根絶しておらぬぅぅ!』

『い、いやぁぁっ! あんなことやこんなこと、まだ経験してないんですぅぅ!』


 悪霊にありがちな最後である。利己的な理由しか存在しない彼女たちに生きる価値などない。


 程なく浄化魔法が解けた。既に輝きは失せ、浄化の術式により除霊できたはずである。


『んお? 妾はまだ消失しておらんぞ!?』

『わ、私もです! きっと神様があんなことやこんなことを経験するようにと……』


 どうしてか二体共が除霊されずにいる。おかしいなと首を傾げながら、俺はステータスをチェックしてみた。



【名前】クリエス

【種別】人族

【年齢】16

【ジョブ】クレリック

【属性】光・闇

【レベル】15

【体力】52

【魔力】38

【戦闘】41

【知恵】29

【俊敏】16

【信仰】40

【魅力】22(女性+160)

【幸運】3



 なぜかステータスが四分の一になっている。レベルは変わっていないというのに、俺は弱体化していた。加えて、どうしてか属性に闇が追加されている。


「どうしてこうなったんだ?」


 不思議に思った俺だけど、ようやく真相へと行き着く。



【付与】

・貧乳の怨念[★★★☆☆]

・女難[★★★☆☆]



 魂に付与されていた【貧乳の呪い】が強化され【貧乳の怨念】となっている。加えて呪いの類は両方がランクを上げていた。


 弱体化した今も男性の平均値より強くあったけれど、俺は魔王や邪竜を討伐しなければならないのだ。このステータスダウンは今後に不安を覚えさせている。


「これって地縛霊がパーティーメンバー扱いとなっているのか?」


 そうとしか考えられない。貧乳の呪いが強化された原因は恐らくイーサの爆乳根絶願望だろう。また地縛霊の二人は双方が巨乳とカウントされ、★1から★3になったのだと思われる。


「祓えなかった原因は恐らくステータスの低下。浄化魔法の熟練度もあるだろうけど、このステータスじゃ……」


 ずっと治療院で働いていた俺なんだが、呪われたり取り憑かれたりする患者は少なく、浄化魔法の熟練度上げが満足にできなかった。まさか自分自身に必要となるだなんて考えもしないことだ。


「しかし、こいつら考えていたより強力な悪霊だな。ステータスが低下したとして、俺が祓えないなんて……」


 ジッと二人を睨み付ける。そもそも霊自体に問題があるのではないかと。並々ならぬ現世への執着心だけでなく、彼女たちは名を馳せていた人物であり、俺には祓えない魂の格を持っていた可能性がある。


「お前たち、生前について教えろ。俺はこれでも将来を有望視されていたクレリックなんだ。ステータスが下がったくらいで、祓えないなんておかしすぎる」


 まずは目が合ったミアからである。彼女は頷いたあと、遠い昔の記憶を語り始めた。


『私はライオネッティ皇国の娘。ハイエルフの国の第一王女をしておりました。しかしながら、騎士でもあり、常に戦線を転々としておりましたね』


 聞けばミアもまた皇族であったらしい。イーサは女王だというし、二人は共にそれなりの地位とステータスを持っていたに違いない。


「しかもハイエルフときたか……」


 ハイエルフ族はエルフやダークエルフを従え、南大陸に堂々と国を構えている。明確にエルフの上位種であり、魔法の適性はずっと高かった。


「それでミアのジョブは何だ? 戦線を転々としていたらしいが……」


 踏み込んだ話をしていく。既にミアを祓えなかった原因は明らかであったものの、疑問は解消しておくべきなのだと。


『お恥ずかしながら、ネクロマンサーです……』


 返答には唖然としてしまう。ネクロマンサーは高位ジョブである。人族社会においてはシャーマンと並んで忌み嫌われるジョブなのだが、死霊や死体を意のままに操るという闇属性でも強力なスキルを持つジョブであった。


 しかし、おかしなことである。彼女が返答通りにネクロマンサーであったのなら、一つの疑問が浮上してしまう。


「お前はネクロマンサーなのに霊体に取り憑かれ、殺されたっていうのか?」


『口惜しや……。不意打ちでさえなければ、このような貧の者に……』


『バーカ! バーカ! 胸に栄養を取られすぎなんじゃ!』

『何ですって!?』


 またも喧嘩が始まりそうになるけれど、俺は二人の間へと入り、邪魔くさい事態を回避。更にはイーサを睨んでは考え込んでいる。


『なんじゃ……?』


 愛らしい顔をして、ネクロマンサーに取り憑いてしまうサキュバスの霊。明らかに異常な話である。


「ハイエルフのネクロマンサーに取り憑けるってことは……」


 導かれる結論は一つしかない。一人旅をしていたハイエルフよりも、確実にイーサが上位者であること。死因はショック死という馬鹿らしいものであったが、実のところ、この三人で一番の強者なのだと分かる。


「おいイーサ、お前の生前はただのサキュバスじゃねぇだろ?」


 薄い目をして聞く。もう間違いないとさえ考えている。正直に最悪の状況まで俺は覚悟していた。


『妾か? ジョブは魔王候補であったの――――』


 やはりそうかと頷く。恐らくは天界で聞いた千年前の危機。魔王が誕生寸前であったとディーテ様が話していたのだ。


「これは名も知らぬ男に感謝だな……」


 やはり巨乳好きに悪はいないのだと思う。まさか魔王候補を精神攻撃で討伐してしまうなんて、選ばれし勇者でもできないことだろう。


「てことは、ハイエルフの王女殿下と元魔王候補に俺は取り憑かれたってわけか……」


 落胆を通り越して笑うしかない。この先に除霊しようにもステータスが不足しすぎているのだ。魂の格が上回らない限り、俺に彼女たちを祓う手段はないだろう。


「お前たち、泉に戻れよ?」


『嫌じゃ! お主からはとても良い匂いがする。極上の精力を持っておるはずじゃ! 妾はお主についていく。仮にお主が死んでも一緒におるからな! お主は今より妾の婿となるのじゃ!』


『私も貴方様と共に。私の姿が見える殿方は非常に稀有な存在です。一目見てこの人だと思いました。どうか私の旦那様となってくださいまし!』


 なぜか地縛霊の二人に言い寄られてしまう。祓えないのなら、離れてもらおうと考えただけであるのだが、妙に懐かれてしまったようだ。


「ちくしょう。女難ってのは霊体にも有効なのかよ……」


 二つランクアップしたことにより、女性に対する魅力値の補正は+160と四倍である。恐らくは近くにいる女性の数だけ倍々になるのだと予想できた。また以前よりもトラブルに見舞われやすくなっているのは明らかであろう。


『妾のことはハニーと呼ぶのじゃ、婿殿!』

『旦那様、私は地獄の果てまでお供いたします!』


 即座に切り捨てたいと思うも、俺には祓えないし、断り切れない理由もあった。

 なぜならイーサはギガメロン級であり、ミアは超ドデカカボチャ級なのだ。周囲に巨乳女子がいた経験のない俺は、たわわに実った絶景を失いたくなかった。


「お前たちは何ができる? 俺に憑依したってことは依り代である俺が失われると、お前たちも同時に失われるんだぞ? 何か俺を守る特別な力を持っているんだろうな?」


 とりあえず聞いておかねばならない。大きすぎるデメリットを補うことが可能かどうか。弱体化した分を彼女たちに任せられるのかどうかと。


『私はお話ししましたようにネクロマンサーですので、この貧乳以外なら大抵の悪霊は使役できますけれど……』


 まずはミアからだ。彼女は魔王以外なら何でも使役できると言いたげである。


『妾は何もできんな……』

「えっ?」


 意外な話に俺は眉根を寄せる。魔王候補だなんて災禍にも等しい。淫夢を見せるだけのサキュバスがなれるジョブではないというのに。


『世界征服くらいしか……』

「充分な脅威だからな!!」


 やはり名も知らぬ男に感謝である。魔王化する前に食い止めた勇敢な男について、世界はもっと知るべきだと思う。


「じゃあ、俺の旅に同行しろ。俺は世界を救う役割を担っている……」


『ほう、婿殿は救世主じゃったか! 流石は妾のダーリンじゃ!』

『素敵です! ぽっ……』


 好意を寄せられるのは嬉しく感じるけれど、二人は既に死人である。迷える魂に好かれたとして、虚しいだけであった。


 長い息を吐きつつも、俺は気持ちを切り替える。祓えないのだから仕方がないことであると。


 俺は再び立ち上がっていた。夜中ではあったが、既に目は冴えている。

 目指すはレクリゾン共和国内にある港町エルス。俺はそこで冒険者となり、旅の軍資金を稼ぐつもりだ。


 悪霊ともいえる二人を引き連れて俺は歩き始めている。


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